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たとえそれがほんの一瞬であったとしても。
そして神城はただの変な女ではなく、得体の知れない恐るべきなにかであると下谷は確信した。
それが何かと聞かれても、下谷には何も答えようがないのだが。
――いったいいつまで続くんだ、これは。
井上はもうとうに飽き飽きしていた。
山狩りにだ。
ここのところ毎日のように朝から日が暮れるまで、山の中をひたすら歩き回っている。
馬鹿正直に猟銃を両手に抱えて。
井上は隣町から来ていた。
山狩りのメンバーに狩り出されたのだ。
井上は山狩りには乗り気ではなかった。
もっと言えば、嫌だったのだ。
しかし猟友会内でのしがらみや人間関係と言った諸々の事情により、断ることが出来ないでいた。
中には数は少ないながらも最初から誘われなかった人もいたし、正面きって堂々と断った人もいるというのに。
――ほんと、嫌になるなあ。
井上は数ヶ月前に定年を迎えていた。
つまり物理的には毎日山狩りに参加することが出来るのだ。
事実最近は一日も欠かさずに、山狩りをしている。
やらされていると言ったほうが、正しいのだが。
毎日参加できる人材は猟友会においても貴重な存在であり、年齢のわりに猟友会において立場の弱い井上は、まさに酷使されていたのだ。
給料をもらえる仕事でさえ定期的にきまった休みがあると言うのに、報酬なし必要経費は自腹の山狩りに、休みが一日もないのだ。
――いっそのこと、思い切って断るか。
しかし井上は、自分にはそんなことはできないとわかっていた。
断った後が、あれやこれやと面倒なことだらけだからだ。
しかもその面倒な状況は、井上が猟友会に在籍する限りずっと続くのだ。




