第5回「つぼ」
俺・・・・・・・主人公。剣士。「やり直し」のチート能力を手に入れたが……。
チェイミー・・・馬車で追われていた主人公好みの女。
アルメリア・・・魔法使い。唯一のパーティメンバー。小うるさい。
モノリス・・・・メッセージウインドウ。呪文を入力すると「やり直し」できる。
神様・・・・・・気持ち悪い笑い方をする。
┏━━━━━━━━━┓
┃ 警告!! ┃
┗━━━━━━━━━┛
ハイリスクはMonolithの自己保護システムによって検出されます!
4つのウイルスがシステムを脅かす:
蟶悟恍隴ヲ蟇溽スイ
抵シ千「コ螳壹〒
縺企≡蟾ョ蜃コ縺
菴輔r莨√s縺ァ縺
無料のウイルス対策アプリをインストールするには、
☆5評価をし、ブックマークを実行してシステムを修正してください。
重要:更新してください 5秒
*
┏━━━━━━━━━┓
┃これまでのあらすじ┃
┗━━━━━━━━━┛
フィッシングって怖いっすね。
上記の画面の表示は『不正な広告』によるものです。
万が一これっぽい画面が表示された場合には【警告画面上には一切触れず】直ちにブラウザを閉じてください。
え、このページ?
読まずに閉じてもいーよ。☆5評価してくれるなら。
*
┏━━━━━━━━━┓
┃これまでのあらすじ┃
┗━━━━━━━━━┛
気怠い昼下がりのことだった。
偶然、馬車に追われる女を見かけた俺は、その女を助けに入った。大した理由はない。あえて言うなら、陽射しが強いのが気に入らなかった。それぐらいかな……。
と、いうキャラでいくことにしたから。
「……あの、大丈夫だろうか?」
「フッ。俺も今、そう訊こうと思っていた。気が合うな」
「いや、そういう冗談抜きで割とガチめに」
たとえケツに剣がブッ刺さってても、本当にクールなキャラってクールさを崩さないもんだから。俺はクールキャラだからそれくらいこなせるから。そういう路線で行くことに決めたから。女ってだいたいそういうキャラが好きなはずだから。好きって言えよ、俺のやせ我慢は報われるって言ってくれよ!
実際、馬車に乗っていた2人のいいガタイをした男と余裕綽々で渡り合ってるように見せかけるのも、なかなかのやせ我慢だった。ついこの間まで、世界最強の力で無双していたのが仇になった。その時と現在のスペックのギャップが大きすぎて体がうまく動かず、こんなことに。男2人も、バッサリというわけにはいかず、気絶させるのがやっとだった。あのパワーを恋しく思わないと言えば嘘になるが、かといってまたバーバリアンになるのは御免だ。チートで無双する夢は、あれで叶ったということにしておいて、身の丈に合った夢を叶えることにしよう。
現在いるのは、洒落たカフェ。ここに来てようやく、俺はこの街並みに見覚えがあることを思い出した。アルメリアと出会ってなし崩しでパーティを組む前に訪れたことがある街だ。そのときは、この店は横目に見て通り過ぎるだけだったが。野郎一人で入るには小洒落すぎてるんだ、せめて女連れでないとな。
で、対面に座る女を、ちらりと盗み見る。
ツリ気味で涼しげな目元、凛とした雰囲気。やはり、外見的にはかなり俺好み。
いっぺん殺されているというマイナスポイントはあるが、そんなことはどうだっていい、重要なことじゃないと言い切れるほど俺のツボ。それにそこはまあ、ウインドウの『やり直し』でなかったことにしたから、水に流すとしよう。
無双なんぞよりよっぽど大事な、ハーレムの夢を叶えるべく、俺はその一歩を踏み出した。具体的には、俺の方から話を切り出した。
「すまなかったな。手当までして貰って」
「いや、助けて貰ったのは私の方だ。これで貸し借りなしにできるとは思っていないが……」
イメージ通りのお堅い口調で喋る女は「チェイミー」と名乗った。
細々とした商品を取り扱う商人をやっているが、もともとは貴族の出自なのだという。もっとも、その家が没落してしまったから現在の商売をやっているそうなのだが。
「じゃあ、さっきの馬車の追っ手は……?」
「……」
黙り込むチェイミー。俺は心の中で「おっ」と思った。流れ変わったな。
「聞かない方がいい。これ以上、巻き込むわけには――」
「貴族のお嬢様だった時代に関係ある何か、を狙ってきたんだな」
食い気味の俺の台詞に、はっとしたように顔を上げる。
┏━━━━━━━━━━━━━┓
┃ ニア はなしをきく ┃
┃ はなしをきかない ┃
┗━━━━━━━━━━━━━┛
出るのが遅いぞウインドウ。俺はとっくに勝負に出たぜ。
「チェイミーさん、名乗ったとおり、俺は冒険者。危険に首つっこんで飯食ってんだ。餌をちらつかせといてやっぱりやめた、なんて野良犬相手なら噛まれても文句言えない仕打ちだぜ」
「しかし……」
「お人よしで言ってるわけじゃねえ。貰うもんは貰うさ」
「貰うもの、というのは?」
ここだ。俺は軽く身を乗り出す。
「あんたの、今夜の予定でどうだい」
┏━━━━━━━━━━┓
┃かいしんのいちげき!┃
┗━━━━━━━━━━┛
決まった……!
