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目の前に何かがいた。しかし今は夜で、ここは山の中だ。
光量が絶対的に不足している。
そのために飯田はすぐ目の前にいるはずの何かを、判別することが出来ないでいた。
見えているのはなんだか白っぽい小さなもの。それだけはわかったのだが。
――なんだあれは、いったい?
するとそれが、急に上に向かって上昇し、あっと言う間に見えなくなった。
飯田がそのまま見上げていると、今度は何かが急速に降りてきた。
そして飯田のすぐ目の前に来た。
それは幼い少女の首。
首だけが今飯田の目の前にあるのだ。
――えっ?
飯田が固まったまま目を皿のようにして見ていると、その少女の首がにたりと笑った。
岩崎が家で一人くつろいでいると、突然一人の女性が訪ねてきた。
名を飯田と言う。
「すみません。うちの主人、どこかで見かけなかったでしょうか?」
岩崎は、近所の飯田という男は知っていた。
数度見かけたことがある。
なんだか脂ぎっている中年男だ。
と言うことは、この人があの飯田の妻なのだろうか。
夫とは真逆で、なんとなく生命感が欠けている印象を受ける、影の薄い女だった。
彼女に言わせると、なんでも主人が数日前に突然姿を消したのだそうだ。
警察に捜索願も出していると言う。
最近、近所の主婦たちが集まって何か深刻な面持ちで話をしていたが、このことだったのだろうか。
岩崎は、今にも泣き出さんばかりの哀れな中年女に、知っていることを告げた。
「何も知らない」と。




