新たなる旅立ち~王様は親バカ~
第1章 交錯
「勇者ユリヤよ、よくぞあの大魔王エガレスを討伐した。これでヴァース大陸は救われ、人々は安心して暮らせよう」
「はいはい、どーもあんがとさん」
「貴様!王になんたる口を!!」
「皆の前だ!下がっておれ」
ヴァース大陸中央国セイレーン。その都市の中で最も大きい建造物、クロレイア城城内での口論だ。
ユリヤは無事帰還し、セイレーン国王アラム四世により賛辞の言葉を贈られた。それをぞんざいに返し場の空気を下げていたのだ。
謁見の間にはきらびやかな調度品の数々に加え、豪奢な衣装を纏った貴族の面々。
苦笑いをする者もいれば、怒りに顔を赤らめる者もいる。そのなかで唯一何も考えず絨毯に胡座を組んでいたのが、勇者ユリヤだった。
「はぁ~、早く終わらねぇかなぁ」
「……ま、まぁそう言うでない。貴殿に恩賞を授けたいのだが、何がほしい?なんでも言うがいい」
あっけらかんな表情のユリヤとは対照的に眉間のシワが重なるアラム国王、一触即発のムードにハラハラする謁見の間の面々であったが、ユリヤが素直に金と名声!と答えたので、空気が凍りながらも無事に式は終了した。
その後貴族たちが退出し、アラム国王とユリヤの二人になった。
「ユリヤァ!貴様はいつもワシに向かって敬意と言うものを示さんから最近貴族様方からのワシの噂は悪いのもばかり。今日という今日は許さんぞ!」
途端に威厳の塊は吹き飛び、罵詈雑言を浴びせたアラム国王。
二人だけの時は身分の差など無く、子どもの喧嘩ようなものだ。
「あんたはそう言うけどいつも国を救ってやってるのは誰?俺だろ?伝説の勇者様の名に恥じない活躍っぷりの俺にむしろ敬意とやらを表すべきじゃないのか?」
「き、貴様など先人の方々の足元にも及ばんわっ!彼の方たちは剣技に優れ、魔法に優れ」
「そんなの俺と変わらないだろ??」
「まだワシが話してる途中じゃっ!貴様とは違ってあの方たちは確かに人の心を持っておった。貴様はそれを皆無と言って良いほど持ち合わせておらんっ!昔とは変わってしまった。五年前の貴様なら」
口論の末のアラム国王のポロっと出た一言に、対面に向かい合っていたユリヤは、
「あんたがそれを言うか?」
王にも関わらず聖剣レプリカの切っ先を向けた。
先程とは打って変わった表情に声色。それに気づいたアラム国王は剣身を手で掴み、
「……配慮が足りなかった」
退魔の剣だからといって人間が切れない訳ではない。鋭利な刃を包む手は血が滴っていた。
戻した手を治癒させず放っておき、両者は沈黙。
「まぁ、いいや」
静寂を破ったのはユリヤの平生のあっけらかんとした口調だった。
「俺に残れってことは何か他に用があるんだろ。娘を嫁にくれるのか?」
「誰が貴様になんぞやるもんか!ビクトリアをやるくらいならワシが嫁に出る!」
「どういう理屈だよ……。で、用件は?」
ビクトリアは亡き女王陛下が残した子であり、女王の面影が多分に含まれているためか、アラム国王は溺愛していた。
欲しいものは何でも与えるし、誕生パーティには全国民を招待して盛大に執り行う。
もう十六歳なのにいつまでもその扱いはさすがに嫌われると思うのだが。
「………。実はな、ヴァース大陸内の均衡に揺らぎがある。西のロレント、ヴェルフレア。東のデスブルク、サリスタ。そしてその中心にいるのがセイレーン。下手をすれば隣国に四方から攻め立てられる可能性がある。そうなれば真っ先に滅ぶのは、セイレーンじゃ」
