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第6回「あの日あの時あの場所で」

俺・・・・・・・主人公。剣士。「やり直し」のチート能力を手に入れたが……。

アルメリア・・・魔法使い。唯一のパーティメンバー。小うるさい。

マスター・・・・昔はいろいろあったらしい酒場の親父。

モノリス・・・・メッセージウインドウ。呪文を入力すると「やり直し」できる。

神様・・・・・・頭で壺を割れる。

┏━━━━━━━━━┓

┃これまでのあらすじ┃

┗━━━━━━━━━┛


「ふ……っざけんじゃねえよ!」

 酒場は冒険者のたまり場だ。日頃から体を張っている、力の有り余っている奴らが顔を突き合わせれば喧嘩にだってなる。だが、たった今テーブルに両腕を叩きつけた彼――見るからに血の気の多そうな戦士風の男は、誰と争っているわけでもない。ただ一人で空回っているようだった。

「落ち着けよ」

 鎮痛な面持ちでテーブルを囲んでいたうちの一人が宥めるが、収まりがつかないらしい男は拳を振り上げ続ける。役割分担や上下関係が確立されていない、付き合いの短いグループであることは簡単に見て取れた。

 彼らの揉め事の要約はこうだ。『話が違う』と。

「ギルドの話じゃ……辺鄙な村の外れに湧いて出た、ゴブリンの小さな群れを駆除するだけの簡単なお仕事のはずだったじゃないか……新人の採用試験にちょうどいい案件だって……!」

「それがいざ洞窟の様子を探ってみたら、確かな小さな群れだったけれど……」

 戦士風の男よりは冷静だが、実際に索敵をして来たであろう女盗賊も同調する。

「親玉を中心に集った粒揃いの少数精鋭だったなんてね」

 ゴブリンは、コミュニティを形成することで有名なモンスター。それぞれが群れを作ることは他のモンスターでもよく見られるが、ゴブリンは、その群れからあぶれた者同士でも群れをつくる。そういった者たちは、腕っぷしの強さを頼りに群れから群れへと渡り歩く、いわば傭兵集団と化すのだという。

 駆け出しの、それも初仕事もこれからというレベルの冒険者には、手に余る相手だ。

「……退散するか」

 その提案が出るのは当然であり、皆、それを待っていたかのように口を開き出した。

「それだと、試験は失格だよな」

「しかもたかがゴブリン相手に尻尾巻いて逃げた、って汚名がつきまとう。ヘタすりゃ一生な」

「でもしょうがないじゃない、状況的に。むざむざ死にに行くのは勘弁よ」

 揉め事とは言うものの、彼らの意見は概ね一致している。「クエスト失敗」を前提にすることで。彼らが問題としているのは、その後の身の振り方だった。どうすれば、今回の汚名を返上できるのか。どうすれば、今後に負うリスクを少なくできるのか。

「とにかくギルドに報告しよう。クエストのランクが引き上がることになれば、失敗扱いにしないで貰えるかもしれない。だってそうだろう、初仕事で手練れのゴブリンを楽に倒せる冒険者なんているはずが――」 


「つまり、そのゴブリンを倒せば、冒険者を名乗っていいわけだな」


 騒いでいた冒険者予備軍の一団が静まり返った。

 その声は、彼らのうちの誰のものでもなかったからだ。


 俺だ。


「……聞いていたのか。アンタ、村の人か」

「ならちょうどいい、ゴブリン駆除は中断だ。俺たちはギルドに報告を上げるから、そっちでもクエストのランクアップ手続きの準備を進めておいてくれ」

 俺は酒を呷ってから答えた。

「あいにく俺は流れ者だ。村人への相談は自分でやってくれ」

「そう言わずに頼むよ。俺たちは一刻も早くギルドへ――」

「全員で引き返すつもりか」

 手酌をしていたが、酒がなくなった。戦士風の男が「何が言いたい」とつっかかってきたが、俺はマスターへのおかわりを優先した。

「やめとけ旦那。酒は出血を促進する。このあと乱闘で流血沙汰になったら出血多量でまあ死ぬぞ」

「マジか。アルコールが入ると血の気が多くなるのって気のせいじゃなかったんだな」

「おいテメェこっちを無視すんな! むしろこっちが本題だろ!」

 酒と出血量の関係は大事な話だと思うんだが。冒険者的には。

「何の話だっけ……えーと、何が言いたいのかって? 依頼主への説明ぐらい責任もってやっていくのが誠意ってもんじゃねえのかい。それとも責められるのが怖いのか、冒険者になろうって息巻いてた連中が」

