勇者登場!
あれから、どのくらい経ったのだろう。
「勇者よ。遅かったな、待ちわびたぞ!」
「魔王、姫はドコだ?! ドコにやった!」
宇宙の果てから地球へともたらされた「よくわからない物質」の影響によって、人類は複数の亜種へと進化していた。
平凡な能力だが繁殖力の強い種族・ヒューマン族。
異常に性欲が強いのに子宝に恵まれない種族・魔人族。
同族同士では子宝に恵まれにくい魔人族は、たびたびヒューマンの国を襲った。
そして、ここに激しく相対するのは、ヒューマン代表の勇者と、魔人代表の魔王である。
ある日、魔王率いる魔人軍が、ヒューマンの国を襲った。
勇者が囮に騙され国を離れていた隙を、魔人軍は襲ったのだ。
騙されたと気づいた勇者が国に戻った時には、すでにヒューマンの国は敗北していた。
男は殺され、女は陵辱される。
陵辱に夢中の魔人族は、ほぼ全員が勇者に後ろから刺し殺された。
荒廃した首都で数多の戦いを繰り広げ、魔王に占拠された城に向かう勇者。
そして、ついに因縁の対決が始まる。
現在、魔王はヒューマン王家の姫を盾に、勇者を牽制している。
「がはははは! 姫の処女は、すでに我がいただいたわ!」
「う、嘘だ!」
「今頃は、部下どもの慰みモノよ!」
「人質に手を出すなんて! 姫の処女を返せー!」
命の心配より、処女を奪われる方が勇者にとって大きな問題であった。
『姫さま、勇者さんが、あんなことを言ってますけど』
『浮遊霊さん、勇者様を悪く言わないで!』
純潔を守れなかった姫は、すでに自ら命を絶っていた。
隣の部屋では姫の死骸を相手に、必死に腰を振る魔王の部下たちがいる。
性欲が強すぎて、もはや相手の生死にも気づかないのだ。
「魔王よ、許さん! シャイニングブレード!」
勇者が叫ぶと剣がまばゆい光を放ち始めた。
「くっ、まぶしい!」
魔王は、あまりの眩しさに目をつぶり手で覆う。
隙だらけだが、勇者の攻撃は来なかった。
『勇者さんも目をつぶってますよ』
『しばらくしたら、ほどよい光加減になるのです』
眩しすぎる光から避けるように、勇者は手を伸ばして剣を遠ざけている。
いつもより長く光る剣にじれた勇者は叫んだ。
「来い! ヒトマル!!」
キャリキャリとキャタピラの音を響かせて、戦車が現れる。
城の壁も、豪華な内装や家具も、すべてを踏み潰しながら。
それは、21世紀最強と噂された陸上自衛隊の10式戦車だ!
「喰らえ、120mmAPFSDS弾!」
「ま、待て、せめて目が開けられるようになってから!」
激しい砲撃音。戦車の主砲が火を吹いた。
戦車砲弾は、魔王の3mを超える巨体に命中する。
魔王を貫通した戦車砲弾は、さらに後ろの壁をも貫通した。
そして、後ろにあった隣の部屋にまで甚大な被害をもたらしたのだった。
巨体の胴体中心に大きな風穴を開けた魔王が、よろよろと立ち上がる。
魔王は膝に手を付きながら言った。
「ぐ、ぐ、貴様、隣の部屋に誰がいたのか分かっているのか?」
「え? なんか言った?」
近くから撃たれた戦車砲の爆音で、勇者の耳はキーンとなって聞こえない。
「勇者、貴様は許さん! ダークバースト!!」
魔王が、勇者に向かって両掌をかざし撃ち出したのは、極大暗黒魔法である。
それは、極太の黒い光線状のブラックホールだった。
躱し逃げる勇者をブラックホール光線が追う。さらに勇者は逃げる。光線が追う。
結果的に、あたり一面を薙ぎ払うことになった黒い光線は、ヒューマンの国を無に変えていく。
生き残っていたわずかなヒューマンと魔人をも犠牲にして。
だが、10式戦車は、後退と前進を繰り返して光線を避けていた。
自衛隊自慢の10式戦車は、前後の急発進が得意なのだ!
