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境界線を超える者たち(第一章・完)

「アルメイダ将軍! カンストが! 勇者・アキラの生存が確認されたというのは本当ですか?!」


カンサイ帝国軍に随行していた勇者・ジャックが、アルメイダ将軍に駆け寄った。



勇者・ジャック番場、19歳。身長180cmの赤髪イケメン。

勇者ランキング2位。カンストの勇者・アキラのライバルを自認する男である。

カンサイ帝国が抱える自慢の勇者であった。



現在、帝国の属国が魔王率いる魔族の侵攻を受け、援軍を必要とされていた。

草原を分割するように整備された石畳の街道を、帝国軍は進軍する。


「うむ。今、伝令が届いた。残念だが、カンストの勇者の生存は事実のようだ」


「ふっ。俺は信じていましたよ。奴が、あの程度の魔王に遅れをとるはずはないと」


ジャックは笑顔で、勇者パーティーの元へ戻って行った。

アルメイダは苦渋の思いを噛み締める。


「勇者・ジャック殿は、カンサイ帝国の誇り。カンストが生きている限り、勇者の頂点に立てない。ならば、次の手を考えるしかあるまい」


部下から渡されている企画書を広げるアルメイダ。


「なになに? 企画名『出動!ミニスカ処女ポリス:勇者を逮捕しちゃうぞ』だと? ふむ……」


アルメイダは、側近を呼びつけ叫んだ。


「王宮の陰謀企画部に伝えろ! リハーサルでは、再び私が勇者役を務めるとな!!」







打ち寄せる波の側、砂浜に3人分の足跡が続いていく。

栄えた街から追い出された男たちの、アテのない旅が始まったのだ。

夏の日差しに汗を噴き出しながら、海岸線に沿って旅装の彼らは歩いていく。


「ちっ。勇者ギルドから除名だってさ」


勇者・ロッキー、31歳。身長185cm。イタリア族。金髪マッチョ。勇者ランキング14位。


「僕なんて、賢者ギルドに最初から存在しなかったことにされちゃいましたよ」


賢者・ギンガ、15歳。身長162cm。イヌミミ族。黒髪白犬耳。賢者ランキング9位。


「我は、魔王ギルドに言われた。タコに魔王の資格はないとな」


魔王・サカキ、4歳。身長2m。タコ。怯えると青くなる。魔王ランキング18位。


「さて、どうしましょうか? これから」

「我は、命が残っているだけで十分だ」

「ふっ、小さいことはどうでもよくなったぜ。奴に会ってからな」


邪神復活で世界の破滅を画策した彼らは、所属するギルドから排除されてしまう。


「ボクは、3人で冒険者でも始められたら楽しいかなって、思っているんです」


「ほう。それは楽しそうだな!」

「ね?」

「では、テキトーな街で冒険者ギルドに登録しようではないか!」


談笑は続いた。彼らは晴れやかに笑っている。


「うるさいわよ!」

「そうよそうよ!」


マットの上で、うつ伏せに寝るビキニの女が2人。

ビキニの紐を外し、日差しで背中を焼いている。

はみ出す肉が身体の下から見えていた。

胸元より腹部のはみ出しが目立っている。


「ウルセェ、ブ ぅぅぅ……」


ギンガは慌てて、ロッキーの口を手で塞いだ。


「ダメです。セクハラですよ!」

「す、すまん。そんなつもりは……」

「わ、我の前で、それだけは!」


サカキは、海に飛び込んで逃げて行った。海面に映るタコの魚影。

彼らの心の傷は深いようだ。







「ケルちゃん、小さくなっちゃいましたねぇ」


邪神・ケルを胸に抱いたシェリルが言った。

小型犬サイズのケルと目が合うシャル。

あの夜の朝、戦車のすぐ側にできた巨大なクレーターを、シャルは思い出していた。


「何者かと夜通し戦って、力を一時的に失ったんだって。アキラが言ってたじゃない」


林の中を流れる小川に、アキラのパンツを漬けて洗剤をすすぎ落とすシャル。

川岸に立てたポールに紐を張って、洗濯物を干していく。


「それより良かったの? 教会を抜けてしまって」


「すでに私は、全てをアキラ様に捧げてしまいました…… 神のお近くどころか、人の道にも戻れません。もう女として、ノーマルな人生なんて……」


「そ、そこまで!? そんな、大層なこと?!」


「シャルロット様、アキラ様のパンツの匂いは、人前では嗅がないことをオススメいたします」


まだ未洗濯のアキラのパンツを嗅ぎながら会話していた自分に、ようやくシャルは気づいた。

鼻の頭についた、糸をひく粘液に驚き、思わずパンツを小川に落としてしまう。


「ああっ、もったいないお化けが出てしまいますわ!」


ケルを片手で抱きながら、バシャバシャと小川を走りパンツを追っていくシェリル。

それを見たシャルは、自らも負ってしまった業の深さに戦慄するのだった。


その時、向かいの川ぎわに停車させた44トンの戦車が大きく揺れる。


「シャ、シャル…… ギブ。交代してほしいニャ……」


砲塔の上部ハッチが開かれ、全裸のアヤセがこぼれ落ちた。

そのまま、ドンブラコと小川に流されていく。


