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ラフライフ! -底辺空手家アイドル下克上‐  作者: 甘土井寿
一章 写真のストーカー編
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第21話 家電迷宮

前回のあらすじ:音楽室のマイクは壊れていた


「なにもプロデューサーとヒロさんまで来なくていいのに……」


 校舎を出ると辺りはすっかり暗くなってしまっていた。寒空の下、学校の敷地外駐車場に向けて三人の男女が歩く。


「そうよアキ。型番だけ伝えてカジさんにだけ行ってもらえば良いじゃない?」

 その内の一人、ヒロが不満を口にする。


「ふっふっふ、アタシはちょうど別の用事もあったからついでにね。ヒロは送迎の指示を無視した罰ゲームだね」

「何よそれ。まだ音楽室でやらなきゃいけない事も残ってんだけど……」

 ヒロはアキの答えを聞いてもまだ納得できない様子で、ブツブツとぼやき続ける。アキはちらりとカジに視線を向ける。


「カジマネージャーも何か不満?」

「いや……ただ、俺が離れちゃってもあのコらは大丈夫か?」

「まあ、学校の敷地内ならとりあえず安全でしょう。 交番も近いし」

「……プロデューサーがそう言うんなら……で、マイクはどこに買いに行くんです?」

「ソトジマ電気。場所は分かる?」

「え? ソトジマっすか? ……ええ、分かりますけど…」

 カジが言葉を続けようとした時、近くの茂みから声が聞こえた。


「ソトジマはNGィ~!!」


「あ、ってめー! まだいたのか!」

 学校周辺で未だに待機していたツウゴが例によって会話に割り込んだ。


「ソトジマ電気はローカルの家電量販店でサービスも良いと評判だが、品揃えは大手のマックスカメラ一択! また、ポイントカードによる特典も豪華で、車で行くのならマックスカメラ本牧店のほうがここからも近く、駐車場も広い!」

「親切か! 恐ろしさを通り越して逆に頼もしいわ!」


「はあ…………だってさ、どうするのアキ?」

「ん? ああ、いいのよ。ソトジマはミナミティを応援してくれてる企業さんで、ドル1甲子園の時は無償で広告を載せてくれたりしてくれたからね。義理は通さないと。それにあそこの店長さんとは別件で話したい事もあるし」


 何やらミナミティにはソトジマ電気との繋がりがある様であった。カジはミナミティの地元での認知度と、アキの多岐にわたる人脈の広さを改めて感じることになった。


「そういう事でしたか、康崎P! しかし、この無知なマネージャー豚1人では道中心元無いでしょう。だから、僕も護衛として同乗…」

「コラ! 貴様、何しとるか!」

「む! DOG of 国家がもう来たか! 退散!」

 そうこうしている内に今度は近くの交番の警察官が現れ、ツウゴを追い払った。


「まったく! 油断も隙もないな!」

 新藤事件の時に現場に来てくれた警察官であった。


「ああ、お巡りさん、いつぞやはお世話になりました!」

 アキとヒロが丁寧に挨拶する。


「いえ! この町の警察官として当然の事をしただけです! ミナミティの皆さんはこの町の希望ですからねえ! 他のストーカーがまた襲ってこないとも限りませんから、今日はこうしてパトロールを強化しているのであります!」  

「それは助かります!」


(電気屋に警官……この町の人間はどいつもこいつもミナミティに肩入れかよ)


 カジは何か釈然としない気分であった。まがいなりにもご当地アイドルなのだから地域の人間と交流があるのは当然と言えば当然の事でもあったが、今のカジのひねくれ&ささくれた心では若くてかわいい女の子をオッサンたちがちやほやしてるだけの様にも思えた。


「じゃあ、カジマネージャー。運転兼護衛はよろしくお願いしますね」

「……へい、了解です」

 こうして家電量販店のソトジマ電気に向けてカジ・アキ・ヒロの一行は出発した。目的は壊れた機材を購入する事……と言っても大した行程では無い。車で往復30分強ほどである。品を購入する時間を差し引いても急げば1時間と掛からない……はずであった……


               *


 カジの運転する軽自動車で移動するが、車内は軽自動車というにはあまりに重たいディーゼル車の排ガスのような空気が立ち込めていた。 


『時刻は18時! 湘南ベイベイの時間だよー!』


 車中では特に会話が生まれることもなく、ラジオの音だけが鳴り響く。


『今日も新鮮な芸能ニュースをお届け! MCはおなじみパペット増田と…』


「ねえ」

「なんすか」

「消してよ、そのラジオ」

 後部座席のヒロが淡々とした口調で運転者に指示を出す。


「なんで?」

 カジもまた淡々とした口調で聞き返す。


「うるさいから」

「……日課なんすよ」

「は?」

「〝湘南ベイベイ”……車で聴くの日課なんす……聴いてちゃダメすか?」

 短い言葉の連続だが、お互いに対する不信感がにじみ出るやり取りだ。


「はあー……どうしてそんな嘘ついてまでアタシが嫌がる事すんの?」

「ハア!? 別に嘘じゃないですって!!」

 些細な事が、いつの間にか言い合いに発展する。倦怠期のカップルのような淀んだ空気感である。


「はいストーップ!! 二人とも、もう少し仲良くしなさいって!!」

 険悪ムードに耐え切れず、もう一人の乗員であるアキが割って入る。

「……うっす」

「チッ……」


(うーん、なんとか二人の間を取り持とうと三人で外に出てきたけど……失敗だったかしら?)


 結局その後、特段三人に会話が生まれることも無く車は粛々と走ってソトジマ電気に到着した。「ミナミティの皆さんなら、ぜひ無料で持って行って下さい! 倉庫にいくつか在庫がありますから好きなのを選んでもらえればと思います!」との店長の計らいで、“別件の話“とやらがあるアキを残してカジとヒロは先に倉庫に移動する事になった。

倉庫は1階店舗の裏側に位置し、搬入用シャッターが閉まっているこの時間帯は店員用通用口からのみ出入り出来るようになっていた。


「ったく、倉庫から好きなの持ってけっつっても……どこにあるんだよ一体」

 カジは薄暗い倉庫の中を見渡す。数百平米の空間には積み上げられた段ボールや商品が置かれたラックが入り組み、まるで迷路のような様相であった。その中を二人で探索するのは結構骨が折れそうであった。


「じゃあ、俺はこっち探すんでそっち側お願いします」

「…………」

 ヒロは返事することなく無言でラックの反対側に向かう。車中から続く相変わらずの空気だ。むろん、そこから先の会話など全く持って無い。闇と静寂だけが辺りに立ち込める。今この時、誰かが倉庫内の入り口から中を見渡しても誰かが中にいるとは思わないだろう。


 カジとヒロ。二人はお互いがお互いに干渉することなく、もくもくとマイクを探索して倉庫の奥へと進む。まるで魔物の住まう洞窟の深部に向かうかのように……



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