第2回「君が変われば世界も変わる」
俺・・・・・・・主人公。剣士。「やり直し」のチート能力を手に入れたが……。
アルメリア・・・魔法使い。唯一のパーティメンバー。小うるさい。
モノリス・・・・メッセージウインドウ。呪文を入力すると「やり直し」できる。
マスター・・・・こんなとこまで読むなんて読者の旦那、酔い過ぎだ寝ろ。
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┃これまでのあらすじ┃
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前回を読め。
以上。
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┃これまでのあらすじ┃
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いやだから……わかったよ。ちゃんとやるよ。
なんやかんやで異世界にやってきたが、世界を一変させるような能力なんて得られなかった俺。サラリーマンどころかフリーター同然の冒険者ライフが面倒で面倒で、でもたったひとりのパーティメンバー、魔法使いのアルメリア(本当にしれっと名前がついた。登場人物の名前ってこんなテキトーにつけていいのか)とゆるーく淡々と村上春樹みたくやっていくのも悪くないかなと思っていた、その矢先。
俺は心臓発作で死んだ。
別に黒いノートに名前を書かれたわけではない、と思う。
だが、その死こそが、俺に秘められた真の力が目覚めるトリガーだった。さっそくその力を使ってみた俺は――
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┃これまでのあらすじ┃
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しつこいな! ちゃんとやったろうが!
全部言えってか! 正直に言えってか! 取り繕うことなく自分の失敗をさらけ出せっていうのか!
そうだよ、俺はせっかく力を貰ったがそのチャンスをフイにした。メッセージウインドウに「呪文」を打ち込むと「やり直し」ができるという力だったが、俺はその呪文を覚えていなかった。ぜんぶおぼえられるかよ。しかも寝る間際に。メモをとる気力もないわ。
とはいえ、またとない機会だ。諦めがつかなかった俺はテキトーに呪文を打ち込んで……その結果。
割と何とかなった。
光り輝くメッセージウインドウに飛び込んだ時は、やべえちょっと早まったかなと思ったものだが、眩い光を抜けた先にはこれまでと何ら変わらない世界が広がっていた。別にがっかりなどしていない。変わったのは世界じゃない、俺の方なのだから。
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┃きみがかわれば せかいもかわる┃
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その理論でいくと、世界が変わってないのは俺が何も変わってないってことだからやめてくんない。あとお前、お知らせでも何でもないのに思いついただけのこと表示したりするのね。前々から思っていたんだが、このメッセージウインドウ改めモノリスって、意思があるのでは……。
そんな変わり映えのない世界、降り立ったのは鬱蒼とした森の中。この人を寄せ付けない感じには覚えがある。拠点としている街からさほど離れていない、最寄の魔物生息地。冒険者たちが小遣い稼ぎに訪れる場所だ。
はて。
「やり直し、と言っていたけど、いったいどの時点なんだ?」
俺たちのパーティは、初心者から中級者にかけての目安とされるこの森には見切りをつけ、上級者を目指す中級者向けのダンジョンアタックに切り替えた。それはもうだいぶ前の話で(攻略は遅々として進まなかった)、森に通っていた頃が再スタート地点ならちょっと戻り過ぎという印象がある。
だが、いずれにしてもモンスターが出るところにいるんだ。きっと俺の仲間もそのへんにいるだろう。合流してもどうせ小言を言われるだけだし、せっかくならもう少しひとりでぶらぶらしよう。あるだろう、ただ何となく顔を合わせるタイミングを遅らせたいときが。ただ、ひとりでいたいときが。
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┃モンスターがあらわれた┃
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ただ、ひとりで……。
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┃モンスターがあらわれた┃
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間の悪い奴だな! ウインドウも! モンスターも!
いいさ、倒せばひとりになれる。この辺に出るモンスターなら俺だけで戦ってもそう悪い結果にはならないだろう。少なくとも、うっかり死ぬなんてことは。
舐めプレイを決め込んだ俺は、悠然と構えてモンスターを待つ。
そして教訓を思い知ることになる。
人間いかなるときも、舐めてかかってはいけないのだと。
バキ、バキ。森の木々が悲鳴を上げながらへし折られていく。まるで、自分はこんな森に収まる器ではないと、その巨体を誇示しているかのようだった。
わざわざ誇示されなくても、俺はそれを知っていた。
俺たちが攻略を目指していたダンジョンの主。それが――
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┃ ド ラ ゴ ン ┃
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回れ右。駆け足、進め。
「クソッタレがァァァァァァァァァァ!!」
なんでこんなのどかな森をドラゴンがうろついてるんだよ。初見さんを殺すだけのトラップかよ。そうじゃなかったらゲームバランスぶっ壊れてんじゃねーのか、クソゲーだよこんなもん!
