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ラフライフ! -底辺空手家アイドル下克上‐  作者: 甘土井寿
一章 写真のストーカー編
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第7話 マネのお仕事!

前回のあらすじ:カジ、やっぱりマネージャーやるってよ


 早朝6時。まだ辺りは薄暗く底冷えする空気の中、スポーツウェア姿の男がひとり公園の広場に佇んでいた。空手の鍛錬に励むカジであった。


「コオオオオ……ッ!」


 「息吹」と呼ばれる空手特有の呼吸法。乱れた息をすぐに整え、運動能力を安定させるために用いる。


「……ハッッ!」


 呼吸が整うと正拳突きを虚空に繰り出す。正拳突きは空手道全流派の基本中の基本技である。早朝に空手の鍛錬、特にこのような型稽古を行うのはカジの少年時代からの日課であった。


「…………ハッッ!!」


 カジがミナミティのマネージャーに就任してはや3日。「え? 自宅から学校まで車で30分? だめだめ! マネージャーはアイドルと一心同体……彼女たちの活動に1秒でも早く対応できる場所に住んでいないと! 部屋はアタシが用意してあげるから!」とのプロデューサーからのお達しで、カジは自宅をミナミティの活動拠点である横浜市風見区に移していた。新居はミナミティのメンバーが通う山手米洲(やまてべいす)女学院にほど近い木造アパート(築30年・1K・共益費込み月3万)の一室。室内には十全に稽古を行うスペースはないので、このように近場の公園まで足を運んでいるのだ。


「ふう~……ハッッ!!!」


 奇をてらわず学んだ動作の反復を全霊でもって行い、これを継続する。カジはこの方法こそ強さを持続するための唯一の手段であると信じ、毎日欠かさず稽古を行っていた。しかし、この日の鍛錬にはとかく集中力を欠いた。


(……とりあえず食い扶持を確保出来たのはいいが……あんな仕事内容で果たしてやっていけるのだろうか? 今更になって不安になってきたぜ)


 初出勤の時のアレやコレやを思い出す。あの時は勢いで仕事を快諾したものの、未だ胸中の不安を払拭するに至ってはいなかった。カジは乱れた精神を安定させようと、中腰の構えのまま目を閉じる。


(ストーカーの撃退、芸能界への下克上……まだ頭が整理し切れない……しかし、あのプロデューサーは一体何者なんだ? 俺の住みかもたった1日で用意するし、大人たちとも対等に交渉……それに、あの心を見透かすような目は一体?)


「だーるーまーさーんーがー……」

「ん?」

「転んだ!!」

「ううおッ!?」

 目を開けると目前には一人の少女が迫ってきていた。カジは驚き、後ろに飛びのく。


「いやーどこまで近づけば気づくのかと思ったけど……まさか目の前にいくまで気づかないなんてねえ、アハハ」

 少女は心底愉快そうに笑う。


「は、浜星さん?? っすよね!? い、いつの間に?? ってか何故ここに!?」

 動揺しつつカジは目の前の少女に問いかける。


「ふっふっふ! ハルヒちゃん☆ でいいっすよ! まさかアタシと同じ時間にトレーニングしてるなんてね~……カジマネも結構パワーあるんすねー!」

「パ、パワー??」

「そう、パワー! パワーこそすべての基本、すべての源……パワーイズベリーインポータント、パワーオブドリームス」

「は、はあ……」

 カジは彼女の不思議なノリについていけず、気の抜けた相槌を打った。少女の名前は浜星遥陽(はまほしはるひ)。カジがマネージャーをするアイドルグループ・ミナミティのメンバーの一人だ。底抜けに明るく、竹を割ったような快活さでどんな時でも余分に元気──というのが、ファンが運営している応援サイトに記載された彼女の紹介文である。


「つか、あんま一人で出歩かない方がいいんじゃないですか? プロデューサーから聞いてますよね? 例のストーカーの件」

 カジは遠慮がちに聞くが、彼の懸念は神経質すぎだと言わんばかりにハルヒ本人はノー天気な笑顔を崩さない。


「ん~~まあねー。でもこんな朝早くにストーカー屋さんもやってないでしょ!」

 ハルヒはあっけらかんとした様子でそう答える。


「はあ……まあ、そうかもっすけどね」

「それに日課なんですよ、朝体動かすの! 朝、体動かさないとパワー30%減なんす! そんなヘロヘロじゃあ、お客さんの前で満足にパフォーマンスができないですからねえ!」

