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雪は道草に痛みを飾る  作者: くろまりも
第二章 雪と花
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劣勢

 妖怪たちの動きを注視したまま、スズランは現在の戦況を確認する。


「じ、じいさんに突っ込まれて、大量出血と、か、最悪だ、な。お、犯される処女の気持ち、が、少しわかった、気が、する」


 オケラ爺から受けた傷はかなり深い。噛まれる瞬間に咄嗟に身体をずらして致命傷こそ避けたが、このまま出血を放っておけばいずれ動けなくなる。気絶していた間の出血量も馬鹿にならない。長時間の戦闘は避けなければならないだろう。

 メノウの方に視線を向けると、ちらりと目が合う。致命傷には遠いが、あちらもかなり傷が深い。スズランが加わったところで、戦況が不利であることに変わりはなかった。


「やっぱぁ、おめえぇはぁつえぇなぁ」


 倒れている仲間には目もくれず、ナナフシは感心したような声を上げる。


「一目でぇわかったぁ。おめえぇが一番つえぇから、一番に狙ったんだけどぉなぁ。殺せぇなかったのはぁ残念だぁ」

「い、いやいや、そりゃ勘違いだよ、オタク。俺より、そっちの女の方が強いから。俺なんて、倒す価値もないみそっかすだから。だから、今後はそっちだけ狙って。マジで」

「よっ、スズラン!我らが主力ー!いやー、困ったねー。スズランを集中狙いされたら、私たちに勝ち目なくなるからねー。私よりスズランのほうが断然強いもんー」


 強い方から狙うと聞き、互いにヘイトを押し付け合うスズランとメノウ。視線を交わして、「重傷者を労わって、おまえが身代わりになれ」「私女の子なんだからー、あんたが身代わりになりなさいよー」と火花を散らす。あれ、おかしいな。味方がいないぞ。

 ナナフシはきょろきょろとスズランとメノウの間で、忙しなく目を動かす。


「面白い奴らだなぁ、おまえらぁ。俺はぁ鬼神蓮蛇さまが配下の一人ぃ、サクラ隊副長のナナフシってぇもんだぁ。てめえらぁ、名はなんてぇ言うぅ?」

「……弱すぎて弱すぎて、もう放っておいても勝手に負けるんじゃないかということで有名な結城衆最弱の美男子、スズランだ」

「結城衆一番の美少女にしてー、もっとも可憐でか弱い乙女のメノウだよー」


 なに適当な嘘言って、こっちに押し付けようとしてんだと互いに睨みあう。だが、ナナフシの方はそんな嘘は無視して、冷静に記憶を手繰っていた。


「スズランとメノウぅ。聞いたことあるなぁ。確かぁ、結城七羅刹とかいう、結城衆屈指の手練れぇ。『死散全殺』のスズランと、『一切焼却』のメノウだったかぁ?相手にとって不足はねぇなぁ」

「……え?なんで、結城衆なんていう認知度低い集団のこと、そんな詳しいのよ、オタク。ちょっと引いたんだけど」

「強い奴の噂はぁ、だいたい抑えてるさぁ。記憶力はいいほうでなぁ」


 ナナフシは自分の頭を、人差し指でこんこんと叩いて見せた。

 面倒くさい相手だとスズランは思った。鬼や妖怪は強い奴ほど自分の力を過信し、人間を侮る傾向にあるが、このナナフシは妖怪にしては珍しく、実力と慎重さを併せ持っているようだ。その上で、オケラ爺より数段上の風格があるのだから侮れない。

