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第五話 狂刃

騎士side

 入団式でのこと、当時入った中では最も成績の良かった俺が騎士団長である父と模擬戦をした。


「くっ」

――キィン

「はっ!?」

 一瞬の隙を突かれ剣を弾き飛ばされ、首に剣が添えられる。


「はぁはぁ……っ参り、ました」

「まだまだ。だな」

 息を荒くして、膝をつく俺とは対照的に父からは全く疲れが感じられない。


(くそっ!)


 父は一歩も動くことなく俺の剣を全て受けきった。

 俺は何も出来ずに、ただただ父との圧倒的な力量差を痛感するのみだった。


 あれからは来る日も来る日もあの時の屈辱を思い出しては、欠かすことなく剣を振り続けてきた。

 そして今日、年の終わりの勝ち抜きトーナメントの日。

ここまで順当に勝ち上がり、残すは騎士団長――父のみとなった。


(こんどこそ、倒してみせる……)


「よろしくお願いします」


 対峙する父が山のように大きく見えた。

――一瞬、入団式のことが思い出される。

何もしていないはずなのに息が荒くなり、心臓の鼓動がやけに聞こえてくる。


「来ないのか?」


 父の声にはっと動かされ、精細な動きを欠いたデタラメな剣筋で飛びかかってしまう。


――その後はあの時と同じ、全ての剣を受け流され、疲れて握りの甘くなった剣を弾かれた。


 周りから、他の騎士たちの落胆の声が聞こえる。

 父は決着がつくと何も声を発さずさっさと会場から出て行った。


(何もできなかった。あれだけ練習を重ねこの日のために頑張ってきたというのに……俺では、父には勝てないのか……)


 そんなことを考え、半ば自分で自分の限界を決めかけていた。

 弾かれた剣を拾いに行くとそこには少女と使用人らしき人がいた。

 当たっていたら大変だと思い、声をかけながら近寄っていく。


「大丈夫ですか。お怪我は……」

 途中で少女の、特徴的な銀髪に気づいた。


(姫様!? どうしてこんなところに)


「も、申し訳ありません姫様。お怪我はございませんか!」


 顔を上げると、彼女の深紅に染まった瞳が弾かれた剣を真っ直ぐに見つめていた。

 この国で真祖のことを知らない人はいない。

 恐らく飛んできた剣のことについて怒っているのだろう。


(終わった……)

 本気でそう思った。


 どんな罵倒の言葉が聞こえてくるのかと身構えていると――


「そんなの……でいいです……さっさと……抜いて……行っ……さい!」


 一瞬、何を言われたかわからなかったが彼女の堂々とした態度、真剣な眼差しから察した。

 彼女は飛んできたことに対して怒ってるんじゃない。

 俺の心の甘さに怒っているのだと。


(「そんなことでいいのか。さっさと父親くらい抜いてみせろ!」)


 俺の心を見透かして、そう発破をかけてくださっていたのだと。

 飛んできたことに対して怒っているのならあんな真剣な表情で話さず、もっと感情的になっていてもいいはずだ。


 実際、ディアナは感情的であったが恐怖のあまり硬直して、真顔になっているだけであった。


(俺みたいな数いる中の一騎士のことでこんなに怒って、考えてくれているなんて……)


「分かりました、姫様。これからはより一層、己の研鑽に励み……いつか、いつか必ず……父を追い越して見せます!」


(姫様が真剣に怒ってくださっているのに俺が諦めるわけにはいかない。必ず……父を越えてみせる!)


 姫様は俺を励ますと、俺の返事に満足してくださったのか足早に会場を出て行かれた。


今までは国や陛下や民、誰のために日々の訓練に勤しんでいたのか自分でも漠然として定まらなかった。

しかし、今は……


 (この御方しか見えない)


 誰かのためではなく、ディアナのために今日よりさらなる鍛錬に励むラインなのであった。

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