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「美川日華利をご存知ですよね」
「ええ、知ってますけど」
男は名刺を差し出した。
前に日華利から聞いたことのある、日華利の勤める会社の名前がそこに書かれていた。
男の肩書きは課長だ。
名前はどうでもいい。
男が言った。
「昨夜、美川がここに来ましたね。昨日美川自身が、今日は恋人のところに行くと言っていましたから」
「ええ、来ましたけど」
「でも岩崎さん、昨夜は出社していないんですよ」
「えっ」
「何か知りませんかね」
「出社していないんですか?」
「ええ、出社していませんし、連絡もつきません」
「そんな……」
男が問い詰めるように言った。
「昨夜美川は、何時ごろ帰りましたか?」
「九時ごろですが」
「それなら仕事に充分間に合うはずですか……。車で帰りましたか?」
「だと思います。車は少し離れたところにある公園に停めているはずですが」
「そうですか。ではそこへ案内してもらえませんかね」
「いいですよ」
岩崎が歩き、男がぴったりとついて来た。
岩崎はその間この男から、ずっと無言の圧力を感じていた。
どうやら男は、日華利が出社していないのは、岩崎のせいだと何の根拠もなく決めてかかっているのだろう。