今夜の予定、と曖昧に匂わせる程度に抑えておくのがツボだ。脈がないなら断るだろうし、脈があるなら、相手にその解釈を委ねることができる。これは相手の自分への興味を図る尺度になる。ディナーを共にするだけでも上々だが、更にその先までオーケーしてもらえたなら大金星。
賽は投げた。チェイミーの反応は……?
赤くなって無言で頷く姿に、俺は立ち上がって右手を突き上げたくなった。
*
チェイミーによると、馬車の男たちが狙っていたのは、彼女の家に代々伝わる家宝らしい。
「たとえ没落しようとも、手放すわけにはいかなかった代物でな。他人の手に渡らないよう、ダンジョンの奥深くに隠してあるのだ」
手放すわけにはいかない。売り払えないということは、金とはまた違った価値をもつアイテムなのだろうか。チェイミーの話を聞きながら、俺は非常に“それっぽい”クエストだなーと心を躍らせていた。
だっていかにも、物語を先に進めるための鍵になりそうなアイテムが出てきそうじゃないか。だとしたら彼女と出会わなければ、文字通り話にならないということだ。なんだよチェイミー、実は正ヒロインなんじゃないの。
「……ずっと不思議に思っていた。隠すのはともかく、どうしてダンジョンなんて、他の誰かの手を借りなければ立ち入ることもできない場所を選んだのかと」
探索は得意と言って、先を進むチェイミー。モンスター対処係として後ろをついていく俺に、不意にそんな問いを投げかけてきた。そう思ったが、俺に答えを求めたわけではなかったらしい。俺が何か言う前に、彼女の方から自己完結を宣言した。
「貴方のような人に出会うためだったのかもしれないな」
┏━━━━━━━━━━┓
┃かいしんのいちげき!┃
┗━━━━━━━━━━┛
やられた……。
落とすつもりが、落とされそうだ……。
火が点いた俺は馬車馬のように働き、チェイミーに傷ひとつつけさせまいと奮戦した。おかげで俺だけ消耗が半端じゃないが、そういうところにドキッとして貰えるならむしろ望むところだ。この段階で、俺はハーレムのことなんざ頭からとんでいた。何がハーレムだ、何人も侍らせて同等の愛情を振り分けるなんて器用な真似が野郎にできるわけないだろ。すぐ目の前のことに夢中になるのがデフォルトの生き物だぞ。ただ一人、一人だけが傍にいてくれれば、それでいいじゃないか。
そう思える相手と共に辿り着いた、ダンジョンの最奥。
行き止まりの小部屋には、人の手で作られた祭壇があった。では、そこに祀られているものが。
「我が家の、家宝だ……」
視線で促され、俺はチェイミーと歩幅を揃えて祭壇の前に進み出る。ちょっとした共同作業感に胸が高鳴る。見つめ合い、呼吸を合わせ、俺と彼女のふたりで祭壇の扉を開く。
壺があった。
「壺……」
ちょっと、意外だと思った。俺の持っている壺のイメージは、『ファンタジー世界においてはただ割られるためだけにある存在』だったからだ。重要なアイテムという認識は欠片もなかった。
「チェイミー、これ、どんな効果があるんだ?」
「幸せ」
「は?」
「幸せになる」
「……なんだって?」
気が付くと、チェイミーは隣にはいなかった。姿を探して振り返ると、俺の真後ろに立っていた。ちょうど、俺と出口の間に立ち塞がるように。
「チェイミー?」
「あー、ここまでついてきてくれてよかった」
「何か口調違うぞどうした」
「途中で見限られちゃうとばかり思ってた」
「そんなことするわけないだろ」
変な汗が出て来た。チェイミーが何を言っているのか、ちょっとよくわからない。
「じゃあ質問です!」
「なんだ急に」
「あなたは現在の状況、呑みこめていますか?」
俺は首を横に振った。それ以外、どうしようもなかった。チェイミーはそんな俺を鼻で笑い、「ダメンズ」と、吐き捨てた。そして指を鳴らすと、今まで陰になっていた彼女の背後から、男がふたり姿を現す。見覚えがあった。馬車に乗り、チェイミーを追いかけ回し、俺が気絶させた……と思っていた男たちだ。
繋がった。
やられたァァァァァァァァァァァァァァ!!
壺だァァァァァァァァァァァァァァァァ!!
