プロローグ 諸人こぞりて…
男が立っていた。遠目にもわかる大きな男だ。
彼が立っている場所はリングだろう。不思議な形状だが、彼女には直感的に理解できた。
そこが戦いをする場であるという事。それが生死をかけたものであるという事。それが彼女には何故だか理解できたのだ。
男の足元には、別の男が血を流して倒れている。その様な光景がぼやっとした明かりに照らされている。照明ではなく、何か神がかり的な光によってだ。それを少し離れた高い位置から彼女は見下ろしていた。
だが他には何も見えない。何も聞こえない。暑いのか寒いのかも分からない。自分がどこに立っているのかも、何故ここに立っているのかも。彼女には何も分からなかった。
ただ、自分が涙を流しているということだけは理解できた。
「……!」
リングの男が彼女に向かって何かを叫んでいる。
おそらくは彼女にとって重要な何かを伝えようとしているのだろう。彼女は彼の叫びに耳を傾けた。
「…………!」
彼の声は聞こえない。彼の声に音がないのか、彼女の耳に音が届かないのか。
「……ッ! …………ッ!」
男の声は届かない。彼女はいまだ静寂の中にいる。
リングの男の声が聞こえたとき、彼女が何故ここに立っているのか、そして何故涙を流しているのか、そのすべてを理解できるだろう。しかし、その時は……
「アキ!!!!!」
「……えっ!!? はいっ!!」
そう言われて康崎亜紀は不意に我に返った。
「チョット、なにボォっとしてんの!? 立ったまま寝てたんじゃないでしょうね!」
現実に引き戻されたアキは、混乱したままきょろきょろと周囲を見渡した。
夢か幻か。先ほどの不思議な光景は既に視界から消えていた。代わりに見えるのはパーテーション、音響機材、床や天井をつたう幾種もの配線──
目の前には華やかな衣装の若い娘が3人。それぞれがアキの前で左手を差し出して掌を重ねている。そして壁一枚向こうから伝わる尋常でない程の歓声と熱気。アキは自分の置かれた状況を完全に思い出した。
「もーーー! せっかくの円陣が台無しだよっ!」
娘の一人が呆れた口調でアキを咎める。
「あ、えっと……ゴメン。今ちょっと考え事してたかも……」
娘の問いにアキは申し訳なさそうにそう答えた。彼女たちは今まさに重要な仕事の真最中であった。それはアキがこの3人の友人たちと目指し、起ち上げ、積み上げてきた夢の実現。彼女たちの背後、舞台袖から伸びる光はまさしく夢のステージに繋がっていた。
「しょうがないよ、アキちゃん最近ずっと寝てないんだし……」
「康崎! 眠たい奴は廊下に立っとれ! ハイ、現国の久保のマネ~」
「プロデューサーは仕事が終わったと思って気が抜けてたんじゃないの!? アタシら、こっからが本番でしょ! しっかりしてよね!」
三人は次々とアキに言葉を述べる。
アキは大舞台の直前に一瞬でも自分の役割を失念してしまったことを恥じた。それと同時に高揚する彼女たちの顔を見て、先ほどまで見えていた幻のような光景については今話すべき事ではないとも思った。
「もうホントごめんって! ヒロの言う通り、ここはあたしらが夢にまで見た晴れの舞台。本当のスタート地点なんだから……気を抜いてなんかられないわよね!」
そう言うとアキは大きく息を吸い込み、ぴしゃっと顔を叩いて彼女たちと掌を重ねた。
「よーーし、集中完了!」
「分かればよっし! それじゃあ、ハル! 声出し頼むよ!」
ヒロと呼ばれた少女が仕切り直すと、今度はハルと呼ばれた少女が呼応する。
「オッス、では、あらためまして…………えーー、皆さん! いよいよここまで来ました! アタシらがずっと追いかけてきた夢……それを叶えるための舞台が目の前にまでやってきましたよッ! だけどミナミティはいつも通り! 驕らず、気張らず、元気よく! 自分らしさを忘れる事無く、ステージをめいっぱい楽しんでいきましょー! さあ行くよ~~~! レーー……ッツ! エンジョーーーイ!!!」
