表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

【嵯峨 卯近/2001年~2018年】執筆した過去小説

もののけもよう 其の三――桜の精――

作者: 嵯峨 卯近

  もののけもよう 其の三――桜の精――

                               筆名・峨嵯がさ 後走ごそう




 ありとあらゆる命にあふれた、この世界。

 されども、あなた方の知る世界とは少し異なります。

 まず、似通ってる所と云えば、極東の――とある島国、その長い歴史の中で『平安』と呼ばれる時代の文化でしょうか。建築様式から風俗まで、人間どもは幽玄の美と言ってますけどね。そして、そんな世界を『宸世しんぜ』とたたえ、誇っています。鎌倉幕府が成立し、武士の世が揺るぎ無い物となってしまい、皇政復古おうせいふっこを諦めた時の帝が――まぁ、成り立ちを語れば長くなるので、このくらいに致しましょうか。

 では、大きく違う所と云えば――そう、私のような命無きモノどもも、多くんでおります。

 怪物、妖怪、化け物、様々なくくられ方がありますが、この世界では総じて[もののけ]と呼ばれ、恐れられています。時には奉られ――、時には狩られ――、私達と人間どもの関係は、悠久の時の流れによって激しく揺れ動きました。

 [もののけ]の定義は広く、そして発生も千差万別と云えるでしょう。

 例えば、其の一で登場した『雪ん子』は、冬の到来を知らしめるべく生まれたモノ。山の風景を白一色に染め上げた後、はかなく消えゆく[もののけ]です。

 次に、其のニで登場する『朱羅しゅら』は、元々人間でした。罪を作り、ごうを重ね、ついには[もののけ]になってしまう、哀れな存在です。


 さて――と、此度こたびは、たまたま稀有な美しさを持って『桜の精』と名乗っては悪さをしている、救いようの無い女の話をしますか。

 でもまぁ、私の美貌に比べれば、月とすっぽんですけどね――ふふふ。




 粉雪を散らしたかのような白い輝きを放つ星達と、はちきれんばかりの満月からの明かりが降り注ぐ今宵こよい

 そんな光に満ちた夜空に負けまいと、地上を照らすように命の限り咲き乱れている、桜の木々――。

 しゃりしゃりと土を踏みしめる足音と共に、二つの人影が行き過ぎた。

「んふふっ、貴方あなた様とこうして、共に歩く事が、夢でございましたわ」

 一人は――桜色の着物をまとった、有り体に言えば美女である。おそらく十人がその姿を目にすれば、八人は息を呑むだろう。

「………………ふむ」

 もう一人は、杜若かきつばた色の狩衣かりぎぬ【貴族のカジュアルな服装】に身を包む、涼しげな横顔が特徴の美青年。

 冷静に記憶を探るが、一向に思い出せない。彼女とは初対面であるはず――だが、

「ボクも、この時をどれだけ待ち望んでいた事か……」

 さらりと言ってのけた。

 それは、ここにある桜の数ほどの女性を口説き落としてきた彼にとって、些細ささいな問題だった。にもかくにも相手に合わせて、口車くちぐるまに乗せ、目的をげれば勝ち。そう頭を切り替え、狩人かりゅうどごとく目を細める。

「んふっ、私は、貴方あなた様を想うあまり、桜の精として生まれ変わりましたのよ」

 そう言った彼女は、腕を絡ませて、美青年の左肩へ身体を寄せる。

「ほほぅ……、そ、そうなのか……?」

 頭の仕組みがかわいそうな、かなり痛々しい女のようだが、ここまでの上玉は中々いないだろう。顔さえ良ければどんな女でも楽しめるのだ。もちろん、存分に楽しんではらませた後は、いつものように処分を命じて退散するとしよう。

