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その姿勢は変わらなかった。
そして遠くてはっきりと確認したわけではないが、神城のその顔はすごく嬉しげに見えた。
――やっぱりあいつ、普通じゃないぞ。おかしなやつ。
神城はその謎の儀式をしばらく止めることなく続けていたが、何の前触れもなく急にくるりと反転すると、元来た道を戻っていき、木々の間にその姿を消した。
そこにきてようやく下谷は、休憩を取ろうとしていたことを思い出し、お腹がへっていることに気付いた。
下谷は下に降りて行った。
もう二度と神城がここにやってきませんようにと願いながら。
二週間ほど山に入ったが、二人に何の成果もなかった。
何十人といる警官や猟友会のメンバーも、同じ結果となっていた。
北山が言った。
「これだけ探してもいないとは、あいついったい何処にいるんでしょうね」
「……」
「かと言って、探すのを止めるつもりは毛頭ありませんが」
「止めるのは、あいつを見つけてやっつけた時ですよ」
「なかなか良いことを言いますね、岩崎さん。そうです。その通りですね」
「ええ、そうです。そうですとも」
――そうですとも。
岩崎はその言葉を心の中でもう一度繰り返した。
ある日、いつものように暗くなるまで山狩りをして、帰宅した岩崎を訪ねて来た者があった。
――この人は……。
テレビで見たことがある。
数ブロック先に住んでいる木藤という男だ。
なんでも飼っていた秋田犬が目玉だけ残して姿を消したということで、何回かマスコミに取り上げられた男だ。
「なんでしょう?」
木藤が面識のない岩崎を訪ねてきた理由はなんとなくわかったが、一応聞いてみた。