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┃しかしまわりこまれてしまった┃
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そんな気はしていた! クソゲーって言ってごめんなさい!
謝ったところで許してくれない。一度回り込まれてしまった以上、もう一度逃走を図るのはナンセンス。相手の先制を凌いで、なるべく早く片をつけるしかない。何せ俺の装備は、腰に差している剣が一振りだけ(しかも見覚えがない)。アイテム欄は空だ。薬草のひとつもなしに持久戦なんかできない。
これだけの大物だ。気づいた冒険者が助太刀に入ってくれることを期待しよう。
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┃スキル『ひとまかせ』をおぼえた┃
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悪かったな! つーかそれ前回覚えたよ! やり直してリセットされてるのか!?
さっそく使ってしまいたいスキルだが、逃走に失敗したペナルティに限っては自分で受ける他にない。俺の行く道に先回りしていたドラゴンの尻尾が、その身を叩きつけようと襲って来る。この一撃を受けて生きていられるのか……?
こういうとき、間一髪でダメージを無効にできる『見切り』系のスキルがあるとアルメリアに教えてもらったことがある。前衛として死線を潜り抜けるために身に着けておいた方が良いと。そのときは酒を飲んでいたのでテキトーに聞き流してしまっていたが……真面目に聞いておけばよかった。たしか、異世界出自の俺にもけっこうなじみのある名前だった。そう、アレだ。
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┃スキル『しらはどり』をつかった┃
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そうそう。敵の得物による攻撃が、現状で言えばドラゴンの尻尾が顔面に届く前に、こんな風にがっちりキャッチしたりするスキルだって話だ。使えたら良かったのに。
「……うん?」
できてる。
がっちりキャッチしてる。
ちょっと待ってくれ。ロクな描写もなしに、ウインドウの一言でキャッチしたことになってしまったぞ。手抜きしてんじゃねーよって怒られる。いや、俺自身、できると思ってなかったから、無意識のうちにやってしまったってことなのか。そういうことにしよう。手抜きじゃない。
ドラゴンが咆える。どうやら、俺を尻尾から振りほどこうとしているようだ。そんな生易しいものではなく、空中に跳ね上げてから地面に叩きつけようとしているのかもしれない。冗談じゃない。両足を地面にめり込ませる勢いで踏ん張り、尻尾を握る腕にも力が入る。そしてドラゴンが激しく身を捩らせると、その尻尾が千切れた。
「……」
尻尾が千切れた。
「ぐ、グロッ!!」
やべーよこんなところにR-15要素ぶっこんでくるんじゃねーよ。いや待て、冷静になれ。尻尾が千切れただけだ。別に千切れる瞬間を擬音つきで描写したとか、生々しい断面図をじっくりと描写したとか、そんなことはやっていない。ただ一文、千切れたといっただけだ。アレだ。グルメ小説とかで、シェフが魚を捌いたとき「その手は血に染まっていた…」とかわざわざ書かないのと同じだって。シェフの手が血に染まることは主題じゃないから。ミステリかサスペンスかと思われちゃうから。そんなこと言ったらシェフ毎日血に染まっちゃってるから。小説の中では、書かなきゃ血は流れないんだから。
だから俺が今、血の雨を浴びてることだって書かなきゃきっとバレない!
書いちまった!
くそっ、こうなったらもうヤケだ!
