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「逃げろ!」
男は木藤だった。
岩崎には木藤の言わんとすることがわかった。
さっきから立ち込めている鼻を突くこの臭い。
間違いなくガソリンだ。
岩崎は振り返り、走った。
木藤はその後を追ってきたが、途中で立ち止まると振り返り、ポケットから何かを取り出した。
それはジッポーのライターだった。
木藤はそれに火をつけると、宙高く投げ上げた。
そして再び岩崎を追って走った。
岩崎は走った。
走って走って走った。
実際に走っていた時間は、それほど長くはなかっただろう。
しかし岩崎には、その時間が何倍もの長さに感じられた。
そして予想していたことが起こった。
爆発音、そして激しい熱風が岩崎を襲った。
――熱い、熱い、熱い!
しかし熱風はすぐにおさまった。
走るのをやめて立ち止まり、振り返ると木藤が走ってきた。
「ぜえぜえぜえ。本気で走ったのは久しぶりだぜ」
木藤はあえぎながら怪物を見た。
岩崎もそれに習う。
怪物は黒い身体の前半分に、目に見える明らかな損傷を受けていた。
そして身体全体が燃えていた。
怪物の身体の後ろ半分が力なく動いていたが、やがてその動きもゆっくりと止まった。
――やったのか?
岩崎のその想いを肯定するかのように、木藤が拳を突き上げて叫んだ。
「やったぞ!」
そして小さく言った。
「金剛、おまえの仇はとったぞ」
岩崎は木藤に聞いた。




