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頭が止まることなく動き続けているので、その表情は読み取りにくいのだが、それでも下谷は神城が怒っているのだと感じた。


神城がいつも見ている先にある、見えない何かにたいして。


――けんかでもしているのか?


それにしても神城の動きは、たとえ怒っていたとしても、あまりにも激しすぎた。


まるで全身で狂気を演じ、常軌の逸脱を表現しているとしか見えない動きだ。


仕事の手を完全に止めて下谷が見入っていると、神城の動きがしだいに小さくゆっくりとしたものになっていった。


そして何の前触れもなく、ぴたりと止まった。


今は人形のようにぴくりとも動かない。


――なんだったんだ、今のは?


彫像のように固まっていた神城だが、やがてゆっくりとその両手を空に向けて差し出した。


下谷が最初に見たときのように。


それはまるで恋人と大喧嘩した後で、仲直りをして甘えている女のように、下谷の眼には写った。


完全に静止した顔は、遠くても読み取ることが出来た。


それはまさしく幸せの絶頂を迎えた女の顔だ。


ここにきて下谷は、神城の精神状態を完全に疑った。


――あの女、狂ってやがる。


その時である。


神城が不意に下谷のほうへ顔を向けた。


――えっ?


最初は下谷のいる方向をたまたま見ているのかと考えたが、すぐさま違うことに下谷は気づいた。


見ているのだ。


神城はその眼でしっかりと下谷を見ているのだ。


――うそっ!


高いところから、斜め上から、正面ではなく真横に近いところから見ている下谷に気付いた者は、これまでに誰一人としていなかった。


それなのに今神城のその目は、しっかりと下谷を捕らえていた。

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