「さぁ、着きました。これが私の宿る木ですわ」

 その大きさは、周りの木々とさして変わらず。

 ただ、花の一つ一つが、周囲の桜よりずっと輝いている――ように見えた。

「ほほぅ……、これはまた……、キレイな桜だ。けどボクは、キミの方がよほどキレイだと思うよ……」

 いつもの殺し文句を飛ばしながら、女の首筋をカプッと甘噛あまがみする。そしてそのまま、彼女の背中を木の幹へ押し付け、逃げられないように固定する。

「ああっ、んっ、ちょっ……、困りっま……すっわっ、そっ、そんな……あぅ」

 女の吐息が、予想より早く乱れた。普段からヤリ慣れている感じだ。まぁ、そうとなれば話は早い。一気に大きいムネを揉みしだけば転がり落ちるだろう。

「そっ、そこはっ、やめてぇ」

 どっちの事を言ってるのか分からなかったが、どうでもいい。

 首筋から離したボクの唇が、今度は彼女の耳たぶをカプリと食らいつき、左手は大きなムネの膨らみの中心を探り当てて――一気に掴み落とす。

「だめぇ、そんなに激しくされるとっ……あんっ、とっ、取れちゃうわぁ」

 女の感極まった絶叫――そして、落ちた。

 ――ぼとりと。


「……………………」


 腐ったスイカのように、白く丸い物体がちぎれて、こぼれ落ちた。

 左手をワキワキする。得体の知れない液にまみれているのが分かる。

 そういえば、口にくわえているのはなんだろう。

 確か、この女の耳だったような――。


「だから……、言ったのに……、けど、せっかちな貴方あなた様も、す・き・よ」


 茶目っ気たっぷりに片目をつぶった女は、両手をボクの背中へ回し、がっちりと固めた。

 ボクの身体は動かない。目を閉じる事もできない。見たくも無い光景をまざまざと見せられる。

 女の白くて柔らかいはずの肌は、ぼろぼろと崩れ落ち――さらに白いモノがあらわになってゆく。

 ――即ち、


 桜色の着物をまとった白骨。


 かちゃりかちゃりと、頭蓋骨が鳴きながら言葉を紡ぎ出す。

「ずっと貴方あなた様を、お待ちしておりました……のよ?」

「ボクは何も知らんぞ。そもそも誰だっ、お前はっ、桜だから桜子かっ? それとも朋子かっ? はたまた真紀子かっ? ははっ、そうか分かったぞっ、お梅婆さんだなっ?」

 涼しげな横顔を歪ませた美青年が、今まで毒牙に掛けて来た女性の名前を並べて必死にわめき散らす。身体は動けずとも声は出せるのだ。

「私は……、桃子とうこ貴方あなた様の手で、ここに埋められた女でございます……」

 完全な人違いだと断言できる。何よりも、自らの手を汚した事は無い。

「ボクの名は、安芸臣あきとみの 兼遠かねとおだ。お前のような女は知らん。人違いであろう!」

「まぁまぁ、貴方あなた様は兼遠かねとお様とおっしゃられるのですね。んふっ、凛々(りり)しい御名前ですこと」

 この――女の言葉に、ボクは悟ってしまった。どうしようもないワナに掛かったのだと。

「さぁ、今宵こよいは存分に楽しみましょう……ね?」

 細くて白い硬質な右手が、美青年のまと杜若かきつばた色の狩衣かりぎぬ【貴族のカジュアルな服装】の中へ入り込み、股間へ達する。

「んふふふっ、貴方あなた様の欲棒は今宵こよいで枯れ果てますけど、その養分は桜となって永遠に生き続けますから、御安心下さい……ね?」

 そう言いながら女は、左手で自らの着物をたくし上げる。

「や……、やめっ、やめろおおおおおおっ」

「いやですわぁ、さっきまで貴方あなた様も望んでおられた事でしょう?」


 光があふれる夜空の下、桜の花びらを数枚ほど舞い上げたのは、感極まった断末魔の声だった。




 この――精力絶倫のすっぽん女の桃子とうこさん。[もののけ]の種別でいえば『骨女ほねおんな』になるでしょう。よく、桜の木の下には死体が埋められていると、色んな書物でありますが、人間どもにそんな習性があるのでしょうか。

 しかし、そのお相手である美青年も、とある宗教で言う所の因果応報、自業自得なメにあっちゃって、同情の余地はございません。そりゃあ、自分の手を汚さないってのは、最悪です。だからこそ、ロクな筋肉も付いてない虚弱な身体をしており、すっぽん女の桃子とうこさんに良い様にされてしまうのです。

 ともかくも、大きいおムネだけが自慢らしいすっぽん女の桃子とうこさんは、これからも末長く、こうした悪事を繰り返してゆくのでしょうね。そして、因果応報に自業自得、筋肉隆々の猛々しい武者様に討たれる運命にあるのですよ。男は、決して顔じゃありませんよ。筋肉ですのよ。筋肉が全てなのですよ。


 ――こほんっ。


 わたくしとした事が、少々脱線してしまったようです。

 では、此度こたびはこれで失礼したく存じます。



桜の咲いた頃に書き始めたこの作品。

気が付けば、アジサイやカタツムリが似合う梅雨の季節に完成投稿。

光陰矢の如しと言いますが、時の流れはあっという間ですね^ω^;


今回は、語り部さんが暴走しちゃってます。あんな好みを持っていたとは、思いませんでした(ぉぃ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 闇夜に輝く妖しい夜桜の雰囲気が素敵ですね。いつもながら、風景描写が綺麗だと思いました。 [一言] お婆さんにまで手を出していたんですか! そして語り部さんは筋肉がお好きですか! ……色々…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