「「「 おおーっ!!! 」」」
ルーティーンを終えると、三人はアキに背を向け光に向かって駆け出した。
『さあ!! お待たせしました!! 高校ドル1グランプリ、7組目は南関東地区代表!! 横浜の3人組アイドルグループ〝ミナミティ"の皆さんです!!! それではどーぞォ!!!』
12月24日、東京・九段下。この国最大規模のコンサートホールであるここ「ニュー武道館」は革命にも似た異常な熱気に包まれていた。参加グループ12組、チケット抽選応募者総数125万人。【高校ドル1グランプリ~灼熱のイヴ202X~】──通称〝ドル1甲子園″は高校アイドルナンバーワンを決める国内最大規模のショーイベントだ。
『こーーーんばーーーんわーーーー!!』
『はじめましての人ははじめまして!! 私たちは……』
『ハマの! 放課後アイドルユニット!』
『『『 ミナミティと申しまーーす!! 』』』
「「「「「 オオオオオオオオオオオオッッッ !!! 」」」」」
2万8千805人の地鳴りのような歓声が轟く。
経済成長8年連続マイナス、犯罪発生率7年連続増加、失業率10パーセント超、出生率15年連続低下etc…。
荒みに荒んだ世相に反し、この国・日本では今、空前のアイドルブームが巻き起こっていた。
『あ、ど、どうも! 今水翔子といいます……わ、わたしたちミナミティは、横浜の山手米洲学院という高校でアイドル活動をしています! ドル1甲子園は夢にまでみた舞台……せせせ、精一杯がんばりたいと思いますっ!』
「いいぞお、かわいいぞショーコォ!! ちゃんと喋れてるぞー!!」
「ふおぅーーーー! 守ってあげたいいいーーー!」
「ミナミティの皆がニュー武道館の舞台に……オイラ感動で涙が……」
料理アイドル、釣りアイドル、野球アイドル、為替相場アイドル等々。八百万の神々が住まう日ノ本国に相応しく、様々な態様のアイドルが跋扈する昨今──中でも特に人気が高いのは何といっても高校生アイドルである。
青田買いの傾向は国民性のなせる業か。次世代のスーパースターを一目見るべく、全国津々浦々のアイドルファンがここ「ニュー武道館」に集まってきていた。
『石竹尋です、今日はたくさんの人たちが応援に来てくれてとても嬉しく思います! 私たちは普段、町を盛り上げるために地域に密着した活動を行っています!』
「うおおおおおおっす、おっすおっすオッス……ヒロさああああん!」
「ヒロさーーん、俺を罵倒してくれーーーー頼むゥーーーー!」
「ヒロお姉様……! ああっ、お美しい!」
ドル1甲子園では毎年各地区の予選を突破した12組のアイドルが出場。ステージでパフォーマンスを行い、審査員3・観客4・ネット投票3の比率でポイントを加点し、総得点の多寡でナンバーワンを決める。
『浜星遥陽です! ハルヒちゃんって呼んでね☆ 全国ネットの舞台で歌えるなんて初めての経験で……父よ、母よ見てるかーい? イエーイ!』
「ハルヒちゃん結婚しよう! そうだ! 結婚しよう!」
「カワイー! カワイー!! ハルヒちゃんカワイーヨー!!!」
「俺だ俺だ! ハルヒ俺だ! 俺が見てるぞ! だから俺の事も見てくれ!」
オーディエンスの熱狂は凄まじい。
肝心のアイドルの声が全く聞こえないほどだ。中にはあらぬことを口走る者たちもいる。
「俺のショーコたん……ああ、昨夜はどうも……お世話になりましたぁ」
「あああ、ヒロさん~~もう、愛しすぎて……殺しちゃいたいぃぃ」
「何でこっちを見てくれないんだハルヒ! ならいっそ死のう! 二人で!」
