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「えっ、それはどういう意味ですか?」


「どういう意味もなにも、言った通りそのままの意味ですよ。何の裏もない」


木藤はそう言うと軽く頭を下げて、その場を去った。


木藤がいなくなった後、北山は気付いた。


自分が全身に粘っこい汗をかいていることに。



岩崎は日華利と夢のような時間を過ごした。


日華利がそばにいるだけで、それだけで幸せなのだ。


そして今日こそは泊まっていって欲しいと願ったが、今日も今から夜勤があると言う。


平日の朝八時から午後五時勤務の岩崎と、土日出勤で夜勤が多い日華利は、やはり都合よく好きなように二人の時間を共有するというわけには、なかなかいかないようだ。


特に最近は、仕事の都合によるすれ違いが、今までと比べて間違いなく増えてきている。


岩崎はプローポーズやその他サプライズを用意していたのだが、完全に気が萎えてしまい、やめてしまった。


――最初から言ってくれればよかったのに。


そう思いつつも、何故か今日は泊まっていってくれると根拠もなく思い込んで、日華利の都合を確認しなかったのは自分であると、自分を責めた。


「じゃあ、またね」


最高の笑顔を残して、日華利は去った。


岩崎の胸に、一抹の寂しさと切なさが襲ってきた。



恵一はその日サッカーの練習をしていた。


住宅街の奥にある児童公園で。山際に創られたこの住宅街においても、この児童公園が最も山に近かった。


さして広くはないが、一人でのサッカーの練習くらいなら充分だ。


昼間は子供たちが占拠しているので難しいが、夜なら誰にも邪魔をされることなく、練習に専念できる。


夜でもこの公園は防犯上の理由からいくつもの街灯に照らされていて、暗くて困るということもない。


恵一がいつものようにリフティングの練習をしていると、失敗してボールを大きく弾いてしまった。


ボールは止まることなくそのままころころと山際まで転がった。


駆け寄り、ボールを拾った恵一の目の隅に、何かが映った。


暗くてよくは見えないが、山の中を何かが移動しているのだ。

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