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「ええ、宣戦布告です。さっきも言ったように、あいつを殺してやろうと本気で思っているのも、夜に山狩りをしているのも今では私たち三人だけです。と言うより、昨日から三人に増えたと言ったほうが、いいのかもしれない。神城の立場から言えばね。そしてあいつは、間違いなく夜行性です。昼間は山の奥深くにでも、隠れ潜んでいるのでしょうね。ですからこれだけ山狩りをしても、見つからないんですよ。山狩りの範囲は、結局人里近くに限定されていますからね。当然といえば、当然なのですが」


「神城が訪ねて来た理由が宣戦布告だと言うのなら、おそらくその通りなのでしょう。なにせ彼女の態度は、敵意、あるいは殺意とかいったものしか、感じ取れなかったからですから。それもものすごく強烈なやつが。でもそうなると、どうして彼女は、あいつを殺そうとしている私や木藤さんに、宣戦布告をしてきたのでしょうか?」


「そりゃするでしょうよ」


「それはどうしてですか? この事件、というよりあいつと神城は、なんだかの関係でもあるというのですか?」


「そりゃありますよ。関係なら充分すぎるほどにありますね。なにしろ神城はあいつの母親なのですから」


「えっ?」


「私が言ったこと、聞こえませんでしたか。それならもう一度言いましょうか。神城はあいつの母親なんですよ。あいつのね」


「母親ですって!」


「そうです。だから宣戦布告をしてきたんです。私の可愛い赤ちゃんに手を出そうとするやつは、ただではすまさないぞ、と言っているんです。なにせ、母親なんですから。それくらいはするでしょう」


「ちょっ、ちょっと待ってください。神城の子供は、生まれてまだそんなに経っていません。歩くのはもちろんのこと、はいはいだってまだ無理でしょう。そんなものが、人間や秋田犬を襲ったりするなんて、とても考えられませんが」


「確かに。人間の赤ん坊ならそうでしょうね」


「人間の赤ん坊なら……」


「そう。人間の赤ん坊ならそうでしょう、と言ったんですよ」


「……えっと。それじゃあまさか木藤さんは、神城の赤ちゃんは人間ではないと言いたいのですか?」


「一度見ました」


「えっ?」


「見たんですよ」


「見たんですか。それで、いったいどんなやつでしたか?」


「見たのはほんの一瞬です。山の中で。夜の捜索の二日目のことです。ちょっと休憩していて、不覚にも気を抜いていた時ですが。私が見たものは、おそらくあいつの一部でしょう。木々の間から顔を出していました。幼い女の子の真っ白な顔でした。私には三、四歳くらいに見えましたね。幼いと言っても三、四歳くらいなら、生まれたての赤ん坊とはほど遠いですよね。ですから顔が三、四歳くらいでも大問題ですが、それ以上の問題があります」


木藤はそのまま黙ってしまった。


岩崎の顔をじっと見ている。


どうやら岩崎の反応を観察しているようだ。


それに気付いた岩崎が聞いた。


「どんな問題があるんですか?」


木藤は一息つくと言った。


「その女の子の顔は、高さにして四メートルくらいのところにありました。その意味がわかりますか、岩崎さん。そんな高さに顔があると言うことは、それを支えている身体がそれぐらいはあるということなんですよ。そして私が気付くと向こうも気付き、あっと言う間に消えてしまいました。私は後を追おうとしました。すると目の前に現れたんですよ。神城が。彼女は言いました。「見たわね」と」


「……」


「神城のあの目は忘れることが出来ません。きわめて邪悪な殺意しか感じ取れなかった、あの目を。神城からしてみれば、宣戦布告した次の日に夜の山で私に会ったわけですから。何が何でもこの私を殺してやろうと思ったんでしょうね。ほんとに怖い女です。私がこれまで出会った女の中でも、断トツで一番でしょうね。私は悩んだ末に、賭けにでることにしました」


「賭け……とは?」


「それはあなた方お二人を、巻き込むことにしたんです。戦力を増やすために。それともう一つは、私だけに集中している神城の殺意を、分散させるために」


「……」


木藤は一歩近づくと、言った。

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