ファンたちの過激な発言が実行に移される事はほとんどないが、一部で歪んだ愛情を暴力的に発散させようとする輩は後を絶たず、社会問題となりつつある。
『えー、凄い歓声ですね! 改めてアナウンスしますが、ヒートアップしすぎてお隣のお客さんたちとトラブルにならない様、お願いいたします!』
ステージ上の進行役が神経質なまでに注意を喚起するのはそういった事情があってのことだ。
事実、熱狂的なファン同士のケンカなどはザラであり、アイドル自身がケガをさせられたり、最悪の場合殺されてしまったという例すらあるのだ。人気グループが一堂に集まる大規模なイベントではそういった犯罪行為が発生する危険性はなおさら高いと言えるだろう。
無論、この規模のイベントならば警備は当然厳重となり、イベントホール内だけでなくドーム外周にも多数の警備員が配置されている。
*
「ああっ!? テメエなんかに俺たちのレイちゃん愛の何が分かるんだよッ! おォ!?」
「そうだ! 俺たちレイちゃん第一応援団(非公式)が誰一人チケット抽選に当たらないなんて世の中どうかしてる!」
「いや、どうかしてるのはお前らの方だろ……」
ホール内の余熱がかすかに伝わるドーム外周──ここ24番ゲートに配備された青年カジもイベント警備員の一人であり、血気盛んなファングループが起こしたトラブルの対応に追われていた。
「渡さぬゥ……このチケットはァ、命に代えてもォ」
カジの後ろには小太りの男がチケットを握りしめてうずくまっている。
「お前らの勝手な都合でチケットをカツアゲしていい訳が無えだろ!」
ファングループが起こしたトラブルとはすなわちチケットの略奪行為。いわゆるチケット狩りだ。
チケットを入手できなかった狂信的ファンが会場周辺に待機し、正規のチケット所有者を襲撃する。モラルも何もあったものではない蛮行だが、このアイドル戦国時代では日常茶飯事的な犯罪であり、アイドルたちを直接襲う類の事件に比べれば幾分かマシ、むしろファンたちの間ではその行為を受け入れる風潮すらあった。
「なんでコイツみたいなにわかヤロウが抽選に当たって、俺たち本物のファンが当たらねえんだよ!! 不公平だろ!! こんなのどう考えたっておかしい!!」
故に、このような理屈を平然と並べ立てる者も珍しくはないのだ。
「そんな事は知るか! これ以上暴れるなら警察呼ぶぞ!」
*
『それではミナミティの皆さんにはいくつか質問していきたいと思いまーす。まずは皆さんの理想の男性ってどんなタイプですかぁ? 一人一人教えてくださぁい』
一方会場内では何事も無かったかのようにミナミティへの質問タイムが始まっていた。会場外のトラブルの喧騒は何重奏にも連なる歓声の壁にかき消されステージには届かない。
『ハイじゃあ、ショーコちゃんから!』
『え、ええと……その……そういうのはよく分からないんですケド……や、優しくて、ちゃんと人の話を聞いてくれる人がイイかなって……』
*
「警察ゥ~? 構わないから呼んでみやがれ!」
「な、なんだと!?」
「今日のレイちゃんのステージがナマで見られるなら俺は……俺は逮捕されても構わんのだ! うおおお、喰らえ!」
狂乱ファンは極度の興奮状態。真っ当な理屈は通じず、あろうことかカジに向かってパンチを放つ。場当たり的かつ不条理な暴力。パンチは顔面に命中するが、カジは微動だにもせず相手を睨み返す。
「オラどけ! 俺は極彩館空手の“赤帯”だぞ! 勝負すっかッ? オオッ?」
狂乱ファンが力を誇示して凄む。カジは唇が切れて出血するが、負わされた傷の痛みにではなく彼の言葉に大きく反応した。
「ああ……? 空手……? 勝負だァ?」
*
『それじゃあ、次はヒロちゃん!』
『そうですね……私も未だ男性とはお付き合いしたことがありませんので、完全な想像になってしまいますが……ルールを守れる理知的な人が理想かなあって思います』
