Walk with you
2人が次に会ったのは、新歓交流会の時だったね。この時、僕はまだまだちいさなベイビーだった。吹けば消えるほどにもろい存在だったんだよ。
満開の桜並木の下で、新入部員と在来部員の顔合わせが為された。上回生は楓も含めて15人程度で新入生は紅葉を入れて5人にまで増えていた。
ブルーシートの上で輪になって座る一同。大学に近い場所だけあって、周りには同じように新歓を兼ねた花見をしている学生であふれている。この街の春の風物詩のような光景だ。
新歓担当の2年の千尋が張り切って挨拶をしている。
新入生と上回生が入り混じるようにして座ったその席で、偶然、楓と紅葉は隣同士だった。
「あの、先日は部室を案内して下さってありがとうございました」
紅葉がにっこりと楓に微笑む。もう、楓に対して全く緊張していない様子だ。
「どういたしまして。今日は来てくれてありがとう。たくさん食べていってね。」
楓は輪の中心に置かれている寿司やオードブルなどを小皿に取り分け、紅葉に差し出した。
「ありがとうございます」
紅葉は話した。高校の時のことや、自分の家族の変な癖、とにかくたくさんのことを楓に話した。
楓は優しく紅葉の話を聞いた。そして、時々、自分の話をした。去年の夏にアメリカを放浪した話や、一昨年の秋に原付で日本を一周した話などをした。
紅葉はインドア派だけど、楓の話を聞いているうちに自分ももっと外に出ていきたいと思うようになった。そして、ずっと楓と話していたいな、と思った。
その時間だけは、2人にとって世界は楓と紅葉と桜しかなかった。咲き誇る桜のもとで楓と紅葉は新しい世界を切り開いたかのような感覚に浸っていた。
「おおーい!楓ぇい!飲んでるかー!?」
2人の間に金髪の大男が割り込んできた。両手に缶ビールをもっさり抱えている。紅葉のほうを向いてニカっと笑いかける。
「ああ、どうも!三年の内山田です。ウッチーって呼んでね!」
そういう内山田の息はすでに酒臭い。紅葉はちょっと怯えている。
「おい、やめろよ。新入生が怖がってるだろ」
楓が内山田の肩をつかみ、ぐいっと紅葉から引き離す。内山田はまじまじと楓の顔を見つめた。
「あれれー?楓くんもしかして素面なのー?ダメじゃないかー?花見は飲むべし!」
内山田が楓に缶ビールを手渡す。すると、わらわらと楓の周りに部員が集まってきた。
「そうっすよー、楓さんが飲まないと始まりませんよ。ほら、君も飲んで」
2年の片山が紅葉にもチューハイを手渡す。楓の周りでは部員たちが
「わっしょい、わっしょい、わっしょい、楓!」
と、何やら奇妙な掛け声で盛り上がっている。普段はおとなしい部員たちだが(内山田を除く)、酒が入るとみんな本当に破天荒になるのだ。もはや、輪は完全に崩れ、日本酒の一升瓶を片手に横になっている4回生や、芝生の上でプロレスを始めるものや、桜の木の枝で懸垂をしているものまでいる。千尋は何故か飛び込み前転の練習を始めている。
他の新入生もまだ慣れぬ酒を飲み、それぞれ陽気に笑っている。
気付けば素面なのは楓と紅葉だけであった。
紅葉は実家から大学に通う実家生だ。まだ、18歳の紅葉は両親からまだお酒を飲んではいけないと言われている。両親との約束を破るわけにはいかない。
しかし、周りは酔っぱらった先輩たちでいっぱいだ。どうしよう、と思いながらもチューハイの缶のふたを開けた。
「おお!!」
と、周りの部員が囃し立てる。
飲むしかない。
紅葉が意を決して酒を飲もうとしたその時、横でさらに大きい歓声が起こった。
楓が内山田から渡された缶ビールを一気に飲み干したのだ。
すると、楓は隣で唖然としている紅葉の手からチューハイを奪い取った。
「あっ」
紅葉が戸惑うと楓は優しくほほ笑んで
「いいから」
と、紅葉に小さな声で告げ、それも一気飲みした。湧き上がる歓声。楓の2本連続の一気飲みにみんな大盛り上がりだ。
「か・え・で!か・え・で!」
楓は両手を挙げて歓声に応えた。そして、
「お前も飲めよ」
と、内山田に瓶ビールを渡した。部員たちのテンションもさらにあがり、楓コールがウッチーコールに変わった。
「よっしゃー!!」
お調子者の内山田が一気飲みをはじめたところで、楓はさりげなく紅葉の手を引いた。
「今のうちに桜の写真を撮りに行こう」
紅葉は頷いた。
そして、2人は集団から抜け出し、桜並木を歩きだした。
「あの、さっきはありがとうございました。私、お酒飲めないからどうしようってなってて」
「いや、ごめんね。普段は大人しくていい奴らなんだけど、酒が入るとああなっちゃうんだよ」
無理な一気飲みをして、ふらつきながら歩く楓を見て、紅葉は僕に気付いた。
ああ、私はこの人のことが好きだ。




