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俺だけ楽しむデスゲーム

作者: eke


 バべルタワーの記念すべき最初のボス戦に挑むのは、俺だけ。

大人数で楽しむことを想定されていた迷宮のボスの部屋に、一番乗りで乗り込んだのは俺だけ。

そのまま栄誉ある最初の討伐者として、

この世界(ゲーム)のトップランナーとしてスタートを切れたのも俺だけ。


 そこから他のどのプレイヤーの追随も許すことなく、この世界(ゲーム)の初めては全て俺が貰い受けた。

一番美味い勝利の美酒にまず最初に口をつけるのは俺だし、他の誰とも分け合うことなく、そのまま俺一人で飲み尽くしても文句は言えない言わせない。

俺だけが頂点に立つ喜びは格別だった。


 俺にはゲームを始める前から仲間は居なかったし、このゲームを始めてから仲間ができることもなかった。

断っておくが俺はそれがいけない事だとはこれっぽっちも思っちゃいない。

 周囲の人間を置き去りに、たった一人でゲーム攻略の最前線に挑み続ける孤高のプレイヤー。

そんな俺の立ち位置は、これから先ずっと揺るぎないものになるであろう。



 それから暫くの月日が流れた。

壁面の岩肌が醸し出す無機質な部屋の雰囲気とは場違いに、軽快なメロディーが空間に鳴り響いていた。

何処からともなく聞こえて来るその音の意味を知る者はこの部屋に一人だけ、

岩肌の迷宮で毎日の様に狩をして経験値稼ぎに勤しんでいた俺だけだ。


 俺の生活を脅かす魔物を退治した時に増える経験値。

それを確認するのはとても簡単で、誰もが生まれた時から視界の片隅で認識しているステータスの数値を見てやるだけ。

稼いだ経験値が一定の値を超えると、俺は今より強くなれる。

それは今よりもっと楽に多くの魔物を狩ることが出来て、

生活を豊かにする稼ぎが増えるっていう、大変喜ばしい事なのだ。


 だが俺のステータスにはもう、次のレベルに必要な経験値量が表示されていない。

つまりはあのメロディーは、俺のステータスがRPGのお約束であるレベル100の上限に到達した事を告げるファンファーレ。

言い換えると「あなた、これ以上強くなれませんよ」と言う意味で、一人で前線に挑み続ける俺にとっては死刑宣告に等しいものだった。



 これから先、どんどん前線は厳しくなる。

だと言うのに俺自身に、その環境へ適応する力がもう残されていない。

 考えが甘かった。

孤高の一匹狼を気取っていい気になっていた俺はバカだった。

今更だがここはオンラインゲームの中で、群れることのできない社会不適合が抜け抜けとしゃしゃり出る場所じゃなかったのだ。


……そろそろ独りを卒業するべきだ。

俺はここに来て初めて他のプレイヤー達の協力を得るべく、人が住む街へ向かう事にした。



 街は俺を手厚く歓迎した。

俺自身、虫が良すぎると思ったし、そう易々と受け入れて貰えるなんて思っていなかった。

だけど街はそんな俺を迎え入れた。

誰もいない街だけが俺を待っていたんだ。


 僕だけしかいない街だった。

探しても、

探しても、

どの街も、

何処へ行っても、

僕だけしかいない街だった。



 俺の独占を咎める奴なんて、最初からここには存在していなかったんだ。

このゲームを始めてから既に一年以上経ってから、ようやく俺は自分の愚かさに気が付いた。


オンラインゲームでソロプレイヤなんて捻くれた事に対してじゃない、もっと根本的な事について俺は間違い続けてたんだ。


 



 それは何年も前のこと、その時プレイしていたオンラインゲームの世界に現れた一人の男が宣言したことを俺は忘れられなかった。



「俺は今からこの世界をホンモノの世界に変換する。

ココで送る人生はホンモノになり、

つまり君達がココで死ねばホントウに命を落とす事になる。


 一つの命に一つの職業を公平なタイミングで平等な条件で与える…正しい人生の選択のありかた。

君たちが望んだ平等な世界を私がこれから提供して行くことを約束しよう

多くの人々に実りある人生があります様に」




 その現場に立ち会ったプレイヤーの間に動揺が走る。

古くから予想されてきた一つの未来の可能性に大いに沸き立った。



が、そんなデスゲームが実際に始まるなんて事はなく

その宣言の次の日、犯人はあっさりと捕まった。

イタズラ目的のただの愉快犯だった。



 俺はその事に大きな失望を感じた。

周りの人間も同じ様に感じていたはずだ。

だから俺は作ったのさ、デスゲームを。



「デスゲームする人この指とまれ」



十数年後に技術者となった俺は今度こそデスゲームを行うべく主催者として宣言してやる!

だが、誰も彼もを無差別に巻き込むつもりはない。

かつて俺がそうだった様に心から望む奴等を導くため、参加者を募る形で新世界への水先案内人を務める事にした。


もう後戻りは出来ない!

それでも行こう、きっと待っている仲間たちとともに。

そして約束の日まで待ち、その場所に訪れた人間は……




ただ一人としていなかった。

同志たちと作る明るい未来を妄想して意気揚々と約束時間に訪れ、愕然とし、唖然とし、呆然としているうちに

エミュレートされたサーバーへ俺一人だけが転送される。


どうして、どうして世界は俺を見捨てたのですか?



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