 取り柄は元気なことです!という定番の謳い文句が本当に取り柄になるくらいの突出した元気さだ。


「はは、確かに体動かさなきゃ元気は出ねえな……だが、それにしても意外と…」

「えっ? なんすか?」

 カジはハッとして言いかけた発言を止める。

「あっ、いや……それより今日はせっかくだから家まで送っていきますよ」

 ハルヒはカジをじっと見つめると、悪戯っぽく笑みを浮かべた。


「それ知ってる! 送り狼ってやつ! 親が気をつけろって言ってた!」

「こんな朝っぱらから送る狼いねえよ!!」

 早朝から元気よく初突っ込みが飛び出す。カジは先ほどまでの悩みなどすっかり忘れてしまった様であった。



 時刻は進み午後1時。ミナミティのメンバー3人とカジは近所にある小学校に集合していた。ミナミティは定期的に地元施設を回って公開練習やイベントを行っており、この日は小学校の児童の前でダンス練習と講演会を行う事になっていた。このミナミティのスケジュールを取り仕切る事が、カジにとって初の対外仕事となる。


  「うわーーミナミティだーーすげえーー!!」

  「あくしゅ、あくしゅ~~!」

  「こら押すなって!」


 体育館に到着すると、集まっていた小学生たちがミナミティ3人の周りに殺到した。ミナミティは地元では有名人であり、子供たちからも高い人気があった。


「こらこら、少年少女たち! 白い線から出てはいけないよ!」

「お姉さんたちはダンスの練習があるからね~。あとで記念撮影の時間もあるから、おとなしくしてましょうね~」

 ハルヒとヒロが慣れた口調で子供たちに対応する。


  「うわーショーコはおっぱいでけー」

  「触らせろー!」

  「やっべえ、ボッキする~」


「あ、あえ……み、皆、衣装には触らないで~」

 もう一人のメンバー、ショーコも子供たちに対応するが他の二人に比べると対応には苦慮している様であった。


「コラ―! パワーがあるのは良いけど、横浜(ハマ)ッ子はクールでいなきゃダメでしょー!」

 ショーコの周りにいた小学生たちをハルヒが追い払う。


「まったく! いい子にしてないと、あそこにいるヤクザのお兄さんが怒っちゃうからねー!」

 ハルヒが体育館の入り口付近に立っていたカジを指さすと、小学生たちが一斉にカジの方を向く。

「あっ、ちょっと、なに適当な事を……」

 真っ黒スーツに迷彩柄のコート、コワモテな顔立ちと目つきの悪さはどう見てもワルいお兄さんだ。


  「うわーこええー! かたぎじゃねー!」

  「ミナミティはやくざのぐんもんにくだっちゃったのー?」

  「おまえどこのクミのもんだ~!」


 テレビの影響か、小学生とは思えぬ物騒な語彙で騒ぎ出す。


「うわ、信じちゃったじゃねえか! てか、小学生なのにお前らよくそんな言葉知ってるな!」

 カジは小学生特有の「静かになるまでの時間」にしばし手を焼いたが、当初の予定から2、3分遅れ程度でミナミティの公開練習を開始させた。


「ったく、スケジュールを予定通りこなすってのも意外と大変なもんだなぁ」

 カジのミッションその1はミナミティのマネージメント業務である。

 具体的にはアキから引き継いだ手帳と書類を元に、彼女達がつつがなく予定を消化できるようサポートを行う。他には共有されたアカウントからメールフォームをチェックしたり、雑多な備品の購入や車での送り迎えなども行う。現時点では外部との交渉事はすべてプロデューサーの仕事であり、彼女たちがスケジュールをこなしている間はミッションその2に備えて周囲を警戒しつつ待機する。 


(ふう……でも始まってしまえば、何もすることがなくなっちまうな)


 ミッションその2はミナミティの身辺警護およびストーカーの撃退だ。

 最重要任務ではあるが、四六時中ストーカーが彼女たちの周りを張っている訳でもなく、ストーカーが現れるまでの間は手持無沙汰の感が否めなかった。カジは体育館の入口で接近する人間をチェックしつつも、周囲に気配が無い間はミナミティの練習をじっと眺めていた。


