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雪は道草に痛みを飾る  作者: くろまりも
第六章 災厄の鬼神
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「むっ?」


 少女ごと叩き潰そうとした時、タマフネは目の端で何かが飛来することを察知する。

 厚い装甲に守られた自身の身体を傷つけられるような武器はそうそうないはずだが、それでも反射的に攻撃を中断し、それを弾いてしまう。

 弾いたのは二本のクナイだ。ただ、普通のクナイと異なり、導火線がついていた。そのことに瞬時に気付いたタマフネは目を閉じ、息を止め、腕で顔を庇う態勢を取る。

 直後、クナイが爆発した。爆発の勢い自体は大したことはなく、大量の白煙が周囲を満たす。ただ、事前に目を閉じていたタマフネはそのことに気付けなかった。


「(ただの目くらましか?それとも、毒か催涙ガスの類か?)」


 豊富な経験から、タマフネはクナイの正体を化学兵器の類と瞬時に判断し、生き残るのに最善の選択をとった。しかし、それゆえに警戒し過ぎ、自ら視界を閉ざす選択をしてしまった。

 パシュッという空気の抜けるような音が連続で起きたことを、タマフネの耳が捉える。サクラが動いたことから、致死性のものではないと判断。音を頼りに拳を振るったが、闇雲に振るったそれが当たるはずもなく空を切る。

 後頭部に走る強い衝撃。拳を振り切った体勢でのことだったので、タマフネは膝を突いて転びそうになる。ダメージ自体は大したことはないと思ったが、自分の立ち位置を思い出し、未だガスが消えてないことを自覚しながらも焦って目を開く。


「うおっ!?」


 そこにあったのは自らが開けた大穴だ。転んでいれば、飛び込んでいただろう。直前で目を開いたことが功を奏し、それを避ける。


「味な真似をっ!」


 自分の後頭部を蹴り飛ばしたであろうサクラに怒りをぶつけようと振り返るタマムシの真横を、長身の男を抱えた小柄な少女が通り過ぎる。彼女は飛行船が地上数百メートルを飛んでいることも構わず、外へと繋がる大穴へと身を躍らせた。


「なにっ!?」


 慌てて頭を外に出して確認しようしたところで、タマフネは思いとどまる。

これは罠かもしれない、と。

 そう思った根拠は、目くらましからタマムシを外へと蹴りだそうとした試みがスムーズであったからだ。事前に打ち合わせしていなければ、あの動きはできない。

 タマフネが飛行船の壁に穴を開け、そこから外に放り出すまでを作戦として考えていたはずだ。タマフネの鉄槌を目にしているスズランならば、そんな作戦を考え付いてもおかしくない。この飛行船内という戦場において、もっとも容易にタマフネを倒す手段はそれだからだ。タマフネだって同じ状況なら同じ作戦を立てる。

 ゆえに、サクラがナナフシを抱えて外に逃げたのは、それを追ってきたタマフネを罠にかける手段かもしれないと判断したのだ。

 タマフネはクナイが飛んできた方向――スズランたちへと目を向ける。白煙はすでに大穴へと吸い込まれており、すっかり晴れている。が、スズランたちの姿はなかった。


「(奴らは穴の外には逃げてない。が、俺の脇を通って搬入口に向かったわけでもない)」


 スズラン一人なら、タマフネの視界が奪われた隙を狙ってそれをすることが可能かもしれないが、彼らにはユキがついている。一緒に通過するなら見逃すはずがない。

 ならば、近くの部屋に隠れたか、元来た道を戻ったかしたに違いない。

 サクラとユキ、どちらを優先するかははっきりしている。だが、その前に、タマフネは廊下の壁に取り付けてある金属製の箱を開け、中から卵の形をした物体を取りだし、それを大穴が開いた廊下の壁に叩きつけた。

 すると、卵型の物体は割れ、中から白い泡のようなものが溢れだし、大穴を覆う。見た目は大量の泡でしかなかったが、それらはすぐに硬化し、壁の穴を塞いでしまった。

 霧見一族が有する技術の一つで、飛行船が破損した際の応急措置だ。鉄ほど固くはないが、それでもコンクリートていどの強度はある。外に逃げたサクラたちがどうなったかはわからないが、これで簡単には入ってこれなくなったはずだ。


「いいねぇ。俺のためにいろいろ考えてくれるのは嬉しい限りだ。外に落ちそうになった時は、ちょっとばかりひやりとしたぜ。……だが、こいつは予想していたか?」


 この応急措置技術は九頭竜勢力だけが有する技術だ。これでタマフネを飛行船の外に押し出すという作戦は非常に困難になった。


「さぁ、命懸けのかくれんぼを始めようか」

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