「ええい! ちょこまかと!」
避けまくる勇者と戦車にイラつく魔王。
「シャインウィング!」
叫ぶ勇者の背中に光の翼が現れ、勇者は天空へと飛び立った。
戦車砲の影響とブラックホール光線によって、すでに城に屋根はない。
『霊って、ブラックホールに吸い込まれないんですね?』
『姫さまもどうですか? 浮遊霊生活』
ダークバーストが撃ち終わった。
魔王が胸の傷をおさえ、肩で息をしている。
どうやら、魔力が尽きかけているらしい。
「ここまでだ! 魔王よ!」
天空に静止する勇者が叫ぶ。
「黙れ! 勇者ぁぁぁ!!」
魔王が拳を握りしめ、勇者に向かって大きくジャンプをした。
勇者も魔王に向かって高速で飛行を開始する。
2人が空中で激突する瞬間。白と黒の光の閃光が爆発する。
爆発が終わった後に浮かぶのは、激突する2人の姿だった。
魔王の右拳が勇者の顔面にめり込んでいた。
勇者の蹴りが魔王の顔面にめり込んでいた。
だが、ゆっくりと離れ、地上に墜落したのは魔王だけだった。
勇者は、魔王のそばに優雅に着地する。勇者は鼻血も出ていなかった。
「ボクのスキル、超振動キックだ。お前の骨格は、すべて粉砕されている」
「こ、殺せ!」
魔王が敗北を認める。すでに立ち上がることもできない。
そして、勇者に自分のとどめを要求した。
「ヒトマル!」
「おい。そりゃないだろ!」
魔王に迫る10式戦車。
そして、自慢の急発進を執拗に繰り返して、魔王を念入りに轢き殺した。
『すごい! 勇者様すごい!』
『姫さまの国の方が、すごいことになってますよ』
勇者は姫を探している。
「姫さまー! ぐすん。中古になってしまった姫さまー!」
『勇者様! 姫はここです!』
『勇者さん、泣いてますよ』
「まだ、ボクは童貞なのに、中古になった姫さまー! うわーん」
『あなたに捧げた心の純潔は清いままです。勇者様!』
勇者が瓦礫をどかすと、瓦礫の隙間に姫の生首が落ちていた。
「姫!? そんな! 魔王がぁ! 魔王がぁぁ! うぐ。がはっ」
10式戦車の主砲が姫の遺体を引き裂いたのだが、勇者は魔王のせいにした。
勇者は姫の生首を抱きしめたまま倒れて失神する。
ビクビクと魚のように痙攣していた。
『あんなに強いのに、メンタル弱すぎでしょ』
『はっ! ここは!』
『勇者様、それは幽体離脱ですわ!』
倒れた勇者のそばには、彼の幽体が佇んでいる。
『は! 姫! ご無事でしたか? 処女膜以外は!』
『うっ。勇者様、ごめんなさい。私は自らの手で命を』
「はーい。順番に並んでー。並ばない人は浮遊霊になっちゃいますよー」
黒衣の死神が現れた。
魔王と勇者の戦いによって死んでしまった亡者が行列を作っている。
『姫! あの黒い奴はなんですか?! 魔人?』
『わ、わかりません』
『あー、あれ、死神ですよ』
浮遊霊のおっさんは、死神と亡者のことを2人に教えてあげた。
ついでに勇者が気づいていない幽体離脱のことも。
『じゃあ、あんなにたくさんの人が魔王に!』
『いや、けっこうな割合で勇者さんにも責任ありますけどね』
『何? 我は地獄なのか?!』
魔王が死神にくってかかっていた。
死神が魔王の耳元で何かを囁いている。
『よかろう! 地獄で修行をすれば、もっと強くなれるのだな! 覚えてろ勇者め!』
魔王は地獄へと旅立った。
転生して地獄から出られるのは、だいたい50億年後である。
死神は大事なことを、いつも教えてくれない。
『勇者様、次は私の順番ですわ。あなたに出会えて嬉しかった』
『姫、ボクの大事な姫! あなたのために童貞を守り続けたことは無駄になりました。でも、あなたと離れたくない!』
「あれ、勇者さんですよね? 幽体離脱ですか? さすが、器用だなぁ」
勇者は神に選ばれた男である。死神社会でも有名らしい。
『死神さん、姫はこれからどうなるんだ?!』
「こちらの方は、これから天国に行ってもらいます。そこで天国用の身体をもらって過ごすのです」
『なんだって! 天国用の身体だって! そ、それは新品ですか?』
「そうですよ。見た目は一緒ですが、ちょー新品です」
死神の返事に衝撃を受けたらしい勇者は固まってしまう。
「では、行きましょうか」
『勇者様、お元気で』
『はい! ボクも行きます!』
勇者は元気よく手を上げて叫んだ。
それを見た姫は、勇者に駆け寄り抱きついた。
熱い抱擁を交わす2人。
『勇者様!』
『姫! 新品の姫!』
「困ったなぁ。そんなこと言う人初めてだよ」
『じゃあ、俺も』
「あなたは、第一あの世の空き待ち契約でしょ。問題外です」
『えー、そんなぁ』
浮遊霊のおっさんと死神が困っていると、3人の女性が駆け寄ってくる。
そして、勇者の痙攣する身体にすがりついた。
「ご主人様! 死にゃにゃいで!」
「なんで意識が戻らないの? ダメ! どんどん冷たくなってくる」
「回復魔法が効かないわ! 3人で身体をこすりつけて温めましょう」
3人の女性、いや少女たちは、遅れてたどり着いた勇者のパーティーだった。
動かない勇者の身体に、柔らかな肢体をひねりながらこすりつけて温めようとする彼女たち。
それぞれが魅力的な美少女である。もちろん、全員、処女だ。
しるすけです。
こんなのも書いてます。
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