「こンの……!」

 戦士が拳を振り上げ、本当に乱闘が始まりかけたが、仲間に「よせ、酔っ払いの言うことだ」と諌められた。諌めたのは、最初に彼に「落ち着け」と忠告していた男だが、先ほどとは打って変わったリーダーらしさがある。

「……ねえ酔っ払いさん。さっき、冒険者を名乗るって言ってたよね?」

「ああ、冒険者志望だ。ちょうど街まで申請に行くのが面倒だと思ってたんだ」

「だからって私らからゴブリンを横取りして手柄にしようなんて思わないでね。これは親切で言ってるんだからね、絶対に勝てっこないし」

「彼女の言う通りだ。俺たちもできるだけ早く報告と上位ランクの冒険者の派遣を要請する。それまで、無謀な真似はやめてくれよ」

 そして冒険者たちは酒場を後にしていった。初心者にしては人間ができているというか、逆に初心者だから乱闘の作法を知らなかったせいというか。彼らの背中を見送って、俺は一息ついた。

「吐きそう……」

「吐くな旦那。表出ろ」


 *


「ど……どうマスター。俺キマってた? あんな感じで良かった?」

「知らねえよ。それは旦那にしかわからないことさね」

「ただの酔っ払いに見えなかった? 酔っ払いが絡んでるだけって思われなかったかな?」

「見えなかったも何もあんた紛れもなく酔っ払いだろ。途中でゲロ吐かなかったのは上出来かもしれん。あと相手はただ酔っ払いに絡まれただけだと思ってるね、確実に」

 この頃の俺は、せっかく異世界に来たのだからと、異世界デビューを目論んでキャラ作りに腐心していた。そう思うようになるまでにはそれなりに経緯もあったが、それも俺を拾ってくれたマスターが異世界だの何だのぐだぐだぬかす俺の話を「わかるわかる。俺も昔いろいろあったからな」と聞き流しながら旅に随行させてくれたからだ。

「……で、旦那。俺は予定通り、今日の営業を終えたら街まで行くつもりだが」

 マスターはもともと、街で酒場を開くために旅をしていた。冒険者になりたいと俺が言うと、最寄のギルド支部も同じ場所にあると教えてくれたので、旅は道連れとなったのだった。この村で酒場をやっているのは、数日間村を空けなければならない店主に代わって雇われマスターをしているからだ。その任期明けが、今日。ところで、そんなことを頼まれるなんてよっぽど腕を信用されてるんだな、マスター。

「旦那、あんたはどうするんだ」

「どうするも何も、一緒に行くよ」

「ゴブリンはどうするんだい」

「さっき釘刺されたばっかりじゃねえか。何もしねえよ」

「何かしでかす奴はみんなそう言うんだ」

「……これ取り調べか何か?」

「正直に吐いちまいな旦那」

「オエッ」

「物理的に吐くんじゃねえよ」

「ゲホッ、ガホッ……ヴォエッ」

「本格的に嘔吐(えず)くな殺すぞ」

 殺されたくないのでどうにか堪えた。

 何かしでかす奴は、何もしねえと言う。違いない。だがその行為が意味を持つのは、勝算があるのを隠すためだ。バレたら潰されてしまうような、ろくでもないアイデアを。残念ながら俺にそんなものはない。

「……だから、俺を監視したって何にもならねーぞ」

 店先で聞き耳を立てている奴に聞こえるように言う。呼びかけに応じて進み出たのは、さっきの冒険者の一団にいた顔だ。もっともこいつ――彼女は一言も喋ってはいなかったが。

