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「いいですか、飯田さん。よく聞いてください。私たちは夜の山の中を一人で行動している女性を見過ごすなんてことは、とても出来ません。それは絶対にありえません。昼間なら視界もいいし、警官や猟友会の人がたくさんいますし。それにあいつが活動することもないでしょうから、比較的安全です。しかし夜はまるで違います。全然違うんです。昼とは真逆で視界は悪いし、警官や猟友会のメンバーもいないし。そして何より、あいつが行動を起こす可能がとても高いですから。そうなると私たちは、これから飯田さんを家まで送り届けなければなりません。そして再びここに戻って来なければいけないのです。それにともなう時間のロスは、かなりのものになると思いませんか。どうですか、飯田さん」
「!」
「大事なことですから、この際遠慮なくはっきりと言いましょう。私たちは寝る間を惜しんで夜の山狩りをしています。あいつをやっつけるために。それを飯田さんあなたは、邪魔をしているんですよ」
「……そんなあ」
北山の口調が少し優しくなった。
「いいですか、飯田さん。私たちはこれから、あなたを家まで送り届けます。それに異論はないですね。どうですか?」
飯田の妻は最初何も言わなかった。
北山は何も言わずに、飯田の妻が何かをいうのを待った。
岩崎も何も言わなかった。
ただ待った。
しばらく待っていると、やがて飯田の妻が口を開いた。
「……はい」
「それでいいです。それじゃあ行きましょうか。飯田さん、後は私たちに任せて、家でゆっくりしてください。ここは一つ、大船に乗ったつもりで。大丈夫ですよ。あいつは私たちが倒します。ご主人の仇は必ず討ちますから。約束します。任せてください。お願いですから、どうか私たちを信じてください」
「……」
飯田の妻はそれに対して何も言わなかったが、北山はかまわず飯田の妻の背中を軽く押しながら、歩き出した。
飯田の妻は抵抗することもなく、大人しく北山に従った。
岩崎は二人のすぐ後ろを歩いた。
「……」
「……」
「……」
山を降り、飯田の家にたどり着くまでの間、三人とも始終無言だった。
家の前で別れたときも、飯田の妻は軽く頭を下げただけだった。
彼女が力なく家に中に入ったのを見届けてから、岩崎が言った。




