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旧学パロサイト再録集

定点観測:花神楽高校購買部の場合

作者: あーや

A.M.7:30


まだ静まり返った校内。あと10分ほどすれば、朝練の生徒たちがちらほらと現れ始めるだろう、そんな朝早く。

購買の鍵を開ける鮮やかな赤毛の青年。彼がこの購買の職員、ライド・カンデットだ。

店内に入るとレジの鍵を開け、身支度をしてから事前に届いていた品物を店内に並べていく。品物はパンやおにぎり、お菓子や飲み物、簡単な文房具などなど。8:30の開店に向けての最初の仕事だ。


今日も1日が始まる。






A.M.10:55


開店してしばらくは朝であることもあって客は少ない。やることと言えば登校してくる生徒に挨拶するくらいだ。しかしこれも大事な仕事である。

そんな午前中。本日最初の客が来た。


「購買さーん!おはようございまーす!」

「おはようございます。ユイザちゃん」

「あっ、覚えててくれてるんですか?」

「それはまぁ、毎日のように何回も来られたら覚えるよ」


彼女はユイザ=ラスカーチェ。購買の常連だ。


「お昼ごはんを買いに来たの」

「また食べちゃったの?」

「お腹すいて我慢できないんだもん」

「もう…あと5分で次の授業だよ。早く選ばないと」

「あ、そうだった!」


ユイザはおにぎりやサンドイッチをしこたま買って戻っていった。彼女は一人暮らしと聞いている。食費は大丈夫なのだろうかといつも心配になるライドだった。






A.M.11:50


お昼休み前。この時間に大体、注文した職員用のお弁当が業者から届く。それを職員室まで運ぶのもライドの仕事だ。

今日は道が混んでいたらしく到着が少し遅くなった。急いで持っていかなければと支度をしていると。


「どうも」

「あっ、スイレン先生!どうなさいましたか?」

「いや、お弁当がいつもの時間に来ないから、どうしたのかと思いましてね。ちょうど私は授業がなかったものですから」

「あぁすいません、今届いたところなんですよ…今持っていきますので」

「いや、私が持っていきましょう」

「そんな!僕の仕事ですから」

「そろそろ昼休みでしょう?生徒たちが押し寄せてきますよ。あなたはいた方がいいのでは?」

「でも、これ結構重いですよ?」

「大丈夫です。これでも力には自信がありますから。では」

「あっ」


本当にスイレンはひょいと弁当が入った箱を持ち上げ行ってしまった。和服で持つのも歩くのも大変そうに見えるがそうでもないらしい。

少し呆然としていると、授業終了を告げるチャイムが鳴る。我に返ったライドは慌てて次の支度に取りかかった。






P.M.1:30


最大の正念場、お昼休みを乗りきり、静まり返った購買部。椅子に腰掛け一息ついているライドの元に、もう一人の常連がやってきた。


「やあどうも」

「あぁ内原さん、今日も花壇のお世話ですか?」


浅黒い肌が特徴的な彼は内原黒人。花神楽高校の用務員で、外部職員同士二人はなかなか仲がいい。


「はい。そっちも、今日も忙しそうでしたね」

「はい、まぁ。ご覧になったんですか、あの騒ぎを」

「たまたま通りがかったんで窓からずっと覗いていたんですがね、誰も気づいてくれませんでしたよ」

「そりゃそうでしょう」


話しながら飲み物売り場から取ってくるのはいつもの番茶。会計を済ませるとライドは奥から椅子をもう一脚出してきた。ここまでいつもの光景だ。


「ふう…」

「まだまだ昼間は暑いですね」

「そうですね。もう少し涼しくなれば手入れも楽になるんですが」

「今は何を?」

「トマトはもう終わりましたし、グリーンカーテンのヘチマももう収穫しましたから…次は何にしようかな…」


こうやって雑談をするのが割と日課になっている。






P.M.4:40


購買の営業は18時まで。この時間になると品揃えもかなり少なくなる。客も朝同様数少ないので困ることは稀だが。

しかし今日はライドが個人的に困る客がやってきた。


「こんにちはー」

「!」


銀髪のショートカット、キラキラした黒目。何もしていなくても綺麗な肌と長い睫毛。


「リックス…ちゃん。どうしたの?こんな時間に…」

「晩御飯を買いに来たんです。今日はお仕事で遅いから家で食べられなくて。でもあんまりお金もないから安いしここに」

「そ、そう…ちょっと少ないけど、ゆっくり見ていってね」

「ありがとうございます」


うーん、確かにあんまりいいのないなぁ、と呟きながら狭い店内を歩くリックスをライドは目で追っていた。顔が赤い。

やがてリックスはいくつかパンを持ってレジにやってきた。間近に迫る顔に心拍数が跳ね上がる。目が会わせられない。


「ありがとうございます…」


お釣りを渡す瞬間、一瞬だけ触れる手。それだけでどきりとする。出ていくリックスを目で追い、一気に力が抜けた。


「ほほーう(笑)」

「うわっ」


そこにひょこりと顔を覗かせたのは世具蒼太。にやにやと笑っている。


「あんパンさんはリリィちゃんにお熱なの?(笑)」

「えっ」

「態度でバレバレだよ~(笑)むしろリリィちゃんが気づかないのが不思議なくらい(笑)」

「そ、そうなんだ…」

「あ~いいもの見ちゃった(笑)さぁてあんパンあんパン…って、アレ!?あんパンもうないじゃん!(笑)」

「あんパン…?そういえばリックスちゃんがさっき買っていったけど…」

「じゃあそれが最後の一個だったってこと~!?(笑)そりゃないよ~リリィちゃーん!(笑)」


蒼太はそのまま店を出ていってしまい、店内には微妙な心境のライドのみが残された。

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