「ショーコちょっとターン、遅いよー」

「ごめんなさい! 今のところ、ビデオを再生してずれを…」

「うーん、サビ前のジャンプはもーちょっとパワーがあったほうがいいんじゃないかと思ったんだけどさー。こう、ブワッとと言うか、シュバっとというか……」

「あのさ、もうちょっと具体的に言ってくれる?」


 一つ一つのパートにも納得がいくまで確認しながら反復を繰り返す。体育会系・文化系を問わず、競技や実演を伴う活動に取り組んだ事があるものなら誰もが経験する過程。カジ自身も空手に打ち込んだ経験から、彼女たちの練習に打ち込む真摯さには共感を覚えていた。


「ほおー、結構本格的なんもんだなあ」

 しかし彼の声に抑揚はない。彼女たちが芸能界に反抗した話を聞いた時と違い、彼の態度はどこか冷めた印象を見受けられた。いや、冷めているというより彼の口調は、アイドル活動そのものを無意識のうちに一段低いものとして見下している様でもあった。


「うーん……今朝はつい言いかけてしまったが、アイドルってのも意外と…」

「意外と努力してるじゃん、てトコ?」

「おお!? 後ろ!?? プロデューサーいつの間に??」


 突然背後に現れたのは神出鬼没のプロデューサー・アキだ。アキはプロデュース業が多忙のため、しばらく現場に顔を出せる機会は少ないとの事だったが、このようにカジたちの前に突如として現れる事もあった。


「どう? マネージャーの仕事には慣れたかしら?」

「いやあ、ボチボチですかね」

「ふっふっふ! 交渉事は今のところアタシがやるから、カジさんは仕事が少ない今のうちに業務に慣れておくこと……その内もっと忙しくなる時期がやって来るから」

「へい、頑張ります」

 カジは一回り年下の少女に対しても、一応上司と部下の関係という事で敬語を使うようにしていた。アキの方では敬語は不要と伝えていたが、カジは仕事上の一線を守るうえであえてアキの好意は断っていた。


「で、もう片方のお仕事だけど……今日は写真のストーカー達(ヤツら)を見かけたかしら?」

「いや、今のところは……」

「そう……でも警戒は怠らないようにね。私の読みではそろそろ彼らに何かしらのアクションがあるはずだから」

「“読み”ですか……」

 ターゲットは先にも述べたとおり3人の男女だ。カジたちの間では便宜上、彼らを以下のように呼称することにしていた。


  写真のストーカーその1・角刈りリュック

  写真のストーカーその2・胴長爺さん

  写真のストーカーその3・赤い貴婦人


 彼らの写真はいずれもミナミティの参加したイベントで撮られたものであり、彼女たちがアイドル活動をする場に再び顔を出す可能性は高いというのは納得できる推理だった。しかし、カジには解せない点もあった。


「ひとつ質問していいすか?」

「なに?」

「こんなこと言うのもナンですが、こういう手紙って芸能人なら貰うことも珍しくないんじゃないですか? 単なるイタズラって可能性はないんです?」


 考えてみれば当然の質問である。無論警戒するに越した事は無いのだが、脅迫状や殺害予告という類のものは、実行されるケースの方がそもそも稀なのだ。カジは更に言葉を続ける。


「それにこの3人が怪しいって言うなら警察に調べてもらえばいいじゃないですか? まあ確かに警察は信用ならねえけどさ」

「質問が一つじゃない! でも、ま、疑問はもっとも……警察にはもちろん相談してるわ。けど証拠がなければ何も出来ない、怪しいだけじゃ警察は動けないって言われちゃってね」

 推論や憶測で警察は動けない。ストーカー事件では、初動捜査の遅れがとかく批判されがちであるが、その理由は何も職務怠慢だけという訳では無く、姿なき追跡者を断定する事の根本的難しさにも起因していた。


