4話
疑いと戸惑いが表情出てしまったらしい。
目の前の男が苦笑している。
「もしかしてそんなことは聞いたことがない?」
少し迷ったが一度うなずく。
「一人ここに連れてくることを許してはもらえないだろうか?もし許してもらえるならば少しは証明をできるかもしれない」
「・・・」
「もちろんおかしな行動をするものではないことを保証する!もちろん万が一あいつが何かすることがあっても私が全力で守ろう!」
何をもってしてもこれを証明することなどできる気がしないのだが・・・。でも彼の必死な様子にまたしてもついうなずいてしまう。私この人の雰囲気にほだされてないか?
「そうか!少し待っていてくれ」
私の返事に嬉しそうに笑顔を浮かべると扉に向かって駆け寄ると勢いよくあけて出て行ってしまった。
・・・え?私見張りとかいない気がするけどいいの?一人で。
人並みならぬ魔力のある私は結界以外の魔法は使えないが、さすがに魔力を感じ取ることくらいはできるのでよほど巧妙に気配を断たれなければ隠れていても周囲に何人いるだとか、自分以上だとあいまいだがある程度までは魔力量も感覚でとらえることができるのだ。
その感覚を信じるなら今一番近くてもこの階には人はいない、いや、魔族はいない。
本当に人質を取っている自覚あるのかな?あの魔王らしき人。
「戻った!」
「ちょっと痛いですよ。まったく」
あきらかにその人不機嫌なんですが、連れてきて大丈夫な人かな・・・?
こちらが戸惑うほど不機嫌を滲ませた男性。
色を除いた見た目ならこっちの方が冷たく偉そうで魔王っぽいような、なんて失礼なことも頭をよぎる。鋼のような触ったら冷たそうな硬質な色の髪、瞳はブルーグレイといえばいいのか。かなり黒に近い濃い色合い。切れ長な瞳は細い眼鏡というアイテムにってますます冷たそうに見える。全身黒づくめの服装。まだ人間を滅ぼしたがっている魔王ってイメージには合いそうである。
でも私には一目でわかった。
もちろん魔王ではない。
それどころか魔族じゃない。
今まで魔王以外の魔族ってものにあったことはないけど、それでもわかるのだ。彼の纏う魔力は魔族のものではない。魔王に会ったからこそわかる、人間の気配が濃い。でも今まで自分の周囲にいた人間とは比べるべくもない膨大な魔力を持っている。
あれほど黒に近い色彩を持つのも納得である。
魔力が少なければ少ないほど髪や瞳といった色味は薄くなるのだ。
「これがかの巫女姫ですか」
あきらかに撫しつけにジロジロ見られている。まぁこっちも見返しているが。
「レイ!失礼な態度をとるな。勝手に連れてきたとはいえ俺の客人だ」
「はいはい。巫女姫ルクレシア様、ご尊顔を拝謁する名誉な機会を与えていただき恐悦至極に存じます」
えっと、思ってないですよね?完全に棒読みですよ?!なんかこの人怖いよ?!
「レイド=シュタインと申します。12歳まで人間の国にあり巫女姫様の庇護下においていただいておりましたが、この目の色のせいで処刑の沙汰を受け、命からがら逃げだし現在はこの魔王城で働いております」
目の色?その目の何が処刑の対象だというのだ?
『目の色だけでなぜ処刑されるようなことになるのですか?』
急いで書き記し彼に見せると、なぜ話さないのか疑問に思ったのか顔に一瞬現れるが即座に元の何の感情もわからない表情に戻る。
「巫女姫様はご存じないのかもしれませんが、人間の国では黒は魔族の色という考えで定着しております」
そこは知っているので一度うなずいておく。それに対してバカにしているとしか思えない表情を浮かべると言葉だけはやたらと丁寧に説明してくれた。
「そこをご存じなら話は早い。この瞳の色は魔族と交わった末に生まれた子供である証拠だと、母は全く謂れのないそしりを受けたのです。母も父も魔力の強い人でした。その結果偶然人間としては規格外の私が生まれただけです。しかし村人の様子に命の危険すら覚えた両親は私を連れて村から離れて暮らしていました。私も隠れるようにずっと育ちましたが、不安にかられた者が家へ様子を見に来たのです。12歳の時でした。子供の頃よりも成長と共に魔力が増し、さらにはっきりした色彩を纏った私を見たその者は村へ逃げ帰り報告しました。結果家族全員が捕縛され、魔族の疑いありと処刑が決まりました」
一目見れば魔族でないことなどわかるというのになぜ処刑などということになるの?!
『あなたを見れば魔族じゃないことなど一目瞭然でしょう?』
「・・・恐れながら人間にはそんなことはわかりませんよ」
「人間の惰弱な魔力では魔力の強さや気配の違いなど判別ができないんだ」
魔王の言葉に愕然とした。
もし魔王の言うとおり普通の魔力量の人間には判別ができず、このレイドのいうこと人の生い立ちが真実ならまさしく偏見に満ちた迫害だ・・・。
何の証拠のないのにただ魔力が強くて色彩が黒に近いから処刑なんてありえない!
だいたいそれなら誰より一番に処刑されるべきは私ではないか。
瞳は巫女姫の証である黄金色でも私の髪は魔力の強さを表すように真っ黒なのだから。
呆然として彼と見つめていると興味が失せたように今度は魔王に向き直る。
「魔王様、私だけの1例を見せるよりどれかの村を見せれば早いんじゃないですか?あれこそ疑いようのない証拠でしょう。あと魔王様に強引に連れてこられたせいで遅れている急ぎの仕事に戻っていいでしょうか?」
え、待って。それ、忙しいからこんなどうでもいいことに呼びつけんなよって思って言ってるよね?丁寧に言ってるけど声が、声がすっごい不機嫌ですから!!
笑顔すら浮かべているが、魔王に対して発している絶対零度なオーラが怖すぎる。
「そうか。村なら確かに・・・。さすがレイだな!いい考えだ!」
「それは結構。では失礼しても?」
「あなたをとある村に連れて行きたいのだがいいだろうか?そこに行けば私の話を信用してもらえるかもしれないと思うんだ」
待って?!魔王?そこでなんで返事をせずに私に話しかけるのよ!怒ってるから!明らかに笑顔でおでこに怒筋浮いちゃってますから!!
大慌てでこくこくこくと強くうなずく。
大丈夫だから!もうどうせ人質であることが変わらないならどこでも行くから!無視するのやめてあげて!
「よかった。魔王の私だけじゃ不安かもしれないし、レイも一緒の方がいいだろうか?」
私はもちろんその魔王の空気を読めない気づかいに大きく首を横に振った。
私の不安はいいからそこの殺気に満ちた気配に気づいてよ!!
説明だらけになってしまいました・・・。わかりにくい部分や矛盾点、誤字などは教えていただけるとありがたいです。