プロローグ
ブラウンはおっさんなのです。
俺の名はブラウン、ただのブラウン
‥‥‥勿論偽名だ、元の名はとうの昔に捨てた。
俺を知るものからは《狂った医者》《皮色の暴風》などと、妙な二つ名で呼ばれている、名前と合わせれば三つなのだがな。
二つ名とは冒険者ギルドに登録している冒険者の中でAランク以上の者に与えられる称号のような物だ。例外的に目立った活躍をした者にも称号を与えることもできるが‥‥‥まあそんなところだ。
称号といっても効果は多少有名になる程度であるし、何より称号をつけるのはギルド員達であるから、奴らは日ごろの鬱憤とばかりに好き勝手に皮肉を込めた名前を出す。だから碌な二つ名がない、少なくとも俺が出会った二つ名持ちは皆そうだった。
二つ名にある通り俺ぁ本業は医者だ。しかし何故冒険者なんかをやっているかというと、原因は俺の仕事にある。
俺ぁ患者の居る所なら、たとえその患者どんな場所にいようとも必ず治療しに行く。たとえ魔物の大軍の中であろうと、魔の国であろうと、魔境の奥地であろうと。その道程で立ち塞がるものは全て排除していった。
俺ぁ、これでも大陸一の医者を自負している。
だから俺ぁ患者を見捨てたりはしない。
まぁその結果、街の危機を偶然にも救ったりしたこともあって。それでギルドに目をつけられたのか、某ギルマスに交渉を迫られた。
結局、なぁなぁの内にギルドに加入させられ、治療の片手間に依頼を受けて冒険者を兼業することになった。その後は今まで通り患者を求めて旅を繰り返す日々だ。
あれから何十年経っただろうか? いつの間にか二つ名で呼ばれ始めたのも、どれ程昔のことだったか。
俺はまだ旅を続けている、
患者の苦しみを一時でも早く無くす為
痛みに泣く子らを慰める為
魘される悪夢を掻き消す為
俺の乾いた心を潤す為
あぁ、行かなければ‥‥‥患者が待っている‥‥‥
男は放浪の旅を続ける。
皮のコートに身を包み、鍔広の帽子を被り
しわくちゃな皮の診療カバンを引っ提げ
足にはゴツい黒皮のブーツを履いている
長身である男は立っているだけで威圧感を出し
しかし、歩く姿は幽鬼のようにふらふらと不確かでおどろおどろしい
男は今日も、そして明日も、いや、彼の命が尽きるその時までいつまでも彷徨い続けるだろう、それが運命を憎み放浪することを選んだ者たちの道であるのだから……
男は放浪する。
長年の旅ですっかり草臥れた皮色のコートの腰のポーチからは、小さく銀色の銃器が、こっそりと鈍い光を放っていた。
ブラウンはいつまでもおっさんなのです(業深




