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第十六話 賢者

エルドside

「ふむ、並外れた知能を持った真祖……のぅ」


 手には一通の手紙。

 そこにはディアナの並外れた逸話、それと家庭教師への誘いをむねとするものが書かれていた。


(チェスの動きをいちど聞いただけで覚えたなどと、にわかには信じがたいことじゃが……まぁ真祖というだけでいちど見てみる価値はあるかの)


 この手の誘いは頻繁に来ており、すこしでもこちらの興味をひくために子供の能力を誇張することも珍しくはなかった。

 そんなときはいつも相手に合わせた範囲において応用を効かせた難しい問題を出し、できなかったところで自分が教えるほどではないと言って断っていた。


 このときもいつもと同じだろうと思い、特に期待せずに手紙で登城までの打ち合わせを行っていった。


――当日、わずかに必要なもののみを持ち、城へ出向く。

 城の間近、門前には二人の騎士が立っていた。


「お待ちください。本日はどのような御用で?」

「ディアナ様の教師として呼ばれたのじゃが」

「少々お待ちください。確認しますので」


 そう言って騎士は手帳をめくっていく。

 待っていると、もう一人の騎士が唐突に話しかけてきた。


「あの、もしかして賢者様では……」

「そうじゃが、どこかで会ったことでもあったかの?」

「やはりそうでしたか。いえ昔、いちど見たことがあっただけですが、賢者様に会えるなんて光栄です」

「ほっほ、そんな大層な人間ではないて」

「あの、確認がとれましたのでどうぞお入りを」

「うむ、ではの」


 城へ入っていくなか、後ろから騎士たちの声が聞こえてくる。


「なぁ、ライン。さっきの……あの賢者様なのか?」

「ああ。さすがディアナ様だな。賢者様が教師なんて」


(わしも偉くなったものじゃな。それにしても一騎士にさすがと言わしめるとはのぅ……)


城へ入り、待ち合わせの場所へ向かう。


(相変わらず無駄に長い廊下じゃの)


 昔は城に勤めていたということもあり、なにかと懐かしく感じられた。

 廊下を歩いていると前方から見知った顔がこちらに歩いてくる。

 相手もこちらに気づいたようで声をかけてきた。


「ご無沙汰しております、エルド様。」

「久しいの。ジークよ」

「ええ本当に。ところで、本日はどのような御用で?」

「ディアナ様の教師にとよばれての」

「ディアナ様のですか?」


 困惑したような表情でそのように聞いてくる。


(当然の反応かの。ディアナ様の年でわざわざわしが教える必要もないからの)


「まぁ、おそらく一日だけじゃろうがの」

「そう、ですか……」


 納得していないような表情であった。

 なんとも言えない空気になり、少しの間があった後におもむろにジークが口を開いた。


「あの……私たちは間違えていないでしょうか」

「……わしはなんとも言わん。これからはおぬし等の時代じゃからの。自信を持て、わしはすでに十分な知識を与えた」

「……はい」

 弱気から一転、力強い意思の感じられる良い返事だった。


「うむ。待ち合わせをしとるから、そろそろの。本当に困ったときは何でも聞いてくれてよい。達者での」

「はい、エルド様こそお元気で」


 ジークと別れ、目的地へ向かう。

 待ち合わせの部屋に入り椅子に腰を下ろす。


「ふぅ」


(久しぶりにこんなに歩いたのぅ。疲れた。年のせいなんじゃろうか)


 少し待っていると手紙の差出人と見られる女性が現れた。


「お待たせして申し訳ありません、賢者様」

「よいよい、わしも今来たところじゃよ」

「お心遣い感謝いたします。それでは、さっそく授業をお願いします。こちらについてきて頂けますでしょうか」

「うむ」


 女性の後について歩いていく。


「こちらです」


 部屋に入るとそこには全体的に白いシルエットの中において金色の瞳が印象的な少女がいた。


「お嬢様、こちらはエルド=ヴォルク様です。本日、私の代わりに座学を受け持っていただけることになりました」

「お初にお目にかかる、ディアナ様。わしのことは気軽にエルドとでも呼んでくだされ」

「う、うん……」


(人見知りをするタイプなのかの)


「では、授業を始めるとするかの。前回は……ここら辺まではやっておるのか?」

「そう、そこ」


(進み具合だけを見ると確かにすごいものじゃな)


「始めてまだ一ヶ月もたっておらんのじゃろう?」

「うん」


(しかし、重要なのは理解が出来ているかどうかじゃ)


「かなり早い進み具合じゃが、しっかり理解できておるのか?」

「もちろん」

「ほう、ではさっそくじゃがこれをやってもらおうかの」


 そう言ってテスト用紙を渡す。

 もちろんそのテストでは事前に聞いていた範囲を完全に理解していなければ出来ない、応用問題ばかりを出題している。


(これの半分もできんとなると話にならんからの)


「では、始め!」


 カキカキカキ……


(早い、しかしあんなスピードで本当に解けとるはずが……)


「できた」

「む、はやいの。どれどれ……こっ、これは……全問正解、じゃの……」


(これは……手紙の内容は全て本当のことだったと見るべきかの……)


「ふむ、これなら……」


(本当に、わしが受けもってもいいかもしれんの)


「ん?」

「いや、気にするでない。こっちのことじゃ。次は確か戦術じゃったか。今までのただチェスをするだけの授業はせんから気を引き締めて臨むようにの」

「ん」

「この授業ではあらゆる状況を想定し、それに応じた最善手を考えていくことが目標じゃ。黒板にその状況を書いていくから、どうしたらいいかディアナ様は考えてくれるかの」

「わかった」


(これは本当に地頭が試される授業じゃからの。これで秀才か、はたまた天才かも見極められることじゃろう)


 チョークで黒板に問題を記述していく。


(この問題は互いに条件が全く同じという性質上、指揮官の腕が特に関わってくるものじゃの。ディアナ様は一体、どんな答えを出すかの……)


「どうじゃ、なにか思いついたかの?」


(さすがに荷が重かったかの)


「最初じゃ、間違っていて当たり前なのじゃから気負わんと言ってみい」

 そう言うとディアナ様はためらいがちに答え始めた。

「えっと、攻める?」


(ほう、攻めるとな……)


「何人でじゃ? 全員でかの?」

「ひゃ、百人くらい……」


(これは、もしや……)


「百対五百では勝てんと思ってしまうのじゃが?」

「じゃあ……」

「ふむ」

「……戻る」


(やはりか! わずかな兵で敵を挑発し、川を全軍で渡ってきて指揮が下がったところを討つ。全くの素人がこれほどの回答をするとは……)


「ふぅ……」


(これは、決定じゃの)


「お見事。正解じゃ。試すようなことばっかりしてすまんかったの。ディアナ様のことをみくびっておったわい。間違いなく、ディアナ様は天才じゃ」

「本当?」

「本当じゃとも。まわりに比較対象がおらんから気づかんかもしれんが、わしが言うのじゃから間違いない」


(今では、学園でよく子供たちの授業をしておるからよく分かる。明らかに同世代より抜きん出ておる)

「マリアさんや」


「はい」

「家庭教師の件、正式に受けさせてもらおうかの」

「本当ですか! ありがとうございます」

「ディアナ様のこの吸収力、成長スピードからするに学園で教わる範囲ていど二年もあれば余裕じゃろう。しかし、わしもなにかと忙しいから毎日はこれん。その代わり、宿題をだしていくからそれを解いてもらうということでよいかの」

「はい、そちらでお願いします」

「うむ。これからよろしくの、ディアナ様」

「う、うん、よろしく……」


(これからが楽しみじゃの)

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