おっさん、勇者になる。
「こ、これは姫様の生首!」
金髪の少女は、勇者が抱える物体に気付いた。
『あの娘は、シャル。庭師をしていたボクの父さんの雇われ先、リーズ伯爵家のご令嬢だよ。お転婆な彼女の剣の稽古に付き合わされたことが、ボクが武術を習うキッカケになったんだ』
勇者がシャルと呼んだ少女の名は、シャルロット・リーズ。ヒューマン族だ。
16歳、身長158cm、美巨乳(Dカップ)、金髪セミロング、ミニスカートの上に鎧を纏う姫騎士スタイルである。
ちょっと違うのは、背中に大型スナイパーライフルを背負っていることか。
「アキラが目覚めないのは、この生首の呪いに違いないわ。姫様、許して!」
シャルは生首を投げ落とすと、サッカーボールのように蹴り飛ばした。
『ああっ、私の生首が!』
空高く飛んでいく生首。
シャルは、素早くニーポジションでライフルをかまえると叫んだ。
「ハイッ!」ドンッ!!
シャルの愛銃「バレットM82」が火を噴く。その直後、姫の生首が爆散した。
『シャルは相変わらずお転婆だなぁ』
『クレー射撃かよ!』
浮遊霊のおっさんはツッコンだ。姫はさめざめと泣いている。
そんなシャルが勇者をふり返ると、背の低いネコミミ少女が勇者の腹の上で丸くなっている。
「アヤセ、ダメ!」
「シャー!」
『あの小さいネコミミの娘はアヤセ。ボクが5歳の時に、橋の下でダンボールに入れられていたのを拾ったんだ』
『ネコミミ族は、繁殖適齢期にまで成長すると人間の姿になるんです。それまでの姿は子猫と同じだから、よく捨てられちゃうって聞きますわ』
『姫にも、可愛がってもらったよね。2年くらい前から、急に可愛い女の子になっちゃってさ。ちょーどいいから、ボク好みの女に育てようと思って』
アヤセ、ネコミミ族。
13歳、身長142cm、ツルペタ、黒髪ふわふわショート、ミニスカメイド服にカギ爪ガントレットスタイルだ。
ネコミミ族の高い身体能力を活かして戦う。近接戦闘は勇者に継ぐレベルである。
高い視力と索敵能力を持つため、スナイパー・シャルのスポッターとしても活躍している。
「シャルはうるさいニャ!」
「アキラが喜ぶからって、語尾にニャを付けるのはワザとらしいわよ」
シャルに文句を言うアヤセに、銀髪の少女が言ってはいけないツッコミを入れる。
『最後の娘はエミリア。ヒューマンのお母さんと魔人の男の間に産まれた半魔人族だね。普通は、産まれた子供を魔人族は大切に育てるんだ。でも、父親を名乗る人数が多すぎて、飼育放棄された可哀想な娘なんだよ』
『お母さんは、魔人を上回る性欲の持ち主だったんだね』
浮遊霊のおっさんは思わず感想を述べてしまう。
『4年前、娼館に売られる寸前に、勇者様が救ったんですよね』
『うん。魔法を教えたら、すごい才能でさ。今や、パーティーの最大火力だよ』
エミリア。半魔人族。
18歳、身長164cm、爆乳(Gカップ)、銀髪ロング、スケスケ寸前の薄い生地で作られた超ボディコンワンピーススタイルの処女ビッチだ。
魔人族から受け継いだ高い魔力は、魔王に匹敵するとも言われている。
光属性を除いたすべての属性の魔法が使える上に、魅了を筆頭に数々の状態異常魔法までも扱える。
むろん、回復魔法もスペシャリストだ。
「ちょっと、エミリア! アキラのどこを触ってるのよ!」
「いいじゃない。こんな時くらい。普段、アキラさん、触らせてくれないんだから。シャルもどう?」
「ちょっ、ズボンを脱がせようとするのはやめなさい! で、でも、ちょっとだけなら」
「シャー!」
シャルたち3人は、争うように勇者の肉体に身体を寄せ合っていた。
「なんで? アキラの身体が温まらないの?!」
「脱がすのよ! 私たちも全裸で! ハァハァ」
「なーぁ、なぁーーーぁ」
『な、なんかすごいことになりそうなんだけど』
『シャルたちは、ボクに夢中だからね』
『あんなに好かれてるのに、彼女たちを放置してあの世に行っちゃうんだ?』
浮遊霊のおっさんには理解できないのだった。
姫は確かに美しい。だが、シャルたち3人も、引けを取らないほどに魅力的に思えたのだ。
3人とも、勇者の大好きな処女だし、姫はもう中古だし。
『ボクにとって一番大切なのは、姫の処女なんだよ。姫と結婚して、この国の王になったら、いずれはシャルたちを側室にしようと思っていたんだ。彼女たちの想いを無下にするつもりなんてない。ちゃんと順番に処女を!』
『じゃあ、残って彼女たちと幸せになればいいじゃん』
『わかんないかなぁ』
勇者は浮遊霊のおっさんに語り始める。熱い想いを。
『あの魅力的な美少女たちは、ボクが求めれば、いつでも好きなようにできるんだ』
『はいはい』
『でもさ、いつでも出来るってことは、もうやったも同然だろ?』
『はいは……、はぁ?』
『それって、ボク的には価値半減なんだよねぇ』
『はぁ』
『だが、姫さまは違う。勇者のボクといえど、そう簡単には手を出せない!』