「一刻も早く報告に向かうって言ってなかったか?」

「あの後、あなたの言うことも一理あるという話になって。村人への説明役と連絡員として、村に一人残すことになったんです。それが私です」

「バカな酔っ払いが何もしないように監視も兼ねてか」

「バカとまでは思ってませんよ、酔っ払いさん」

「そうだぜ旦那。酒なんて体に悪いもん飲む奴はみんなバカだ。バカの酔っ払いじゃ意味の重複だ」

「マスター、あんた自分で自分の営業妨害して楽しいか」

 酒場の店主をやっているからこそ、酒で身を持ち崩した奴をたくさん知っているのかもしれないが。でもそんな話、今は聞きたくない。たとえ冒険者の死因が殉職を抜いて急性アルコール中毒や肝硬変が上位に食い込むのが事実なのだとしても。

「さて、そろそろ行きましょうか」

 彼女はそう呟いた。独り言かと思ったが、視線はこっちを向いている。思わず振り返ると、視線の先にはマスターしかいなかった。

「……マスター、俺が店番してるから行ってきていいよ」

「冗談いうな。俺は小娘よりちょっと崩れかけてる年頃の女の方が好みだ」

 男が下ネタ談義を始めるのは、女を追い払おうとしているムーブだ。が、世の中にはそれが通じない、もしくは察しない女がいる。

「そういう前時代的なボケはいいですから、一緒に来てください。酔っ払いさん」

 この小娘は、そういう人種のようだった。

「あんたこそ冗談だろ。酔っ払いに手伝えることなんかねーよ」

「……他の皆と違って、私は、あなたを酔っ払いとも思っていませんよ」

「買い被りすぎだ嬢ちゃん。こいつは正真正銘の酔っ払い。酒飲んでた。俺が保証する」

 この人、俺を助けたいの。貶めたいの。どっちなの。

「シラフって意味ではなくて……勢いで絡んできただけじゃないと思ってる、ってことです」

「なんでまた」

「私以外のメンバーも、多かれ少なかれ認めている理由からですよ」

 ただの酔っ払いにしては、筋の通ったことを言っていたから。

「それに、私が他の皆と違うところは、そこだけじゃありません」

「ほう、その心は」


「ゴブリンを倒す勝算があります」

 

 *


 ゴブリン傭兵団のイカれたメンバーを紹介するぜ!

 洞窟に生き埋めになってる奴ら!!

 以上だ!!!


 *


「なるほどなー。お前、魔法使いだったのか」

 あの後、俺たちは村の偉い人にかけあって、ゴブリンの巣窟と化した洞窟を崩す許可を申請した。平時は村人がキノコなんかを取りに行くらしく、村の産業の一部なので渋ってはいたが、最終的に復旧してもらえるならという条件でオーケーを貰った。

 あとは俺がゴブリンたちを洞窟にすべて誘いこむ。戦うわけではないので、誘導それ自体はさほど難しくはなかった。そして先に確認されていた個体数すべてが洞窟に入ったところで、魔法でドカンと洞窟の入り口を崩し、落石で生き埋めにしたのだった。

「あとはゆっくり死んでいくでしょう」

「こいつは確かに呆れるほど有効だな。ちまちまモンスターと戦うのが馬鹿らしくなる」

 だが人生、そううまくいくものではなく。

「得るものは何もないけどな」

 何で他の仲間に提案しなかったのか、と尋ねるまでもなかった。

 経験値も金も、何も入らない。確かに、それを目当てにしているならこんな手は使わない。俺のもといた世界の、TRPGというゲームではしょっちゅうこういうことをしたがる奴がいないことはなかったが、もれなくルーニー(バカ)扱いされていた。冒険者のすることではない、と。

 それにも関わらず「良かった」などと呟くこの小娘は、いったいどこを目指しているのだろう。

「これで村に被害は出ませんね」

「そっちが本音か」

 合点がいった。この女が、冒険者としての実入りを捨ててまで洞窟を塞ぐことを選んだのは、ギルドで所定の手続きを踏んでいる間にゴブリンによる災難を被るかもしれない村を憂いてのことだったのだ。