*
「お前が鍛えた空手はよぉ、こんな事のために使うモンなのか? エエッ!?」
「うるせえ!! 俺の空手はレイちゃんの為にあんだよ!!」
「んだとォ!!?」
勘違いもはなはだしい発言だが、狂乱ファンたちの間で歓声が沸く。
「名言出たァ!!」
「山口さんカッケエ!!」
「さすが俺たちのリーダーだぜ!!」
カジは戦慄した。10人ほどに囲まれた暴力の圧にではなく、倫理観のタガがはずれた彼らの狂気に対してだ。今この場で法令を遵守する姿勢を持つ人間が圧倒的少数であるという事実にカジは心底震えた。
「な、なんだってんだよ、一体……」
「山口さん! こんな奴早く蹴散らして、後ろのデブからチケット獲っちゃいましょうよ!」
*
『では最後にハルヒちゃん、どおぞ!』
『元気でパワーがあるヒトがいいですっ!! できればマッチョだとベストです!! あっ、でも暴力を振るうヒトは論外ですけどね~!!』
*
「何やってんだ君たちィ!」
警察だ。通行人がトラブルを見て通報したのだ。カジは胸をなでおろす。
「あ、お巡りさん! 助かります! こいつら、アイドルのライブ見たさにチケットをカツアゲしてたんすよ、それで……」
「ヤヤッ! 君たちは〝ジャービッツ″菅林麗華の私設応援団にしてオタ芸界のカリスマパフォーマー集団〝グッチーズ"じゃないか!???」
「……え?」
警察官は早口にそう言うと山口たちに歩み寄り、子供が憧れのスポーツ選手ににするかのような眼差しで握手を求めた。
「ええ、そうです。実はお巡りさん……かくかくしかじか」
山口はその握手に答えると、警察官に(かなり主観的に)経緯を話し始めた。
「君はリーダーの山口君! ふむふむ……ふむ、なるほど事情は分かった」
そう言うと、警官はうずくまっていた男につかつかと歩み寄る。
「お、お巡りさん……ぐうっ!」
警察官は男にボディブローを喰らわせると、手からチケットを奪い取り、なんとそのまま山口たちに渡してしまった。
「君たち、早く行きなさい、まだチケットは足りていないんだろう?」
「ハア!!?? んなバカな?!」
カジはあまりに無法・無秩序な行為を目の当たりにし愕然とする。
「本官も若い時はなぁ、君たちのように夢中になってアイドルを追いかけたもんさ。君らのような一生懸命な若者が報われぬ世の中は間違っている」
「な!? ちょっ……じゃあ、この人どうすんだよ……オイお巡り! お巡り……ポリス、オイ!!」
カジの正論は彼らには届かない。彼らのやり取りは既に倫理を超越した義侠の空想世界に達していた。
「さあ、行きたまえ! 本官の分も青春を謳歌してくるのだ!」
「お巡りさん、ありがとう! やっぱり世の中最後に正義が勝つんだ! 行くぜみんな!」
そう言うと山口たちは再び警察官と握手を交わし、その場に背を向け軽快に歩き始めた。
*
『それじゃあ、次に皆さんの今後の目標とか抱負って聞かせてもらえますかあ?』
*
「おい待てィ!!!」
「ああ?」
「正義ってよお、アンタら……この人はチケット盗まれて終わりか? それが本当に正義なのか!? なあ、ホントにどうかしてるぜ!? よぉ!!」
カジはチケットを奪われ泣き崩れる哀れな男を指さした。
「ぐぬうう~、拙者の……命より大事なチケットぉ……ぐすん」
「この世は弱肉強食……にわかに渡すチケットなし!」
「はあ!?」
あろうことかカジにその台詞を言い放ったのは警察官であった。その発言を聞いた狂乱ファンたちは再び歓呼した。
「名言出たァ! お巡りさんの名言も出た~!」
「そうだ、警備員! こいつは勝負に負けたんだ! アイドルファンとしての誇りをかけた勝負にな!」
にわかに信じがたい暴論が飛び交う。カジはついに彼らへの憤りを爆発させた。