「俺は……カモ、だったのか」
話がトントン拍子に進んでいたのは、俺の手管でも魅力でも何でもない。誘導されていただけだったのだ。心のどこかでおかしいと思っていたものの水を差さないよう蓋をしていた部分は、一気に噴出する。
「カモとは違うわ。お客様よ、細々とした商品をお買い上げいただく、ね」
細々とした商品って壺かよ。
「こういう仕事はね、相手を無闇には、探さない」
両脇に立つ男ふたりと、示し合わせたように――実際、打ち合わせしてあるんだろう――ポーズをとるチェイミー。
「待つの。乗ってくる相手を」
「……念のために聞くと、その野郎どもは、グルなんだよな?」
肯定の頷きが返って来た。
状況はだいたいわかった。俺はここにくるまでにモンスターとの連戦で消耗しており、チェイミーたちと戦ったら、たとえ勝てたとしても帰り道で力尽きる。ベストな選択肢は、腕が確かなことはよーくわかっているチェイミーたちと力を合わせてダンジョンを脱出すること。だが、最初からそのつもりなら、こんな状況に追い込んだりはしない。では何が目的か。さっき自分で言ったじゃないか。壺をお買い上げいただくことだって。
俺は喉を鳴らした。
「その壺……おいくら?」
待ってましたとばかりに、チェイミーは俺に背を向ける。そして髪をかき上げながら振り返った。
「35億」
┏━━━━━━━━━━┓
┃つうこんのいちげき!┃
┗━━━━━━━━━━┛
「あと5000万」
┏━━━━━━━━━━┓
┃ひっさつのいちげき!┃
┗━━━━━━━━━━┛
*
「あ」
街中で、ばったりと出会ってしまった。
「アルメリア……」
何もかも懐かしい……そんな気分にさせてくれる顔に、泣きそうになる。だがアルメリアの方は、大きく目を見開いて、ひたすら驚いているようだった。
「えっ、何で。どうしてここで……いや、それより」
アルメリアの視線が、見上げるような角度に移行する。見ているのは、俺の頭上だろう。
「何で頭に壺を乗せて歩いてるんです? しかも逆さにして」
「こ、こうしてると、幸せになれるらしいよ」
「ハァ?」
「この壺の中に詰まってる、幸せなエナジーを? 頭からかぶることで? 何かいい感じに? 幸せが体中に行き渡る?」
「ぜんぶ疑問形じゃないですか! なんですかそのフワフワした理屈!」
「うるせーな! ファンタジー世界なんか全体的にフワフワしてるようなもんだろ! だったらその世界に存在する幸せだってフワフワしてるのがちょうどいいんだよ! つーかフワフワさせてくれよ! 異世界がなんか幸せに満ちてるっぽいのはフワフワしてるからなんだよ!」
「フワフワフワフワ、ホストですかあんたは!」
「できればそれで食っていきたい! 騙す方になりたい!」
「そんな腹積もりのクソ野郎に接客業が務まるかぁー!」
ひととおり絶叫の応酬を終え、互いに肩で息をしながら、それぞれの出方を見る俺とアルメリア。先に口火を切ったのは、やはりというかアルメリアだった。
「……で、いくらしたんですか、それ」
「35億」
火球が飛んできた。炎系の魔法によるものだ。
「ちょっと待……待って!!」
何の前ぶれもなく魔法が発動したぞ。詠唱破棄ってお前どこまでガチなんですか。
「まだ何か言い残すことがありますか!」
「あと5000万」
今度は炎と雷の合体魔法がとんできた。こ、殺される……!
「いや違う違う、違うんだって! 本当は35億5000万なんだけど、クエストの報酬分の差し引きってことでまけてもらったから!」
俺は「今夜の予定」という事前予約していた報酬をキャンセルし、限界まで壺を値切らせて貰うという報酬に切り替えた。後から思えば、最初に絶対無理な金額を提示して、そのあとにサービスとして減じた金額を呑みこませ易くするという、詐欺師の使う常套手段に引っかかっていたわけだ。
だいたいの話を聞いたアルメリアは、あいつは賢いからそのことも瞬時に見抜いたわけで。しばし顔をいろんな角度に向けて考え込んでから、
「……ば~~~~~~っかじゃないですか!?」
と、俺にとどめの言葉をかけた。
力尽きた俺は、アルメリアの説教に返す言葉は何もなかった。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃へんじがない ただのしかばねのようだ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
「デュフフコポォwwwwwwwwwwww」
「……」
「オウフドプフォwwwwwwwwwwww」
「……」
「フォカヌポウwwwwwwwwwwwww」
「それってさ、呪文? モノリスに入力すると何かなるの?」
笑い転げる神のジジイに冷ややかな視線を注ぐ。
「いや、失敬失敬。で、何にどう使うの、その幸せのツボ……ブッフォwwwwwwww」
「どうしようかと思ってたけど、今決めたわ」
俺はジジイの頭で壺を叩き割った。
┏━━━━━━━━━━━┓
┃ つ づ く ┃
┗━━━━━━━━━━━┛
……あれ。
ちょっと待った。おかしいぞ。
俺はこの時点では、この街では、アルメリアとはまだ出会っていなかった。
なのに、何でアルメリアは俺のことを知っていたんだ。
……あれ?
みなさんも壺には気を付けてくださいね。