1話
眠たい。
眠たい。
眠たい。
眠たい。
ねむ・・・・・っと
眠たいけど寝ちゃダメ。
時折眠すぎて頭がふっと傾きかけるが、必死に踏ん張るとまた力強く歌い続ける。歌姫の名前は代々ルクレシアと決まっている。
彼女は24代目歌姫ルクレシア。国中から崇められる宝であり守りの要である。
まだまだ次の寝る時間は遠い。さっき起きたところなんだから当たり前といえば当たり前なんだけど。
私の基本生活は5時間40分くらい歌って10分前後で食事、そのまままただいたい6時間。また食事しての計12時間で結界を張るお役目のあと1時間の睡眠。その間に許されているのは多少の水分補給と1~2回程度の排泄のみ。
そんな生活で人間生きていけるはずがないって思ってたけど、私の体にあるとんでもない魔力はこんなとこでも役立っているのか。今のところ死にそうにはない、残念ながら。でも代々の姫巫女が短命なのはぜったいこの過酷な生活のせいだと思ってます!
でも一度でいいから5時間くらい寝てみたい。人間がベストコンディションで動けるとかいう7時間なんて高望みはしない。昨日5時間しか寝てなくてというメイドの言葉をうっかり立ち聞きし殺意が芽生えて以来のささやかな私の夢である。
もちろん叶わないって知ってるけどね。
今日もなんとか終わった・・・。
ベッドにぐったりと横たわると目の前にいつものサンドイッチが置かれる。早く食べられることが優先の食事ではいつもこれか冷めたスープとパンが関の山。
国民はもっと高級なもの食べてると思ってるのかな、なんてらちもないことを考えながらも義務的に食べ物を詰め込む。1分1秒も無駄になんてできない、それすなわち私の睡眠時間が削られることに他ならないからだ。
食べ終わったらいつものごとくの早業で浅い盥にお湯が張られている中に頭まで一気に沈み込み立ち上がったところを3人がかりで頭も体も一気に洗われ、もちろんまとめて流される。何度も頭からお湯をかけられる苦行とも思える時間のあと、魔法を使えるメイドが一気に乾かすとゆったりとしたワンピースを着せられて、寝支度は完了である。ここまででだいたい10分。
素晴らしい連携プレイなんて思う暇もなく疲れ切った体をベッドに沈ませる。少しでも短時間で深い休息を取らせるためか、この時ばかりは部屋の中には誰もいなくなる。
そう、そのはずだった。
全員が部屋からでた気配を感じたはずなのに、感じたことのない魔力が部屋に突然出現した。
「いつもこんなことをしていたのか・・・」
「・・・?」
そこにいたのは騎士服とよく似た黒い衣服をまとった黒髪の男。もちろん見覚えはない。しかもこの国の騎士服は所属によって色は違えど黒だけはありえないのだ。黒は魔族のもっともよく纏う色であり、好む色だからである。
「こんな生活は辛くないのか?」
辛いのか辛くないのかといわれたら辛いに決まっている。怪しいと思っているのについ反射的にうなずいてしまった。
「では俺はお前をさらう悪役になろう」
「っっ?!」
驚く間もなくマントでくるまれたかと思うといつもならお役目の直後にやってくる抗いがたい睡魔が一気に襲う。これに逆らってはいけないとまるで体が覚えているかのようになんの抵抗もなくいつものように深い眠りに落ちる。
その寝顔を覗き込み口角を少し緩めた男は現れた時と同じように一瞬にしてその場から消えた。
今晩中にもう一話アップできるように頑張ります!