たったひとつの装備品である剣を、鞘から抜き放った勢いに任せて横に薙ぐ。それだけで、ドラゴンの体に刀傷が刻まれた。強靭な鱗を、それも剣圧だけで。いける、と確信した。
おかしい、とも思った。
敏捷さや筋力、俺の地の力が軒並み上がっていることはうすうす勘付いていたのだが、この剣は、何かが違う。振るうたびにわかる。敵の身を引き裂く度に気づく。刀身も、それを扱う俺の体も軽いのに、一撃が重い。そんな攻撃を連続で繰り出し続けることができるなんて……だが、今はそれを検証している時間じゃない。違和感を頭の隅に追いやった。
ドラゴンの喉が赤く膨張するのは、炎の息吹を出す予兆。視認して即座に飛び上がる。通常ならそんな割り込みアクションは不可能だろうが今の俺ならば容易い。更には、自分の真下で起こった爆風に乗って、飛距離を伸ばすことまで。ここまでやれば届くはずだ。この剣が、あの巨体の脳天に。
「でぇぇぇりゃぁぁぁぁぁぁッ!!」
邪魔な角を斬り飛ばす。大振りの一撃が、生み出す波動が、ドラゴンの頭蓋とその中身を砕いた。
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┃モンスターをたおした┃
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一言で済むんならこんなめんどくさい戦闘描写させんなや。
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┃レベルがあがった┃
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オマケ程度に通知があったので確認してみると、
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┃ レベル: 49 ┃
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「レベル49!?」
おったまげた。
そんなに上げた覚えはない。こんなレベルだったら、ダンジョン攻略なんかとっくに終えて魔城のひとつでも落としにかかっているのがちょうどいいくらいだ。だからこそ納得できることもある。道理で、ドラゴン相手でもかすり傷すら負わずに圧勝できたわけだ。
レベルもさることながら、俺は自らが手にする得物に目を落とす。
とてつもない剣だった。
パワーとスピード、ゲームバランス的には相反する要素を兼ね揃えている。まるでそれぞれに特化していたふたつの剣がひとつになったかのような
勝つことができたのは、この剣のおかげだ。
だが……。
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┃ そうび:□■□■けん ┃
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この剣……なんて名前なんだ……。
何で伏字になってるんだ。まったく解読できないから逆に何が書いてあるのか気になる。もしかして、タグをつけたものの未だ片鱗を見せないR-15要素が隠されているのだろうか。
アレか。まだ持ち主として認められていないから真名を教えてくれない感じか。真の力と姿を解放したらもはや剣とは呼べない何かになったりするのか。精神世界で対話したり修行させられたりするのか。
そして……。
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┃ なまえ:もょっ゜ ┃
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俺も……なんて名前なんだ……。
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そういえば、ドラゴンとやり合う前に期待していた他の冒険者は現れなかった。おかげで、ひとりでドラゴンを仕留めるなんて大立ち回りを証言してくれる者もいない。戦勝品として切り落とした角を持って行っても、話半分にしか聞いちゃ貰えないだろうな。
まあいいさ。強大な力を手にした者は、誰の手柄だとかそんな細かいことは気にしないんだ。だってこれだけのことを、もう一回やれって言われてもやれる自信があるんだから。やはり力があると、心に余裕が生まれる。これは人生を楽しむ上でのこの上なく重要なファクターだ。
モノリスを使っての「やり直し」は、あくまでこの力を手に入れるための手段に過ぎなかったのだ。デタラメに呪文を打ち込んだ結果がこれなんだ、もはや運命と言ってもいい。手にすべくして手にした力だ。
ちょっと遠回りしてしまったが、やっと俺の望んだ通りの冒険を始めることができる。あれだけ小言を言っていた俺がこんなに強くなったと知ったら、アイツどんな顔するだろう。楽しみはとっておくとして、まずはいつもの酒場で、いつものようにマスターに土産話を聞いてもらおう。あの人のことだから、神様からチート能力を貰ったなんて言っても「そいつは良かったね旦那。飲み過ぎだ、寝ろ」で済ますんだろうなあ。そこでちょっと力の片鱗をチラ見せするのも悪くない。
「よおマスター。一杯くれ、祝い酒だ」
上機嫌な俺の声色を察してか、マスターは振り返り、微笑んだ。
「縺ァ縺ッ縲∫匳蝣エ縺ゥ縺・◇縲�」
マスターは笑顔だ。対して俺は、自分の顔から一気に感情、血の気が引いていくのを感じた。まるで目が覚めると、感覚だけで遅刻を確信したときのような。ブラウザを閉じてしまった後に、保存してなかったことを思い出したときのような。
「えっ、なんて?」
もしかしたら聞き間違いだったかもしれない。辛うじて笑顔を作り、何でもないように話しかける。
「縲縲朱ュ皮n縺ョ螟ゥ菴ソ・医b縺励¥縺ッ謔ェ螂ウ・峨�」
「……」
「譌・蟶ク逧・↑諷後□縺励&繧よ綾繧翫▽縺、縺ゅk縲√%縺灘ク悟恍蟶ゅ�」
「………」
「縺ゅk莨第律縺ョ譌ゥ譛昴√∪縺陦励′蝟ァ鬨偵↓蛹・∪繧後k縺ォ縺ッ蟆代@譌ゥ縺・凾髢薙↓縲�」
「………ば」
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┃きみがかわれば せかいもかわる┃
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俺はようやく理解した。
自分がやってしまったことを。
それが引き起こした結果を。
「バグったァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
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┃ つ づ く ┃
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よいこはまねしないでね。