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第四話 狂刃

「いかがでしたか、お嬢様」

「おもろい」


(いや~なかなか面白い話だった)


 ヴァンパイアだとか、少女の成り上がり展開とかまるでラノベのような話だと思った。

 しかもこれが全部実話だと言われているのが驚きだ。

 真祖とかなんか中二チックな存在もいるっぽいしテンション上がる。


「マリア、マリア」

「何でしょうかお嬢様」

「いま、真祖、いるの?」

「ど、どうでしょう、いるんじゃないでしょうか」

 マリアにしては珍しく、歯切れが悪かった。


「ところで、次はどれにいたしますか?」


 そういうとマリアは一瞬でいくつもの本を並べる。


(おおっ! まだこんなにも)

 マリアの巧みなテクによって僕の意識はまた本に戻ったのであった……


 本の読み聞かせで午前中は終わり、昼食を摂った後はかねてより考えていた探索をしようと思う。


 (リスニングは完璧、単語だけど言葉も話せるようになったから準備は万端……のはず!)


「マリア」

「何でしょうか、お嬢様」

「探索へ、行こう」

「かしこまりました」


 実際のところ探索という名目の散歩であるが、僕の真の狙いは同年代の友達づくりにあった。

 思い返すと前世では十三年間もの負の期間を過ごし、やっと友達ができたと思ったら殺されたりと悲惨な人生だった。

 だからこそ今生では多くの友達を作り、前世での悔いを晴らしたい。

 そんな想いを胸に抱きながら今、希望への一歩を踏み出し……


(あれ?)

 ドアノブが見当たらない。

(ああ、そうか)

 ぴょんぴょんとその場で跳ねる。


 ガチャッ。


「ん?」

「どうぞ、お嬢様」

「……」

 何とも言えない一歩を踏み出した。


 マリアが付いてきてくれているから帰り道の心配なく歩き周れる。


(さて、どこに行こう)


 といっても何処に何があるのかさっぱり分からないから、気ままに彷徨うしかないのだけど。

 僕が今住んでいるところはお城で、窓からは城下町が見渡せた。

 さすが、いくつもの国を統べる皇帝の城ということもあり長い廊下にいくつもの部屋、高そうな壺や鎧など日本ではめったに見られない風景がそこら中に広がっていた。

 時々、使用人らしき人たちともすれ違う。


 カッ、キン。


 当てもなく歩いていると、どこかから何か金属がぶつかるような音が聞こえてきた。

 気になり、音の聞こえた方へと駆け寄っていく。


「お嬢様、そちらは――」

 マリアの何か焦ったような声が聞こえた気がした。


 中に入ってみると騎士たちが段状になった席にまばらに座り、二人の騎士が会場の中央でお互いに剣を合わせていた。


「お嬢様、こちらは危険です。早く出ましょう」


 剣を見ていると、死んだ時のことが思い出され冷や汗が出てくる。


(あれが刺さったら……)


 と、そんなことを考えていると――


 カーンッ。


 演習場に一際大きい音が響き――


 ザクッ。


 跳んできた剣が僕の足元に刺さっていた。


(ひぃいぃぃぃぃぃいい!?)

 剣を飛ばされた騎士が駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか。お怪我は……」


そのとき、騎士は何かに気づいたようなはっとした表情を一瞬浮かべた。

「も、申し訳ありません。姫さま、お怪我はごさいませんか!」

 騎士は慌てながらもキレのあるお辞儀をし、恭しく謝ってきた。


 その間、僕の目線はずっと剣に固定されていた。

 そしてなんとか騎士を見て固まった表情筋から口を動かしていく。


「そんなの……でいいです……さっさと……抜いて……行っ……さい!」

(そんなの後でいいですから。さっさと剣を抜いて行ってください!)


 僕の顔は恐怖で固まってしまい、思うように声が出てこなかった。

 そんな僕のカタコトで意味不明な言葉を聞いた騎士は何故か、晴れ晴れとした様子であった。


「分かりました……姫様。これからはより一層、己の研鑽に励み……いつか、いつか必ず……父を追い越して見せます!」

 しかも何か分かってなさそうなことを言っている。


(本当に何を言っているんだ?)


 一向に剣を抜く気配がないためマリアの手を取って、剣の方を見ずにできる限りの早足で入り口に向かって逃げ去った。


(僕を怖がらしておいて、何であんなにうれしそうだったんだ。まさか――剣が飛んできたのもわざとで――僕の怖がる表情を見て……喜んでいた?)


 そう考えると一気に鳥肌が沸いてきた。


(疲れた……今日はもう帰ろう)


 少しばかり人間不信になったディアナなのであった。

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