『はぁ』
『ほぼ、人類全処女の価値に等しい。まさに、国を代表する処女膜なんだ』
『はぁ』
『勇者になって魔王を倒せば、それが手に入る! そのためにボクは努力してきた!』
『はぁ』
『すぐそばの美味しい処女を放置してまで! あえて、手を出さないで我慢してきたんだ!』
『はぁ』
『その、溜まりに溜まったボクの衝動を、すべて姫の処女膜にぶちまける!』
『はぁ』
『それが、ボクの夢だった! チクショウ! 魔王の野郎、許さねぇ!!!』
『はぁ』
『ゼェゼェ。長い旅だった。ボクの衝動は、もう爆発寸前だ!』
『はぁ』
『夢を叶えるためなら、生死なんて、ボクの障害にはならない!!』
『勇者様! 姫は幸せです!』
浮遊霊のおっさんは、ついに言葉を失った。
おっさんに代わって、死神が口を開いた。
「で、私はどうすればいいんでしょう? 勇者様には、神様から殺しのライセンスが出ています。なので、何万人殺した後でも、天国に行ってもらうのは問題はありません。ただ」
『ただ? ただ、なんですか?!』
勇者は食い気味に問いかける。
「勇者様の身体は、まだ死んでいません。このままでは、植物人間になってしまいます。死神的には避けたいんですよねぇ。査定が下がっちゃうので」
『なんの査定だよ!』
浮遊霊のおっさんは、すっかりツッコミ役である。
「そこで、浮遊霊さんに提案です」
『はぁ』
おっさんには、死神の提案に良い思い出がなかった。
「浮遊霊さんが、勇者様の身体に入るっていうのは、どうでしょう? それで解決です!」
『え?』
『決まった! それで行きましょう!』
『勇者様! 嬉しい!』
おっさんが、勇者の身体を見ると半裸の美少女たちが絡みついていた。
おっさんは、その光景に思わず息を飲んでしまう。
おっさんが、最後にしたのはいつのことだっただろう。もう思い出せない。
『え? いいの?』
『いやぁ。浮遊霊さんには頭が上がりません。もう、あの娘ら、好きにしちゃってくださいよぉ』
『参ったなぁ。マジでいいの?』
『お? まんざらでもありませんね? お客さん』
勇者とおっさんの会話は、風俗の客引きと通りすがりの客の会話にしか聞こえなくなっていた。
おっさんは、とにかく勧誘に弱いのだ。
「ひっく。ひっく。アキラお兄さん、どっか行っちゃうのぉ?」
『うぁっ! なに? この子供?』
ヒトマル・ロココ・テラダー、通称・ヒトマル。
長く人に愛されてきた戦車には精霊が宿ると伝説がある。
見た目年齢は7歳。おかっぱで前髪パッツン、つぶらな瞳、プニプニの頰、蝶ネクタイ。
10式戦車の電子頭脳に宿り、見事な操縦で勇者の戦闘をサポートする、プロショタ精霊だ。
『この子供が魔王を轢き殺したのか』
『ヒトマル、いいかい? 今日から、このおじさんが君のマスターだ』
「ひっく。ひっく。わーん」
『大丈夫だよ。このおじさんは、僕の身体を使うんだ。ちゃんと勇者の魔力はもらえるから安心してね』
プロショタ精霊は、花を咲かせるように笑顔に変わった。
「ボクがんばりましゅ。よろしくおねがいしましゅ」
『は、はい。こちらこそ、お願いします!』
浮遊霊のおっさんは、精霊の笑顔に恐怖を感じて、かしこまってしまう。
『さぁ。これで思い残すことはないな。では、参りましょう姫! 我らの愛の巣へ!』
『はい! 勇者様、早く私をめちゃくちゃにして!』
さっき、散々めちゃくちゃにされたと思うのだが、おっさんはもう何も言わない。
瓦礫が転がるだけの荒野となったヒューマンの国に、夕日が差し込んでいた。
『どうぞどうぞ』
勇者は、浮遊霊のおっさんに、自分の身体に入るように丁寧に促した。
おっさんは頭を掻きながら、勇者の身体に入っていく。
ほぼ全裸でピチピチの肢体をなすりつける美少女たちは、勇者の異変に気付く。
「あっ、アキラが目を覚ましたわ!」
「ゴロゴロゴロ」
「アキラさん、抱いて!」
「よーし、おじさん頑張っちゃうぞー!」
こうして、浮遊霊のおっさんは勇者になった。
「きゃー、待って。ここで? みんな一緒に?」
「ゴロゴロゴロ」
「姫さまは、もういないわ! アキラさんは私たちのモノよ!」
勇者・アキラ。17歳。身長170cmの細マッチョ。
神に与えられた恩恵に甘えず、鍛え続けた結果、すべての能力が人間の限界を遥かに超えた少年である。
人々は、彼をカンストの勇者と呼ぶ。
その肉体に宿った精神が、かつて「浮遊霊のおっさん」と呼ばれていたことを知るものはいない。
天に昇っていくアキラと姫の魂は、あたたかい眼差しで手を振っていた。
仕事を終えた死神は、瓦礫の荒野を去ろうとしている。
おっさんが死神に会うことは、もうないだろう。
なぜなら、
「勇者・アキラは、神により不老不死の恩恵を与えられてます。頑張って、永遠に勇者を続けてくださいね」
死神が去り際に発した言葉は、もうおっさんの耳には入らなかった。
「きゃー、そこはダメー!」