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岩崎はその場から動くことが出来なかった。
それはまるで、神城の笑みによって本当に凍らされてしまったかのようだった。
時間とはとにもかくにも偉大なものだ。
全く動くことが出来なかった岩崎だが、やがて指、首、手、足と束縛から逃れることが出来るようになった。
岩崎は身体を軽くほぐすと部屋に戻った。
そして神城の笑みの意味を考えていると、再びチャイムが鳴った。
岩崎は瞬間、心臓が喉から飛び出してくるのではないかと思った。
しかし深呼吸をして拳を握り締め、スクワットを素早く数度やってから、玄関に向かった。
そして意を決っして扉を開けた。
そこに立っていたのは木藤だった。
岩崎が何かを言う前に木藤が言った。
「来ましたね」
「はい?」
「神城ですよ」
「ええ、さっき、確かに来ましたけど」
「そうですか。あいつ、やっぱり来ましたか」
「でもどうしてそんなことが、わかるんですか?」
「前に私のところにも来たからですよ。正確に言うと、初めて夜の山狩りをやったその日のお昼です」
「……」
「岩崎さんも、昨夜初めて、夜の捜索をやったでしょう」
「やりましたけど、どうしてそれを知っているんですか?」
刹那木藤が笑った、ように岩崎には見えた。
しかしその顔は、今ではとても固いものとなっていた。木藤が答える。
「あいつを探している人間はたくさんいます。でもほとんどが、仕事とか義理とかで探しているのが現状ですよ。あいつを個人的な私怨で探し求め、そして最初から殺すことを目的としている人は、私を含めて三人しかいません。私と岩崎さん、それと北山さん。この三人だけです。実家に帰っていた飯田の奥さんがこの戦いに参戦しましたが、彼女も彼女なりにがんばってはいますが、あれではとても戦力と呼べるものではありませんね。小熊にもあっさりと負けるでしょうね。もはや私の中では、そんな人はこの世に存在しないことになっています。で、そういった訳でして、私があなた方二人に、いったいどれほどの感心を寄せているのか。そりゃもう、あなた方が想像できないほどに、知ればあなたがたが間違いなく引くほどに、強烈なものなんですよ」
「……」
「ですからわかりますよ。わかりますとも。細かいところを含めて、全てにおいて」
「……それで」
「なんですか」
「神城です。あいつはいったいどうして、この私を訪ねて来たんでしょうか?」
「神城があなたを訪ねて来た理由ですか。それなら単純にして簡単ですよ。それは宣戦布告です。それしかありませんね」
「宣戦布告ですって?」




