42
そいつは下谷を凝視しており、そしてそいつから、得体の知れない何か邪悪なものが下谷に向かって発せられているということを。
――に、逃げないと。
下谷はとっさに鉄塔から降りようとしたが、身体が金縛りにあっていて、小指一つさえ動かすことができなかった。
心臓の鼓動は激しくなり、目の焦点が合わなくなった。
このとき下谷は思った。
このままでは死んでしまう。
なんとかしなければ。
とにかく逃げないと。
しかし下谷は何ひとつ成し遂げることなく、そのまま意識を失った。
気がつけば、日が西に沈みかけている。
下谷はぶら下がっていた。
鉄塔に。
習慣でいつも無意識につけていた命綱。
それにぶら下がっているのだ。
もし命綱をつけていなかったとしたら、そのまま落下して下谷は間違いなく命を落としていたことだろう。
下谷は命綱を掴んで身体を起こし、さらにそれを手繰って鉄塔にたどり着くことが出来た。
時計を見ると、あれから六時間もの時が過ぎ去っていた。
命綱が食い込んでいた部分はそれなりのダメージを残していたが、頭痛や吐き気、身体の痺れなどは、先ほどと比べるとましにはなっていた。
しかしましになったと言っても、完全に治まったわけではない。
下谷は自らの身体に鞭をいれ、鉄塔を降りた。
――ほんと、なんだったんだ、あれは?
考えても、何であるかはさっぱりわからない。
何であるかはわからないが、わかったことがあった。
それは神城とは絶対に関わってはいけないと言うことだ。
たとえ再び神城が遊歩道にその姿を現したとしても、二度と見てはいけないのだ。




