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悪役屋さんシリーズ

悪役屋さん

作者: 高坂 由樹

 ちょっと思いついたので備忘録的に書いてみた。

アイデアたまれば連載版書くかも

 悪役屋さんという言葉を知っているだろうか?

 人に頼まれて、他人にいやがらせをすることを生業なりわいにする職業だ。


 絶対数は少ないが、世の中にその職業は実在し、かくいう俺もその1人だ。

 12の時に悪役屋さんとなり、今年で5年目。

 ようやく一人前と認められてきた頃合いだ。

 今日も俺は依頼を受けて、他人に嫌がらせを繰り返す。悪役としての最後、物語の円滑な進行に貢献した時に、自分の成長を感じる日々だ。


 ただ、勘違いしないでほしい。

 悪役屋さんは、苛める事だけが仕事ではない。

 悪役、でなければならないのだ。

 

 依頼人の頼みごとに忠実に答え、悪役として暗躍し、最後に悪役として倒される。

 一歩間違えば、犯罪者と間違われる役職だが、悪役屋さんにとって重要なのは、いかに悪役を演じきれるかどうかだ。


 そこの違いが分かってない奴は、ただの苛めっ子に成り下がる。

 悪役とは、本来主人公を際立たせるための高貴な職業。

 生半可な人間に勤まると思っては困る。

 

 おっと、ようやく依頼人の指定した場所が見えてきた。

 今回の依頼は久方ぶりに大きな仕事で、前金だけでも1年は暮らせてしまう。

 失敗は許されない。


 王都の裏路地にひっそりとたたずむ廃屋の中、破れた壁と穴の開いた屋根から年中風が吹き込み、雨ざらしの床が俺の体重に耐えきれず、音を立てた。


 机の下に潜り込み、床を3回たたく。ギィィィという音がして、床の一部が開いた。

 入れ、ということだろう。


 穴の中は真新しく、壁と床は石造りだ。どうやら、今日の依頼人は大物らしい。

 通路を歩くと目の前に扉がある。

 扉を3回叩いた。


 扉は開かず、逆にくぐもった声が聞こえてくる。声の主が女だということは分かったが、年齢までは分からない。話し方もあえてぞんざいな話し方をすることで、身分の貴賤を悟られないようにしていた。


 頼まれたのは、ある女の子をいじめる事。

 場所を聞いて驚いた。この国最大の学び舎だ。

 そこで学べるだけで明るい未来が約束されたと庶民に評判の学院。


 この手の依頼を受ける場合、依頼主は大きく分けて2つだ。

 1つ目は自分を苛めさせることで、目立とうとするパターン。

 2つ目は本当に苛めたい子がいるが、自分の代わりに俺を悪役にするパターンだ。


 どちらかによって、俺の今後の行動指針が大きく変わる。

 特に2つ目は厄介だ。何しろ、この場合、依頼主の真の目的は苛める事じゃないはずだ。その子を苛めることでどんなメリットが依頼主にあるかを見極めつつ、悪役とならねばならない。人間関係を密に観察し、臨機応変な対応が求められる。

 

 非常にハードだ。


 そんなことを思ったが、仕事は仕事。

 きっちりこなすさ。


 俺は写真をもらった。

 可愛らしい子じゃないか。黒髪ロングの清楚に見えるお嬢さまだ。外見は100人中99人は振り返るほどの美少女だ。残り1人は老眼か近視だな。

 

 こんな子を苛めるのは気が引けるが、仕方がない。

 俺は同意して前金を受け取った。


 仕事内容は、その子を苛めて退学に追い込むこと。

 さて、問題は学院に以下に潜入することだが、幸い俺と同い年が多く在籍する場所だ。

 変装するのが一番だろう。


 確か、学院の総学生数は2万を超えるはず。全員の顔と名前なんて誰も覚えているはずがない。上手くいくだろう。

 その旨依頼主に伝えると、快い返事が返ってきた。

 

 後で、制服を送ってくれる手はずになっている。

 正式に依頼を受諾し、俺はその廃屋から夜の王都へと飛び出した。

 銀の月明かりの下、前金としてもらった金を手に誰もいない通りを走る。


 素顔を晒せる開放感が全身を包む。


 よし。

 目標の金貨1000万枚まで後950万枚まで近づいた。

 まだ先は長いが、目標のために頑張っていこう。


 翌日、俺が伝えた場所に荷物が届けられた。

 学院の資料と、制服だ。

 

 取り出してみると、


「……女子、の制服じゃねーか!」


 学院には男子禁制の区画があり、その中に女子専用のクラスが独立して存在していた。学校など通ったことない俺にとって、そんな事実は寝耳に水だ。


 手元の資料を力一杯握りしめ、俺は歯ぎしりする。

 一度受けた依頼を断るのは、悪役屋さんとしての評判を著しく下げる。今の俺に残された仕事はこれだけだ。

 

 鏡を見た。

 肩口より下に伸びた銀髪と、思春期真っ只中なのに、一向に男らしくならない容姿。

 道を歩けば女に間違われ、フードをかぶって出歩くようになった苦い記憶。


 苦い記憶を舌打ちと共に飲み干して、俺は決める。

 よし、女装しよう。

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