おっさん、ネトラレる?
あてのない旅路の途中、ふらりと立ち寄った街は栄えていた。
BARカウンターに座って横を見れば、ガラス越しに夜景が見えている。
グランドピアノからはジャズが流れていた。
シャルは一人グラスを傾けながら、ため息をついた。
「いけないな。ため息をつくたびに、幸せは逃げていくんだぜ」
まつ毛が長い金髪ロン毛男が、シャルのそばに立って声をかけてくる。
窓からグラスへと視線を移すが、シャルは男を振り返らない。
「君のような美しい女性を放っておくことはできないんだ」
「私なんて……」
「マスター、彼女にはブラッディーメアリーが似合う。俺から一杯を」
男はカウンターに肘をついて、ウィンクをしながらマスターにカクテルを注文する。
腕まくりをしたスーツの裾からは、鍛えれらた腕がのぞいていた。
「何があったか知らないが、夜は長い。俺で良かったら話を聞かせてくれ」
シャルは、男の腕に走る血管の膨らみ、ゴツゴツとした手首を眺める。
それはまるで、男性自身を表しているように思えた。
「ごくっ」
目に焼き付いたアキラのアレを思い浮かべる。シャルは他の男を知らない。
男の人って、みんな違うのかしら? この人のアレってどうなっているんだろう?
シャルは、「いけない」と思いながらも想像してしまうのであった。
シャルと男の視線は絡んでいく。
「俺は、イタリア族の勇者・ロッキーだ。君に出会えた夜に乾杯」
栄えた街には巨大な図書館があった。
各種の研究機関、高等教育機関も抱える街では、夜でも図書館を訪れる者がいる。
両腕にたくさんの本を抱えたアヤセが、本棚の間を歩いていた。
すべて料理の本である。この図書館には、珍しい古代文明のレシピも置かれていた。
「頑張ってお世話したって、あたしニャンか相手してくれニャいのに……」
アヤセが、淋しさに気が取られた瞬間、一人の少年とぶつかってしまう。
抱えていた本の束が床に散乱した。
「ごめん! すぐに拾うから待ってて」
彼は、宝物を扱うように本を丁寧に拾い上げた。
「まさか夜の図書館で、こんな可愛いメイドさんに会えるとは思わなかったよ」
褒められ赤面するアヤセ。
少年は近くのテーブルまで本の束を運んだ。
「ここでいい?」
「はい。ありがとうございます」
アヤセは語尾にニャを付け忘れてしまう。
アヤセと少年は、テーブルに向かい合って座った。
研究書だろうか? 少年は一冊の本を手にとり、丁寧にページをめくった。
本を扱う優しい手指の動きに目を奪われる。思わずアヤセは息を飲んだ。
強引なアキラの指使いを思い出してしまう。アヤセは他の男の指使いを知らない。
男の人って、みんな違うのかしら? この人は、どんな風にするんだろう?
アヤセは、「いけない」と思いながらも想像してしまうのであった。
「それは、古代文明のレシピ本だね。『モッコリキッチン・全身オリーブオイルまみれ』かぁ。美味しい料理が載っているんだろうね。君が作った料理、食べてみたいな」
少年に指摘され、本のタイトルを慌てて隠すアヤセ。
開いた本に隠れるようにして少年を見ていたのだった。
「僕は、イヌミミ族の賢者・ギンガ。よろしくね」
栄える街にも、うらぶれた一角はある。
夜のとばりが降りた後、ネオンに照らされる通りから一歩逸れた路地裏。
下呂と小便の臭いが漂う場所に、暴力の匂いを漂わせた男たちがたむろしていた。
「おい。ねーちゃんよぉ。この落とし前、どうやってつける気だ」
エミリアは、男の言葉を鼻で笑って答えた。
「粗チンどもが、気安く話かけないで欲しいのよね」
エミリアの足元には、数人の男が倒れている。
「いきなり魔法をぶっ放しやがって。いい女だと思って声をかけただけだろうが!」
「汚い手で肩を触るからじゃない。電撃の麻痺で気を失っているだけよ」
「俺ら、ロケット団に手を出した以上は、観念してもらうぜ。ヤク漬け性奴隷にしてやる」
男たちは、それぞれ武器を構えた。
拳銃、日本刀、マチューテ、カットラス、手入れされた金属が物騒にネオンの光を纏っている。
「あら? 傷をつけたら売れないんじゃないの?」
「手足が無い女が好みの客もいるのさ」
白スーツのヤクザ風の男を中心に、眼帯のギャングなど、チンピラの数は8人。
電撃で気絶した3人の男を足したとしても、エミリアには物の数ではない。
エミリアは、気だるそうに魔法の準備に取り掛かった。
「待て!」
エミリアとチンピラたちの間に、黒いコートの男が空から舞い降りた。
「ボス!」
「お前らが、束になっても、この女には敵わない。やめておけ」
「そ、そんな! でも、ボス、このまんまじゃ、ロケット団が舐められちまう」
突然、白スーツの男の首に触手が巻きつき、そのまま上空へと持ち上げてしまう。
ざわついたチンピラたちが複数の触手に薙ぎ飛ばされていった。
「この女は我の物とする。お前らは黙ってろ」
戦い慣れたエミリアであっても、高速な触手の動きを目で追えていない。
触手はコートの裾から生えるように出現していた。
エミリアは、触手の怪しい動きに目を奪われていた。
神の恩恵で柔軟すぎるアキラの腰使いを思い出してしまう。エミリアは他の男の腰使いを知らない。
男の人って、みんな違うのかしら? この人は、どんな風に動くんだろう?
エミリアは、「いけない」と思いながらも想像してしまうのであった。
そもそも、アキラには触手が一本しかない。
「我は、多脚族の魔王・サカキ。お主に惚れた。我に従え」
「じゃあ、この街は、勇者と賢者と魔王が手を組んで支配しているのか?」
「うん。珍しいよね。普通は目があっただけで殺し合ってもおかしくないのに」
10式戦車内部の拡張された空間の中にアキラはいた。
栄えた都市を囲む城壁外の草原に戦車を停車させている。
人混みが苦手な浮遊霊のおっさんは、栄えた街に興味がなかったのである。
「でも、浮遊霊のおじさんには関係ないよね」
戦車精霊・ヒトマルの手には、ゲームのコントローラーが握られている。
リビングの壁に設置された大型モニターには、10式戦車の電子頭脳にインストールされたゲーム画面が映されていた。
アキラは、ヒトマルと共にTVゲームを楽しんでいたのだった。
「あれ、誰か来たよ」
ヒトマルが、そう言ったあと、戦車の装甲をノックする音が聞こえた。
「うーん。めんどくさいなぁ。ヒトマル、ちょっと出てよ」
「えー、おじさんって、ずっとそんなんだよね」
ヒトマルは砲塔の暗視カメラを利用して、何やら確認している。
突然、訪問者の目の前、装甲横の一部が外に倒れるように開いた。
「どうぞ、お姉さん。こんな夜にどうしたの?」
ヒトマルが訪問者を出迎える。
そこには、神官服の美少女が驚いた顔をして立っていた。
「こちらに、カンストの勇者・アキラ様がいらっしゃると神託が……」