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猪を狩ることが出来なくても、北山の日常生活に何の支障もない。
仕事でもないし、北山が狩ってくる猪を待ちわびている人もいない。
ただ猪鍋が食えなくなるだけだ。
北山は猪狩りに生きがいを見出していたが、猪鍋はあまり好きではない。
もちろん食べられないほどに嫌いではないが、進んで食したいと思うほどでもなかった。
それでも猪が撃てないことによってこんなにも余裕を無くしているのは、ひとえに北山の猪ハンターとしてのプライドゆえである。
この四十年間、猪を逃したことは一度も無い。
それなのに今年はまだ一頭も捕っていない。
そんなことは北山の猪ハンターとしての誇りが許さない。
――くそっ、今に見てろよ。
北山は必要以上に強い力で猟銃を握りしめた。
気合は充分すぎるほどだったが、時はそんな想いはおかまいなしに過ぎてゆく。
早朝山に入ったのに、お昼が過ぎて太陽が地面に近づいたころになっても、猪の痕跡すら発見することが出来なかった。
――くそっ、いったいなんだっていうんだ。
北山は沈みかける夕日を見た。
その時、北山の目に何かが飛び込んできた。
――壁?
それはもろに赤い太陽の逆光となっていたために、ほとんどシルエットと化していたが、壁、もしくは塀のようなものに見えた。
その高さは三メートルくらいだろうか。




