おっさん、社会経験を語る。
「君たちは、嘘をついていたのか?!」
ギンガが女性たちに向かって叫んだ。
「どんな聞き方をしたのか知らないけどさ。私、中古です!ってなかなか答えづらいんじゃない? そういうの、セクハラって言うんだぜ」
アキラの言葉に、下を向いていた女性たちが一斉に顔を上げる。
戸惑うギンガ。
「セクハラ? なんですか? それ?」
「古代文明の言葉さ。アレもセクハラ。コレもセクハラ。セクハラのせいで自由は失われたんだ」
「な、なんですって!?」
アキラは、小惑星衝突以前の社会、その一部を語って聞かせた。
まるで見てきたように語る説得力は、ギンガたちを納得させてしまう。
「確かに、性的な言動にイタズ
ラや強要は、批判されて然るべきだな」
ロッキーの反応にサカキは戸惑いの返答をする。
「だが、相手のことが好きか嫌いかにもよるんじゃないか? 我はなんとなくそう思うぞ」
「そうか! それを判別する基準がないから、一律に全体を縛り付けたんだ!」
ギンガが納得したように叫んだ。
「なんだと! それじゃ、女の子と仲良
くなるのに気を使いまくるじゃないか!」
「うむ。愚策としか思えんな。それでは、人前で触手を動かすことさえ戸惑ってしまう」
「人間が考えた高度な社会なんて、その程度のもんさ」
タコが足を動かしてもセクハラじゃないよね? と、アキラは思った。
そもそも、昔は喋るタコなどいなかったのだ。
「そ、そうよ! 私はサカキのセクハラ被害者なのよ! アキラさんなら解ってくれるわ!」
サカキの触手に発情したエミリアは、自分のチョロさをごまかそうと叫ぶ。
「そうニャ! 目の前でイヤラしく指を動かされたニャ! 怖かったニャ!」
「え、えっと、そ、そうよ! セクハラ怖い!セクハラ怖い!」
「「「セクハラ反対!!」」」
同調するアヤセとシャルに、一部の女性たちが加勢するように声を上げ始めた。
「こ、これが、失われた時代の実態なんですね……」
「ゆ、許してくれ! 俺はそんな
つもりじゃなかったんだ……」
「ええい! 黙れ女ども! いや、すみません。逆ギレじゃないです……」
「分かったろ? お前らの望んでいた社会の理不尽さが」
アキラは、ギンガたちを囲む透明な結界の前に立った。
『殴れば、こんな結界くらい割れそうだ』と、おっさんは思っている。
ロッキー、ギンガは、床に正座させられていた。
タコのサカキは、正座かどうかわかりづらい。なんか小さくなっている。
神々の干渉すら防ぐはずの結界を、アキラは素手で殴り割っていた。
ロッキーたちに、もう反抗する気力はない。
失われた文明の実態を聞かされた時点で、彼らの心は折れていたのだ。
シャルたちは女性たちの拘束を解いて周っている。
アキラは、ギンガから奪った本に目を通していた。
メモのような紙片に邪神のことが書かれ、本のページに貼り付けられている。
そこには、女子中学生が書いたような丸い文字で、古代文字・日本語が書かれていた。
ギンガは古代文字を研究して、紙片の文言を解読したのだった。
アキラの中のおっさんは、紙片を読んでニヤけてしまった。
アニメや特撮から引用された中二病設定と、どこかで聞いたことのあるような呪文。
当時を知らなければ、こんな物でも大げさに考えてしまうだろう。
「お前ら、シャルたちに手を出していないんだな? 性的に?」
「ええ。誓います。惹かれたのは事実ですが……」
「あぁん?」
ギンガに凄むアキラに、ロッキーが慌てて答えた。
「本当だ。全員、処女じゃないと邪神の復活ができないだろ」
「ホントだろうな? 嘘だったら、どこまでも追いかけて細切れにするぞ」
「ひぃぃぃ」
怯えるサカキを無視して、シャルが走り寄ってくる。
「あ、アキラ、あの、それってヤキモチを焼いてくれてるの?」
アキラは不満そうに目を向けながら、鼻で小さく笑う。
上目遣いで恥じらうシャル、その頭に手を置いてアキラは撫で始めた。
「ご主人様、あたしも!」
「ずるいわ!」
アキラはシャルたち3人を抱きしめる。
「すぐに帰って確かめるぞ。念入りに隅々までな」
目に涙を浮かべて喜んでいる彼女たちの身体を、アキラは調べるようにまさぐった。
「「「いや〜ん」」」
「ちょっと待て。確かめるって、お前は処女厨だろ? どうやって?」
言葉がズレるのを煩わしく思ったアキラは、ロッキーの体のズレを叩いて直してやっていた。
ズレは目立たなくなったが、顔中がボコボコに腫れている。
「俺は、もうとっくに処女厨をやめたんだ」