「……私、冒険者になりたくてなったんじゃないんです。もともと、ここみたいな小さい村の出身で。魔法が人より使えるからっていう理由と……あとは、なれって言われたからなっただけで」

 価値観が一般的な冒険者とはズレているから、異世界からぶらりとやってきた俺と波長が合うのかもしれない。要は変わり者のはみだし者同士ってわけだ。いや、それだけじゃない。この娘、妙に肝が据わっている。とりあえず前に進むことを、まるで恐れていないような……。

 ところで、なんだか語ってくれているところ悪いが、俺は大事なところを指摘する。

「お前、過去形で語ってるけどさ。まだ冒険者になってないんじゃないの。ゴブリン倒してないんだから」

 実際、めでたしめでたしとはいかない展開になった。

 ギルドにはクエストをひとつ潰したことを怒られた。ギルドに報告しに行った冒険者候補たちには勝手な真似をしたことを怒られた。この流れならいけると思ったのか生き埋めを許可したはずの村人たちにも怒られた。

 俺ひとりならクレームに対処しきれずパンクしていたところだが、女魔法使いは違った。

 ギルドには洞窟の復旧クエストを増やしたことで許してもらった。あいつら仕事の質より数の実績を重んじるらしい。冒険者候補たちには村人を危険に晒すわけにはいかなかったという目的を話して納得して貰った。逆に詫びすら貰えた。村人はまた掌を返したがあいつらのことはもう知らん。

 はてさてそれから。

 俺はマスターを追いかけて街に移動し、そこでギルドに冒険者登録を申請し、採用試験を兼ねた簡単なファーストミッションを請け負う。その現場で、また彼女に出会うわけだ。

「……剣士には、補助役が必要でしょう。一人でこんなところまで来て、どうするつもりだったんですか」

 俺は、女魔法使いを一瞥。明後日を向いたまま言葉を返す。

「魔法使いには、前衛が必要だろ。一人でこんなところまで来て、どうするつもりだったんだ」


 それから、俺とアルメリアはパーティを組んだ。


┏━━━━━━━━━┓

┃それから どうした┃

┗━━━━━━━━━┛


「――というのが、俺とアルメリアの出会いだったわけだが」

 殊勝にも、正座しながら話に耳を傾けていたジジイは、両腕を組み、感慨深そうに何度も頷いてから、

「長いね」

 とにべもなく吐き捨てた。

「長いよね。あらすじだけでどんだけ尺使ってるんだって感じだよね。ってゆーかこれ、あらすじだったの。あらすじならかいつまめよ。100文字以内に収めろよ」

「何だよ……いいだろ。ちゃんと戦闘シーンは省いたんだから」

 戦闘シーンを入れると、もう凄いからね。擬音とかオノマトペだけで5000字くらい埋めるからね。世の中には回想話だけで一年も連載してるところだってあるんだから。

「で、ジジイ。俺が言ってるのは、アルメリアの様子に違和感があったってことなんだよ」

 前回でのモノリス使用時に、俺はアルメリアと出会う前の時点へと跳んだ。その時点で、同じ場所にはいたが出会わなかったというニアミスをしていた可能性は別におかしくはない。だが、アルメリアが既に俺のことを知っているそぶりを見せたのは……どう考えてもおかしい。

 書いてる奴がいい加減であるという線を除けば。

「……」

「ジジイ、だんまりはないだろ」

「気づくのに、ずいぶん時間がかかったね」

 あ?

 何上から目線に切り替えてんだ。

 ボケたのかジジイ。

「これを……」

 震える手で渡してきたのは、ウインドウに打ち込むための呪文。


「この呪文を打ち込めば、君の疑問は解消されるよ」


 俺は思った。

 別に、口で言ってくれてもいいのに。


┏━━━━━━━━━━━┓

┃   つ づ く   ┃

┗━━━━━━━━━━━┛

イカれた作者を紹介するぜ!

俺!!

以上だ!!!

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