「確かに現時点じゃ物的証拠は何もないからね~」

 カジはアキの発言を訝しむ。


「物的証拠は無い……って、それじゃあ何でプロデューサーにはあの3人が犯人かもって思うんです? 何か根拠でもあるんですか?」

 論理的な根拠があって初めて行動の指針が立てられるはずだが、カジにはアキの行動指針にはそれが欠けているように感じられた。


「根拠ね……」

 アキはあたりをキョロキョロと見渡すと、体育館の中で小学生たちの引率をしているジャージ姿の男性を指さした。


「あそこにいるヒト……この小学校の教師ね」

「あの爽やかそうなお兄さんが何か?」

 アキは20代中ごろの若い男性教師をじっと見つめる。


「チンパンジー……ピンク色の部分がずいぶん大きいわね……ピンクは性的欲求の強さを示し、猿系の生物はズル賢さと工夫、道具の扱いにたけていることを示す……成獣ではなく幼獣なのは自制心の低さ、精神年齢の低さを表している……」

「はあ?」

「つまりスケベ教師ね。教え子をエロい目で見てるロリコンよ」

「ええ!?」

「もしかしたら盗撮とかしてるかも……サイテーの男ね!」

「ひどい! 偏見だ!」

 人を見た目が9割……といっても、見た瞬間にそこまで具体的な評価をされてしまってはたまったものでは無い。まして彼女の判断はあまりにも主観的で、かつ論理的根拠も全くない。つまるところ妄言以外の何ものでもなかった。


「アタシの目はね、人の特性を見抜く力があるの……まあ、大体の性格とか行動原理が分るってだけで細かいことまでは分からないんだけどね」

「オイオイ、それじゃあ怪しい占い師と言ってる事が変わらんぜ! もしかして根拠ってな、その超能力(オカルト)の事を言ってるのか!? 勘弁してくれよ! とてもじゃないが信用出来ないぜ! …………と、言いたいところですが」

 カジはゲームセンターで彼女に見つめられた時の事を思い出していた。


「何故だか分からないですが、プロデューサーの言葉には説得力がある」

 すべてを見通すかのような不思議な目。部室でカジの強さの本質を突いた時もそうであったが、彼女には常人にはない神秘的なパワーが感じられた。


「ふーん、信じてくれるんだ? ヤバい女だとは思わないの?」

「ええ。似たようなこと出来る人が知り合いにもいましたしね」

「へえ、そうなんだ」

 アキは少し驚いた様子であった。


「プロデューサーからもその人と同じ感じがするんですよ……何て言えばいいんですかね? オーラというか神々しさというか……この人といれば何故だか安心できるって言えるような……うーん、上手く言えないですけど、特別な感じがするんです」

「…………そ、それ、誰にでも同じこと言ってるわけじゃ無いでしょうねぇ?」

「へ??」

「いや……ま、いいか」

 アキはおもむろに自身の不思議な能力について話し出す。


「昔っからね……目を凝らすと人の後ろに色々な動物が見えるの」

「動物っすか」

「犬とか鳥とか猿とかね……人によって色や種類や大きさが違うんだけど、いつからかそれが人の性格や特性を表しているんだって事に気が付いたの」


(「ねえ! お父さん、ここは蛇だらけだよ! あの人たち悪い人だよ!」)

(「コラ! アキ、お前なんてことを言うんだ!」)


 アキは忌々しい記憶を辿りながら、カジに己の手の内を晒す。傍から聞けば完全に電波な発言であるが、カジは彼女の話をしごく真剣に聞いていた。


「……すごく良く当たる動物占いみたいなもんですかね」

「そう思ってもらって構わないわ。ちなみに私はその動物を人格獣(アニマ)って呼んでるの」

 アニマ:anima──ラテン語で魂を指す言葉である。英語で動物を指すアニマル:animalも元々はラテン語のアニマが語源だ。


「この能力を知っているのはミナミティのコたちを含めてごく僅か……もっとも、説明したとしても誰も信じてくれないけどね」

 模範的な市民であれば、このようなオカルト話を信じる方がどうかしているだろう。カジにしてもアキを目の前にしてようやく半信半疑よりはマシ、六信四疑という程度だ。


「ふぅん……よくは分らないですが便利っすねー。それがあれば一目で誰がどんな奴か分かるって事ですもんね」

「そう、確かに便利ね。特に今回みたく危険人物を判定するのには大いに役立つし……ただ、相手がどんな人間か分かっていても何を考えているかまでは分からないから万能というにはほど遠いんだけどね」


 相手の性格や特性が分かるのは、言うまでもなく現代社会において大きなアドバンテージである。ロールプレイングゲームで言えば敵モンスターのステータスを見る魔法が自動で発動出来るようなものだ。しかし、性格診断テストが素早く正確にできる能力だと言い換えてしまえば、圧倒的な恩恵があるとは思えなくなるだろう。アキ自身も己の能力を過信してはいなかった。


