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マンションの四階のベランダに、山から下りてきた猪や狸、あるいは幼い女の子がいるはずも無い。
考えられるとすれば、鳥である。
鳥がベランダにいるのだろう。
――そうよね。鳥よね。
そう考えた深雪の心の中から、恐怖心が雪解けのように薄らいでいった。
深雪は窓に向かい、カーテンを開けた。
するとそれは、そこにいた。
室内の灯りに照らされて、はっきりと見ることが出来た。
そこには幼い女の子の首。
首だけが窓の外に浮いていたのだ。
――!!
あまりのことに深雪は、声を出すことも逃げることも出来なかった。
その場に固まり、その首を見ていた。
するとその首が、すうっと窓から離れてゆき、見えなくなった。
その時になって初めて、深雪は声を出すことが出来た。
彼女の二十四年間の人生において、最大の叫び声を。
笠原が本を読んでいると、突然女性の悲鳴が聞こえてきた。
――なんだ?
声から判断しても、位置から判断しても、隣に一人で住んでいるOLの叫び声だ。
笠原は慌てて部屋を飛び出し、件の部屋のドアを叩いた。




