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「そう、でかいやつです。一般的な秋田犬よりもさらに大きな秋田犬。近所の子供たちが、牛と呼ぶほどの秋田犬。その秋田犬に何の反撃もさせないで、あっという間に葬り去るような。そんなやつです」
――なるほど。
北山に木藤の言っている意味が、ようやくわかった。
彼は犯人を捜しているのだ。
自分の可愛い秋田犬を亡きものにしたやつを。
そして木藤は、そいつは山の中に潜んでいて、巨体を有する存在だと考えているようだ。
北山は一応考えてみた。
北山の脳裏に浮かんできたのは、あの動く壁、もしくは塀である。
しかし逆光でよく見ることが出来なかったし、そもそもあんなわけのわからない生き物が、この地球に、ましてや日本に存在するとはとても思えない。
だったらあれは何だったのだと言われても、北山には答えようがないのだが。
北山は自分を見ている木藤を見た。
その目からは激しい怒りとか憎悪と言ったものが感じられた。
しかしそれはもちろん、北山に向けられているわけではない。
愛犬を殺したものに向けられているのだろう。
しかし自分が対象ではないとはいえ、北山は木藤のその目が恐ろしかった。
とてつもなく恐ろしかった。
北山の六十年を越える人生においても、これほどのものはほとんど見かけたことがないほどの、強烈な眼力をその眼は所持していた。
しばし無言の時の後、北山はようやく口を開いた。
「いえ、特に何も見ませんでしたが」
「そうですか。ところで」
木藤の細い目がさらに細くなった。
「猪は例年のように捕れていますか?」
「いえ、今年はどういうわけだか、さっぱりです」
「そうでしょうね。そうだと思っていましたよ。やっぱりねえ」
北山が思わず聞いた。