「それに、相手がどんな人間か分かってもその行動を読んでコントロールするのは意外に難しいのよ。特に複雑な性格や極端な自我を持った人の行動はよく分からない……例えばあのコたち」

 アキがダンスの練習に励むミナミティのメンバーを指さす。


「それぞれの人格獣(アニマ)が尖った特性を持っていて、行動が全く読めない……だからカジマネージャーも苦労すると思うわよ」

「ふっ、まあ俺も色々人生経験積んできてますから? その辺のマネジメントは大人の男にドンと任してくれれば大丈夫ですよ……と、そろそろ講演会の時間だな」

 体育館の入り口には学校関係者や地方紙の担当者など企画のホスト側の人物がパラパラと集まり始めていた。カジは腕時計が14時になったのを確認すると、ミナミティのメンバーに次の行動を促すために彼女たちに近づく。


「おーい、君たちそろそろ講演会の準備をだね……ん?」

 ミナミティの3人は練習を終えると、そそくさと体育館の壇上に登っていった。彼女たちは何やら舞台袖から木箱や衣装ケースなどを取り出しているようであったが、そのような準備は講演会の予定には含まれていなかった。


「あれあれ……何か勝手に小道具を用意してらっしゃいますが?」

 講演会のテーマは「アイドルと地域振興」であり、その様子を撮影して地域メディアや市役所の広報に提供するの予定であった。無論、その内容は事前にミナミティのメンバーにも通達している。


「ええと、あれ? 段取りの書いた資料は渡していたはずで……」


  『『『 コスプレ紙芝居マジックショ─――!!!!! 』』』


 唐突にマイクの音が鳴り響く。壇上には着ぐるみに着替えたミナミティの3人。大きな手作りのスライドの前でそれぞれがトランプなどのマジックグッズを持っていた。


  「わーーまたミナミティが何かやるみたいだぞー!」

  「カワイイ、カワイイ!」

  「いよっ待ってました~!」


 小学生たちが壇上の前に殺到する。カジは唖然とした表情でその様子を眺めているとあっという間に彼女たちのステージは始まってしまった。


「んなっ!? こっ……こんな企画は予定してないぞぉ!?」

 段取り完全無視の独断公演(スタンドアローン)。企画側からすれば演者の自由行動(アドリブ)ほど困るものはない。カジはあまりに勝手気ままな彼女たちの行動に面食らう。


「あーあ、またあのコたちったら……ね? 言ったでしょ? あのコたちの行動は予測不能だって」

 アキは「やれやれ、またか」という口調だ。


「ぐ……こ、これじゃあ、予定通りにスケジュールを消化できねえ……こういう時は一体どうすればいいんです?」

 カジはテンパりながらもアキに問いかける。

「ふふっ、それを考えるのがあなたの仕事でしょ?」

 アキは悪戯っぽく笑ってカジにそう言い放った。

 カジのミッションその1はミナミティのマネージメント。どんな状況であっても、彼女たちの行動を統制管理(マネージメント)するのが、課せられた職責なのだ。


「マネージャーの仕事は一筋縄では行かない。ただでさえ山積みのスケジュールを勝手気ままに動くあのコたちに、ちゃんとこなさせないといけないからねー……」

「う、うぐぅ……」

 カジは困り顔で、三本の指を額に当てる。彼の苦悩とは裏腹にステージは大盛り上がりを見せていた。


「ここをどう切り抜けるかがマネージャーの腕の見せ所ね」

「おいおい、これはどういう事かね?」

 集まってきた学校関係者が予定外の事態についてマネージャーのカジに説明を求める。カジはその対応に追われ、ミナミティを止めるタイミングを完全に逸してしまっていた。

 アキは狼狽するカジを尻目に一歩引いた場所から、その悪戦苦闘ぶりを楽しむようにつぶやいた。


「うふふ、このくらいはスケジュールが滞った内には入らないわよー? まだまだ滞ってるスケジュールはたくさんあるからねぇ……中でも今最も滞っている(ノウキデッドな)スケジュールは…」

 アキがため息交じりに、壇上で楽し気にショーを行う少女を見つめた。


「ショーコに新曲の歌詞を完成させることね」


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