「何が……何が勝負だ! 何がアイドルだ! クソがッ!! イイ年した大人が手の届かねえモンに夢中になって!! お前らホントに哀れだなあ!!」
「あ!? 説教たれんなお前……警備員風情が! また俺の突きを喰らいたいか!? 何だったらお前と勝負してやってもいいんだぜえ!!」
*
『それは勿論……世界一のアイドルになって、皆さんに夢を与えられる存在になる事です!』
『おおー! 世界一とは! ミナミティの皆さんは目標が高いんですね~! おっと、ではそろそろパフォーマンスのほうに移りましょうかね! 準備はよろしいですか?』
*
「けっ! お笑いだぜ、あんた等! 今必死に応援してるナントカ言うアイドルは、いつかは野球選手だとかIT企業の社長だとかと結婚しちまうに決まってんのによォ? それであんた等に何が残るんだ? エエッ!? あんた等が浪費した時間と情熱は何になって残るんだよ!!」
「あ……!? てめエ……」
「いやいや、それかもう男がいるかもな~? マネージャーとか大物プロデューサーとか……枕営業とかもしちゃってたりしてなあ!」
カジは言ってはならないことを言ってしまった。カジは知らないことではあったが彼らの応援するアイドルには過去そういう噂が立ったことがあったのだ。
*
『この曲はアタシたちが結成して、初めてライブした時のコトを歌った曲です! 夢に向かって一歩踏み出す時の怖さ……そんな怖さを乗り越える勇気を皆さんにも分けられたらいいなと思って作った、そんな曲です!! それでは聞いて下さい!! ミナミティで【STAR TWINKLE】!!!』
ホールからはハイテンポなジャズ調の前奏が流れ始める。と同時に観客たちの地響きのようなチャントが始まる。
「「「 よおっしゃ、いくぞおおおー!!!! 」」」
「「「 タイガー !! 」」」
「「「 ファイヤー!! 」」」
「「「 サイバー !! 」」」
「「「 ファイバー!! 」」」
「「「 ダイバー !! 」」」
「「「 バイバー !! 」」」
「「「 ジャージャー!! 」」」
それらの声はぐちゃぐちゃに混じりあって会場外に伝播する。そして、その音は場外乱闘開始のゴングとなった。
「レイちゃんを馬鹿にするなあああああ! 死ねえええーー!」
狂騒したファンたちがカジに一斉に飛びかかる! が……
「ぐへえっ!」
「ぐわあ! ……こ、こいつ!?」
飛び掛かったファンたち数人が瞬時になぎ倒された。
「…………アンタらさっき勝負と言ったよな? そうだよな?」
カジが中腰に構えたまま鋭い眼光を放ち、山口たちに問いかける。
「テメエ、さては“やってる奴”だな! 望むところだよ! 俺の空手を見せてやるよ!」
「お前らこの俺に勝負を仕掛けたんだよなあ~~??」
「なんたる悪漢か! 本官も加勢しよう! 本官は柔道三段・合気道四段だ!」
「拙者の……チケットォ」
「望み通り勝負してやるよ! まとめてかかってきやがれ!!!!」
興奮の波は加速し、熱狂を経て暴力の渦となる。
『はじめての時は、いつも突然、アーユーレディー?じゃ始まらない♪』
「「「 うおおおおおおおおおおおおお!!!!!! 」」」
響く歌声、轟く怒声。
『画面は強制スクロール、タイムは秒読み、クラクラ回るお星様♪』
「「「 アソレ! アソレソレ! ヨオッシャ、ハイハイ! 」」」
行き交うパンチとサイリウム。
『ずっと、探していてたよスタートの瞬間……♪』
(なにやってんだよ俺……くそ! こんな……こんなはずじゃ無かったのに、くそお……)
ほとばしる汗、飛び散る血しぶき。
「ちくしょをおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
雲一つない聖夜の空。
満月は不気味なほど白く辺りを照らし、下界の混沌を闇に覆い隠す事を許さなかった。