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仕事と言うものは、休みの日以外には毎日ある。
鉄塔登りに関して言えば、登らなくてはならない日と登らなくてもいい日の二つがあるだけだ。
そして最近は、登らなければならない日の方が多かった。
とは言っても下谷は、登らなければならない日の方が好きである。
なにも鉄塔に登ることが楽しいというわけではない。
やってて楽しい仕事なんて、そうそうあるはずもない。
登らなくていい日は、一日机に座って書類を整理したり、パソコンとにらめっこをしたりしているのだが、それが嫌なのだ。
身体を動かすことが出来ずに、一日机に縛り付けられていることが。
――うーん、ちょっと休憩にするかな。腹もへったことだし。
下谷は、一旦下に降りようとした。
その時である。
遊歩道を誰かが歩いてきたのは。
――神城?
それは神城だった。
そして前回と同じ位置に立ち止まり、前回と同じく空を見上げた。
下谷も前回と同じく空を見たが、当然のことながらそこには青く澄み切った見慣れた空があるだけだった。
神城は前に見たときとは違って、両手はだらりと下ろしていた。
そしてよくよく見ると、時折小さくうなずいているのだ。
――今度はいったい、何をやってるんだ、あいつは。
下谷には神城が、誰かの話を聞いている風に感じられた。
しかし神城が見上げた視線の先には空しかなく、そんなところに誰かがいるはずもない。
下谷はこれまでの人生において、宙に浮いている人間など一度も見たことがなかった。
今後も見ることは、おそらくないだろう。
下谷は下に降りようとしていたことも、腹がへっていることも忘れて、そのまま神城を見ていた。
神城は空を見上げながら、やはり時折うなずいている。