「シェリル! パンツのついでに、アヤセもお願い!」


「はーい」


アキラに救い出された日から、昼夜続いているイチャイチャは、すでに6日間継続していた。

アキラの嫉妬心だけでは、3日程度で終わっていただろう。

シェリルという新たな燃料の追加が、ここまで長引かせているのだ。

今回のイチャイチャも、おそらく続いて明日まで。


「毒も喰らわば皿まで、アキラはそんなことも言ってたわね」


アキラの中の浮遊霊のおっさんは、格言やことわざに詳しかった。


「アキラ、ちゃんと最後まで責任とってよね!」


「嫁」と呼ばれた時の火照りが蘇る。

シャルは、エプロンを外してから、小川を渡って行った。




「私の順番まだかしら…… エミリア様、タフだからなぁ」


「ワンワン!」

「ケルちゃん、どうしたの?」


シェリルが、気絶中のアヤセに服を着せていると、林からガサッと木擦れの音がなる。


「あれはアキラ君の戦車・ヒトマルね。ごきげんよう。アヤセちゃん、大丈夫? アキラ君はいらっしゃるかしら?」


林の中から、2人の女が現れる。


「あの? どなた様でしょうか?」


「失礼しました。私はイレーネ。勇者ギルドでアキラさんの担当をしている者よ。こちらは、見習い勇者のメグミさん。私の護衛をしてもらっているわ」



イレーネ・アクア、160歳。エルフ族。

身長・168cm。Bカップ。肩までの清楚なヘアスタイル。白い髪から尖った耳先が見えていた。

勇者ギルドでアキラを担当していたギルドの美女職員である。

最強のアキラを野良勇者にしてしまうことは、ギルドの威厳を傷つけてしまう。それを回避したいギルドが送り込んだ、綺麗なオネーサンだ。

現在は、白いカーディガンの胸元に大きなリボン、その上に仕立ての良い旅装を纏っている。


勇者見習い・メグミ、14歳。ダークギャル族。

身長・152cm。Eカップ。金髪ロングヘアの褐色ロリ巨乳。美尻でもある。

アキラに憧れ、勇者を目指して修行中。

柔らかい素材で仕立てられた皮鎧が、成長期の胸には窮屈に感じるお年頃。


当然のごとく、2人とも処女だ!



「私は、シェリルと申します。このたび、パーティーに加入しました。アキラさんは、その、戦車の中に……」


10式戦車は小刻みに揺れている。

油圧式サスペンションが、車体の揺れを最小限に抑えていた。


「そう。じゃあ、お邪魔しちゃおうかしら。ヒトマルの中に入るのは久しぶりだわ」

「あ、あれがアキラ先輩の愛戦車ですか! すごいパワーを感じます。揺れて見えるほどに」


「え、えっと。今は、その……」


「気にしないで、アキラ君は、私にとっては可愛い弟みたいなものなのよ。無事を知らせて来ないなんて、オシオキが必要ね」

「イレーネさん、私も一緒に入っていいんでしょうか? ドキドキします」


「大丈夫よ。アキラ君は優しい子なの。特に女の子にはね」


イレーネはウィンクすると、メグミの手を引いて川を渡って行った。


「その川を渡ったら、引き返せなくなるのに……」


戦車をよじ登りハッチの中に消えていく2人。


「今、新たな燃料が投下されたニャ」


「ア、アヤセちゃん!?」


「これで、あと7日は楽しめるニャ。それでも、悠長に順番待ちしてる場合じゃないニャ!」


ネコミミを直立させたアヤセは、飛び跳ねた魚を咥えて捕える。

そして、そのまま、生で骨ごと咀嚼を始めた。


ドン!と地鳴りを起こして、戦車の揺れが突然激しくなった。

小川が、流れを無視するように、波を打ち始めている。

どうやら、新たな燃料に火が着いたようだ。


「栄養補給も十分ニャ。シェリルも急いだ方がいいニャ」


「え? あ、わかった!」


2人は、争うようにして、再び川を渡って行くのだった。


残されたケルは、天空を見上げている。








白い雲が、大地のように広がる世界。

白亜の玉座に座るヒゲ面のおっさんに、美女は話しかけた。


「神様、その傷は?」


「おお、女神・マリアか。この傷は、その、少し油断してな」

「神様が傷を追うほどの事態が起こっているのでしょうか?」

「お気に入りの聖女が、汚されるのを見逃せなくてな。つい、その」

「そのようなことが……」

「お前を呼んだのは、他でもない。そのことだ」

「はい」


「汚され連絡が取れなくなった聖女の様子を確認してもらいたい」


「仰せの通りに」


「だが、勇者・アキラには、決して近づくな。良いか、絶対だぞ」


女神・マリアは、神の命に従い、地上へと降りて行った。

神の警告が心から離れない。勇者・アキラとは、どんな人物なのだろうか?



浮遊霊のおっさんは、カンスト勇者・アキラの中にいる。



これにて、第一章の終了です。


二章が始まるまでは、連載再開予定の『冒険者ギルド東京支部』をお楽しみください。

http://ncode.syosetu.com/n6793dz/

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