 簡単に勝てる相手ではないということは、手合わせする前から感じ取れた。


「スズランとメノウぅ。てめえらぁ、立派なぁ戦士だぁ」


 うんうんと頷いて、ナナフシは嬉しそうな顔で両腕を上げる。


「おめぇらはぁ、俺がぁ喰うぅ。頭からぁ足先までぇなぁ。おめぇらのぉ魂はぁ、死してアルデバランの戦士の館にぃ招かれるぅ。名誉に思えぇ」

「俺は女性に優しい性格だから、メノウからお先にどうぞ」

「私、女の子だしー、戦士ならスズランをどうぞー」


 妖怪の糞になる趣味はなかったので、またもや互いに押し付け合ってみる。幼馴染を生贄に捧げるなんて、メノウはひどい奴だとスズランは思った。


「心配すんなぁ。仲良く一緒に送ってやるからよぉ!!」


 スズランはとっさの判断で、身体の軸をずらす。直後、彼の眼前の地面が爆発したように大きく跳ねた。

 身体を前後左右に揺らしながら、スズランは大きく円を描くようにしてナナフシの周りを走る。それを追うように、彼の足元の地面もまた次々と大きな音を出して抉れていく。

 直撃すれば一撃で命を奪われる。その威力にスズランは冷や汗を流した。


「なるほど。こいつぁ、初見で避けるのは無理だな。メノウがやられるのを見てなかったら、俺も危なかった。あいつの尊い犠牲を、俺は忘れない」

「あははー、これからスズランが死んでも、私は覚える気すらないけどねー」


 自分が意識を取り戻した直後、メノウの手を刀ごと破壊した攻撃を思いだしながら回避を続ける。あれを見ていなければ、こんなふうに避けることはできなかっただろう。

 スズランの視線の先では、ナナフシの両腕が残像を作りながら高速で動いていた。腕を鞭のようにしならせ、遠心力を使って地面を穿っていく。

 音速を超えて振るわれる猛撃は、見てからかわすということを許さず、初動を見切って、事前に鞭の攻撃範囲を予測するしか回避の手段がない。その速度と威力はすさまじく、完全武装した兵士だったとしても、当たれば兜ごと首を持っていくだろう。

 だが、なによりも厄介なのは、その射程距離だ。

 明らかに腕の長さより射程距離の方が長い。ナナフシが腕を振るう瞬間、その長さが数メートル単位で伸びていることを、鍛え抜かれたスズランの動体視力が捉える。


「こいつの体、バネか何かでできてんのかよっ!?手足が長いだけで人間に近い姿かと思ったが、霧見一族が可愛く見える怪物じゃねえかっ!」

「いやだー。相手したくないー。スズランー、か弱くて可愛い幼馴染のためにー、ちょっと刺し違えてきてー」

「残念ながら、俺の生涯にか弱くて可愛い幼馴染がいた記憶がねぇなっ!」


 ナナフシを中心に点対象になるように位置取りながら、スズランとメノウは軽口を叩きあう。隙あらば接敵しようとし、その都度肉鞭を振るわれて後退を余儀なくされる。

 一手間違えれば死に直結するキルゾーン。僅かなミスすら許されない回避行動を続けながら、スズランとメノウは反撃の機会を伺い続ける。

 傷口から流れ続ける血が、この膠着状態がスズランたちに味方してくれないことを如実に語っている。このままではジリ貧だった。何とかして隙を見出し、ナナフシに肉薄する必要がある。その思考が、スズランたちに読み違いを生じさせた。


「っ!?」


 突然地面が割れ、メノウが一歩後退する。だが、彼女の反応は少し遅かった。地面から出現した巨大ナメクジが彼女を捉え、そのまま捕食するように体内へと引きずりこむ。


「メノウっ!!」


 すぐに助けに向かおうとしたが、それは叶わない。

 ナナフシの影に隠れた死角から、黒い靄が発生し、行く手を遮ったからだ。靄はナナフシの攻撃の合間からスズランに迫ると、不快な羽音とともにスズランへと群がった。


「おぎゃああおぎゃああああああああああ!!」


 ナナフシの身体にひっついてスズランの死角になるように移動していた藪蚊赤子が、大きな声を上げて大量の藪蚊を吐き出す。

 敵はスズランたちに反撃の機会すら与える気はないらしく、速攻で勝負を決めにきた。時間は相手の味方なのだから、妖怪たちはこの膠着状態を続けるだろうと踏んでいたスズランたちにとって、それは完璧な奇襲だった。逃げることも振り払うことも叶わず、スズランは雲霞のごとき藪蚊の群れに呑みこまれる。


「もらったぁっ!」


 藪蚊に血を吸い尽されるのを待つ気もない。藪蚊の群れに視界を奪われたスズランの身体を、強烈無比な肉鞭の一撃が捉えた。

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