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第二話 真祖

 マリアはディアナの深紅に染まった瞳を見ると、急いで皇帝陛下の部屋へ向かった。


「すー、はぁー」

 深呼吸をして興奮気味の心を落ち着かせてからドアをノックする。


「誰だ」

「ディアナ様の乳母、マリアです。至急お耳に入れたいことが……」

「入れ」

「失礼します」


 部屋の中には陛下、それと宰相のジーク=ハルトがいて、二人で何やら話していた様子が如何える。

「何があった?」

「お嬢様の瞳が深紅に、おそらく……"真祖"ではないかと」

「何っ!?」

 瞬間、陛下と宰相が揃って驚きの声をあげる。

「それは本当か?」

「はい、確かに」

「しかし、ディアナはまだ生まれて間もないはず……」


 彼らが疑うのも無理は無い。

 そもそも"真祖"という存在が発生するのは、かなり希なことでここ五百年間は発生していなかった。

 通常、"真祖"だと発覚するのは自我が芽生える頃から、早くても一年はかかることが歴史の中で分かっている。

 今回、生後まだ一ヶ月経つかどうかといったディアナになぜ真祖の証である瞳の一時的な変色が見られたのかというと前世の記憶が戻ったからだった。しかし、彼らにそれがわかるはずもなかった。


「陛下、ぜひ一度ご確認を」


 しばし頭を悩ませるが、考えていても何も決定的なことは得られない。


「わかった。すぐに行こう。ジーク、お前も来い」

「はい」


 本当に証が見られたのだとしても、瞳の変色は一時的なものだ。

 それ故、彼らは駆け足気味にディアナの部屋へと向かった。


 部屋に着き、すぐにディアナの瞳を確かめる。

 すると、そこには暗闇において爛々と輝く二つの深紅の瞳があった。


「まさか……本当だったのか……」

 陛下の表情が歪む。


 真祖の特性は二つあるといわれている。


 一つ目に極度に感情が絶望や、怒り、喜びなどに極端に傾いたときに起こる、瞳の一時的な変色。


 二つ目におよそ五百年を生きるその寿命の長さ。

 見た目は二十代前後で止まり、そのまま死ぬまで老いが表面に出ることはない。


 五百年も生きるとなると、普通の人より多くの別れを経験することになる。

 そのことを憂い、陛下は悲痛な表情で娘を見つめていた。

 

「陛下」

 ジークは何かを訴えかけるかのように視線を送った。

「ああ、分かっている。よりにもよってディアナから真祖が出るか……」


 この国の成り立ちを考えると、真祖で女性ともなれば次期皇帝にと推す声が生まれることは確実だ。

 しかもディアナは現皇帝の娘。位的にも問題はなかった。


 皇帝は投票対象をある程度絞った後で全ての民による投票によって決定される。

 大陸の中央部をオリジンと呼び、北をノース・オリジン、南をサウス・オリジン、東をイースト・オリジン、西をウェスト・オリジン。

 その中でノース・イースト・ウェストそれぞれの公爵家が有力だとされていた。


 サウスはというと現皇帝の妻はディアナを生んですぐに亡くなり、皇帝は妾をとることもないため次の座は狙っていないと取られていた。


そして、サウス・オリジンの今の代表は皇帝の弟、つまり代理でしかなかったため、有力視されていなかった。


しかし、ディアナが真祖であったことでそれらは覆る。


 帝位を狙えることが分かったらディアナの命まで狙われかねないが、真祖の特徴は隠し通せるようなものでもなかった。若い頃には特に、感情が振れやすい。

 隠そうとするならずっと閉じ込めておくくらいしか方法はないだろう。


 それ故、皇帝の決断は早かった。


「このことは公に公表する。手配は任せる、ジーク」

「はっ。承知しました」

「マリア、引き続きディアナの世話は任せた。ディアナの……」


「うぇぇえん!」

 その泣き声を聞き、マリアが慌ててディアナを抱き寄せる。

 マリアが揺さぶるにつれ泣き声はおさまってゆき、徐々にディアナの瞳は元の金色に変わっていった。

 泣き止んですぐ、ディアナは眠りについた。


「マリア、ディアナの成長と共に真祖のことは伝えていってくれ」

「かしこまりました」


 穏やかな寝息が聞こえてくる。

 その安らかな表情を見て、今はただ誰もがディアナの将来の安息を願っていた。

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