「ちょっと待て。セイレーンで戦争なんて今まで一度もなかっただろう」
セイレーンは開国以降1度も争いがない。と言うのもセイレーンは戦には不向きなものの、他国の友好関係を取り持つのが地理的に適任だからだ。
そのおかげでセイレーンが直接関わる抗争は発生しなかったのである。
その返答を予想していたアラム国王は生い茂らせた白い髭を撫でながら、
「確かにその通りじゃ。だが、今は違う。昨日ユリヤが大魔王エガレスを倒したことで我が国に絶対的な力を持つ者がいる、と言う事実が広まっている。複数人の、加えてそれが他国の英傑達と共に打ち倒したのなら話は変わってきていたのが……齢18の小僧が一人で討伐した。これで分かったじゃろう」
つまり、結論からすると、
貴様のせいで国がピンチだから大陸一周して和解してきてっ♪
とのことだった。
「あんたが依頼しといてそれはないんじゃないか?」
「いや、だってワシはお前が一人で勝てるなんて思ってなかったし」
「……何てめちゃくちゃな王さんだよ、ったく」
口をすぼめてそっぽを向くアラム国王に、半眼で睨みながら溜め息を一つ吐いたユリヤは、
「仕方がないから行ってやる。戦争も楽しそうだが魔力がいくらあっても足りなさそうだ。ひとっ飛びしてくる。だがその前に」
ヒラヒラした礼装を着るアラム国王の後ろにずっと隠れていた何かを引っ付かんだ。
「いだだだだっ!離せっ離せよ!!」
ユリヤが釣り上げたのは闇色の髪を背中まで伸ばした子どもだった。つり上がった眼から注がれる眼光はまるで獣そのもので。
「こいつ誰?」
「それがワシにも検討もつかんでな。知らぬうちにくっつかれていた。話の展開上スルーの方向かなぁと」
「ゴースト系のモンスターか?」
ユリヤは首根っこを掴んでいた子どもを空中で逆さに(足を)持ち直し、振り子のように振る。
「やぁぁめぇぇろぉーーっ!!」
子どもの制止の声に耳も貸さず、満足するまで振るとポイッと捨て、
「違うわこれ、人間だわ」
「見たらわかるだろっ!てかこれ呼ばわりすんな!」
「あ、思い出した」
ポンと握り拳を手のひらに乗せたアラム国王。
「セイレーン港でどこからか流されてきたのを貿易商が届けての、面倒になるのが嫌でワシの後ろにずっと隠しておったんじゃった。」
「あんた国王やめろよ」
適切なユリヤの進言に子どものようにそっぽを向いたアラム国王だが、
「……よし!ユリヤ。この子どもを連れて旅にでよ」
不意の句に、は?と疑問符を浮かべたユリヤ。
「貴様が一人で旅立っても和解の交渉など出来ようもない。だから子どもを引き連れてる様相を見せれば、多少は違いが出よう」
「あー……何でそうなる?」
「ワシが連れてたら隠し子だと思われてビクトリアに嫌われるじゃろ!」
「娘相手だと必死だな、ったく」
ユリヤは、正直娘から引かれても仕方ないアラム国王の剣幕に辟易しながら闇色の髪の子どもに視線をやり、
「はぁぁぁぁー。承知した」
盛大な吐息と共に子どもの髪を手荒く掻き撫でた。
「や、まだオレ行くなんて言ってないし」
「ユリヤよ、まずは西の農業大国ロレントへ向かってくれ」
「まだ名前すら言ってないよ?オレ」
「そこまでは聞くが、あんたの指図は受けねえ。昨日の今日でヘトヘトなんだ。一晩休むから子ども借りてくぞ」
ユリヤはアラム国王との会話の合間合間に流れる甲高い声に耳も貸さない。そして、闇色の髪を掴まれて引き摺られていく子どもの声が城内に高々と響き渡った。
ホント乗りで書いてる奴でごめんなさい(笑)
ヒマがあれば読んでください(笑)