「じゃあ、彼女たちは?」
「ふっ。もう、穴という穴は、すべて開通済みだ。まだ未開通なのは毛穴くらいだな」
「やめてー!」
「そ、そう言うことを人前で言わニャいで!」
「わたしの毛穴は準備万端よ!」
処女じゃないのかよ!と、ロッキーは思ったが、同時に手を出さなくて良かったと思い直す。
ギンガも同感だった。
「彼女たちを巻き込んだ時点で、ボクたちの計画は失敗していたんですね……」
「ふっ。それはどうかな」
アキラは、シャルたちから離れて、邪神の元へと歩いて行った。
「処女どうこうは関係なく、やはり衰弱はしてるんだな」
邪神を包む膜を素手で破るアキラ。
溢れ出る液体から逃げていたが、それが収まると同時に邪神の側に近づいた。
「アキラ、何をするの?」
「ど、どうするつもりですか?!」
つぶらな眼を開く邪神。
丸い顔とつぶれた低い鼻に、浮遊霊のおっさんは見覚えがある。
アキラは、邪神の額にかざした掌から光を放った。
「こんなもんかな」
「ど、どうするつもりです?!」
「この子は、俺がもらう。昔、飼ってた犬にそっくりなんだよね」
「アキラ、犬なんて飼ってたっけ?」
昔、犬を飼っていたのは、浮遊霊のおっさんである。
ギンガの本からちぎり取ったメモを取り出して、アキラは読み上げた。
「まはりーく、てくまく、しゃらんらー、ぴぴるま、ぱんぷるに代わってお仕置きよ!」
「わんわん!」
邪神は立ち上がった。
その巨大さに威容を感じ取って、拘束を解かれた女たちは逃げていく。
「よーし、よしよし」
「バカな! あなたは何者なんですか?!」
邪神は、アキラの顔を舐め始めた。でかい口でアキラの頭を甘噛みしている。
「エミリア! 魔法で濡れた毛を乾かしてやってくれ!」
「え? は、はい」
邪神は、小惑星衝突前に、女子中学生に飼われていたパグだった。
「よくわからない物質」の影響を受けながら地中深く眠っていたのだ。
浮遊霊のおっさんの記憶に、「神々ごと世界を焼き払う邪神」など存在しない。
メモを読んだアキラは、それが飼い主の厨二的妄想だと感づいていた。
アキラは、額にかざした掌からエネルギーを与えながら、巨大なパグがドラゴンを超える破壊力を持っていることにも気づいていた。
だが、彼には懐かしいパグでしかない。
浮遊霊のおっさんにとってパグは、離婚した妻によって引き離された愛犬にしか見えなかった。
「シャルとアヤセも、触ってみろよ」
「う、うん」
シャルとアヤセは、恐る恐る近づいて行く。
エミリアの熱風魔法を浴び、アキラに飛び乗られ撫で回されている巨大パグ。
気持ち良さそうに目を細めている。
「さ、さすが超越者・アキラ。邪神をてなづけましたか」
「俺たちは、見逃してもらえるのか?」
「というより、我らのことを、もう忘れている気がする……」
「シャル、アヤセ、エミリア! ケルの上に乗るんだ。帰ろう、ヒトマルに!」
邪神・地獄の番犬ケルベロスは、アキラの仲間になった。
ドカッドカッ! シェリルは巨大な獣が近づく足音に怯えていた。
10式戦車の中の絨毯の上で跪いて天を仰いでいる。
「神よ、淫らな私をお許しください……」
迫るのは、神の怒りか、復活した邪神か?
バタン! 「ただいま!」
性の超越者・アキラだった。
「アキラ様!」
飛びかかって抱きつきキスをねだるシェリル。すでに神の怒りは頭にない。
アチコチ揉まれながら押し倒された。
「誰?! その女!」
「ご主人様、ひどい!」
「アキラさんったら」
シャルのスナイパーライフルの銃口が、アキラの後頭部に押し当てられる。
「誰って、新しい嫁だけど、なにか?」
「わ、私がお嫁さん!」
「あんたは黙ってて!」
シャルは銃口をシェリルに向けて叫んだ。
「この浮気男! 私たちを怒ったくせに! その娘が嫁なら、私はなんなのよ?!」
「嫁」
「え?」
「ご、ご主人様、わたしは?! 」
「嫁」
「アキラさん、じゃあ私も当然?」
「嫁」
「「「いや〜ん」」」
銃を放り出してアキラに抱きつくシャル。
それに続くアヤセとエミリア。
チョロインズは、どこまでもチョロいのであった。
「そ、そんな、5人で?! 私、初めてなのに!」
「先っちょだけ、先っちょだけだから」
「きゃー、そこはダメー!」
「ナオーン、ナオーン」
「アキラさんのアキラさんが!」
「神様! 助けてー!」
10式戦車の側にお座りする巨大なパグが、星のない夜空に吠えていた。
「あおーん」
その姿は、神を待ち伏せ撃退を目論む邪神のように見えたと伝わっている。