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雪は道草に痛みを飾る  作者: くろまりも
第六章 災厄の鬼神
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諜報

「シオン……師匠?」


 現れたのは結城評定衆の一人であり、スズランやメノウの師であるシオンだった。

 だが、サクラやスズランを匿うことは謀反に等しい行為のはずだ。重要な地位にあり、家族を持つシオンがそのようなことをするとは、スズランには到底信じられなかった。彼女に化けた偽物を初めに疑ったほどだ。


「何をマヌケ面さらしてんだい。自滅寸前のバカ面と火刑直前のアホ面を合わせて、三冠でも狙ってんのかい、あんたは」

「そっくりさんかと思ったけど、この口の悪さは間違いなく師匠だわ!オタクこそ、こんなとこで何してんのよ?これ、立派な反逆行為になんじゃねえの?」

「反逆行為なのは当たり前だよ。私は土胡坐の諜報員なんだから」

さも当然のように言われたが、寝耳に水のスズランは目を見開いて驚愕する。

「おいおい、いつからだよ?」

「おまえが生まれるより前からだ。……私たちの世代は人間奴隷区が出来立ての頃で、人間が自治する村がまだたくさんあった。結城衆の前身となる人間奴隷は、そういった村々から掻き集められた者たちで、私もその中の一人だ。そして、徴収される前から私はすでに土胡坐と接触しており、諜報員として潜り込むために人間奴隷になったんだよ」


 気が遠くなりそうな話に、スズランは戦慄せざるを得ない。

 シオンの話が真実だとすると、彼女は数十年もの間、霧見一族の奴隷に身をやつしながら、土胡坐の諜報員としても活動していたことになる。誰にも怪しまれることなく、家族まで作って……能力以上に、なんという強靭な精神力か。


「……家族はどうなんだ?メノウを甘やかしてたのは演技だったのか?それとも、メノウはオタクが土胡坐の諜報員だってことを知ってるのか?」

「演技じゃないが、メノウは私の正体を知らない。必要があれば教えていただろうがね。スズラン、私はね、すべての物事を家族中心で考えるようにしているんだよ。土胡坐に手を貸しているのも、いざという時の家族の亡命先として最適だからだ。九頭竜が、いつ何時結城衆を切り捨てるかわかったものじゃないからね。実際、結城衆の裏切り者を何人も土胡坐に亡命させたことがある。ここはそのための施設の一つさね」


 手を広げて示されたことで、スズランはこの場所の正体を知る。

 おそらく、処刑にかけられる者を、他者の目を盗んで偽の死体を入れ替えられる仕組みになっているのだろう。スズランも同じ方法で助けられたわけだ。

 しかし、今回は火刑だったから可能だったが、他の処刑方法なら生きたまま助けるのは難しいはずだ。そこまでして結城衆の裏切り者を助ける利点があるのか?


「……なるほど。生け捕りが最適ではあるが、死体を回収するだけでもいいのか。土胡坐が欲しいのは『半妖』の肉体であって、必ずしも生きている必要はない。確実に回収できるものに絞れば、入れ替えがばれる可能性は激減する」

「そのとおり。土胡坐は半妖化の技術に強い関心を持っている。九頭竜がそんなことをやっているなら、うちでもやってみようってね。本国ではすでに、結城衆と同等の技術で作られた隠密衆が結成されている。私が送りこんだ実験体や資料のおかげでね」


 それを霧見一族の無能が原因とは言い切れない。誰だって、自陣のど真ん中に、こんな大規模な仕掛けが施されているなんて思いもしない。


「そもそもこんな仕掛け、どうやって作ったんだよ?誰にもばれることなく、隠し部屋を作るなんて不可能だろ」

「それを可能にするのが鬼や妖怪だ。土胡坐の主力種族である土蜘蛛は、一体で熟練人夫百人分に相当する工作能力を持つ。それだけの技術力と数十年という年月があれば、隠し部屋の一つや二つ、誰にも知られずに作りだすのは容易だ」


 改めて、種族間の能力差を思い知らされる。

 土胡坐が陸戦の雄と呼ばれる由縁は、単純に戦闘力が高いからではなく、高度かつ迅速な工作能力を持つゆえだ。それはもはや一夜城というレベルの話ではなく、千体の土蜘蛛がいれば、四半刻もかからずにその場を要塞化できる。ゆえに、土胡坐軍と対峙する際は野戦ではなく攻城戦を挑むつもりで挑めと言われるほどだ

 とかく野戦でばかり目立つその能力だが、諜報戦においてもこのように応用できるとは思わなかった。


「……で、俺を助けてもらえたってことは、俺も土胡坐行きなんですかねぇ?」

「そうだと言ったらどうする?」

「いやぁ、毒使いと言っても、蜘蛛と一緒に過ごすのはごめんこうむるねぇ」


 二人の間にピンと張りつめた空気が流れる。

 争い自体はともかく、ここで騒ぎを起こせば、霧見一族に隠し部屋の存在がばれてしまうかもしれない。その危険性にナナフシの額に冷や汗が流れるが、サクラの方はワクワクした表情で二人のやり取りを観戦していた。

 そんな緊張の糸をふっと弱めたのはシオンの方だった。


「本来ならその予定だが、今回おまえを助けたのは別の用途に使うためさね」

「……まぁ、そんな気はしたけどさ。わざと殺気向けるあたり、ほんと性格悪いよ」


 溜息を吐くスズランに対し、シオンは言った。


「スズラン、おまえはユキを救い出して、蓮蛇に亡命させるのに協力するんだ」

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