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justice #8





 俺は運命ってもんが大好きだ。お前もそう思わねぇか? くくっ。


 俺は自由ってもんが大好きだ。誰かに縛られる命なんぞ、ゴミだ。


 俺は正義ってもんが大好きだ。大義名分ってやつだなぁ。ひひひ。






 そういうお前は、どう思う?

 そういうお前は、何を思う?






 ――まぁ、俺はべつにお前の意見なんて聞きたくもねぇがな。

 ……だが、とりあえず聞いておかねぇと後で損しちまうだろ?

 常識人で臆病者で中立派で脱走者なお前が。

 型破りで破天荒で堕天使で脱走者な俺様に。

 何を語るのかって、そりゃあもちろん正義のお話だ。





 お前の正義を教えろ。


 お前の自由を探し出せ。


 お前の運命を、掴み取れ。







 わざわざ、俺からこんな薄汚ぇ場所に来てやったんだからよ。


 そろそろ、お前の回答を不真面目に聞いてやろうじゃねえか。







 ――なぁ? 逃げてばっかの面倒くせぇ子羊よぉ。






   ◇◇◇◇◇






 少し前まで溢れるほどの閑散が広がっていた「煉獄の噴水」は、今や騒然としていた。

 驚きを露にする少年と少女――ダーウィーと、エイル。

 重々しい機械を担いでいる痩せた男――レコード。

 ローブを身に纏った女性――クロネ=クロマ。

 兄弟のような印象を持つ二人組――ハローとグッバイ。

 そして、彼らの中心――噴水の目の前に立つ、バイクに跨ったままの人間が一人。




「な――何者だ!」

 誰かが叫んだ。

 バイクに乗った人間は、くぐもった声で不機嫌そうに返事をする。




「うっせーな……ったく。ちったあ待ってろ」




 その人間――ヘルメットを被っているため、性別まではわからない――は、世にも珍しい大量の鎖が絡んだブーツと、月光にきらめく漆黒のツナギを堂々と着ている。

 浮き出る体のラインは、あまりに細く、そして力強い。

「ふぅー……あー寒い寒い、っと」

 外界から頭部を遮断していたヘルメットが、グローブの付いた両手によって外される。

 ――幻想的なほど美しい長い黒髪が、ヘルメットの下から姿を現した。

 ひゅっと音をたてて、背中のあたりを軽く揺れている。見えるようになったその顔には、唇の鮮明な紅色と切れ長の特徴的な目が見えた。




 誰もが理解した。この人間は、女だ。




「お――女の、人……!?」

 二人組の片割れ、ハローは驚く。他の何人かも同じような反応を示した。

「おう? なんだぁ坊主? 俺が女だったらなんか不都合でもあんのか? ん?」

 その驚きに過剰に反応しながら、女はバイクから降りる。それはとても荒々しい動作だったが、見た目の可憐さと強気な口調が違和感を中和しているらしく、むしろ華麗だとすら感じられる。

「……はぁ。相変わらずだな、<番犬>……」

 <情報屋>レコードは、ふとその名を口走る。ローブ姿の<魂術士>、クロネ=クロマはその発言にまた驚愕した。

「こいつが――この女が、あの<番犬>だとっ!?」

「あぁん? 文句あんのかこのインチキ女っ! 人の名前を軽々しく呼んでんじゃねぇッ! もっとはっきり喋りやがれ、それともあれか? 俺が怖すぎてまともに言葉も出ませんってか?」

「…………」

 クロマは明らかに不満をかもし出していたが、目の前の女の素性がわかるとろくに目もあわせようとしなくなった。

 ――いや、しなくなったのではない。

 出来なくなった、のだ。

 それはそうだろう。なぜなら、その女は『番犬』。

 この世界で最も恐れられる――唯一無二の存在なのだから。

「あ、あの<番犬>が……こんな場所で、なっ、何をしてるんだ? なんで……」

 声の震えを押さえきれないまま、二人組のもう片方、グッバイは困惑を呟く。<番犬>はそれを軽くあざ笑い――そして言い放つ。






「俺は、お前らみてぇなザコどもに大した用はない……用があんのはレコードと――その二人だけだ」






 全員の視線が、一つに集まる。

 ダーウィーとエイル。そして、エイルもまたダーウィーのことを唖然として見つめていた。

「ダーウィー……さん?」

「……はは、なるほど」

 嘆息。ダーウィーは乾いた笑いをこぼして、<番犬>と真正面から向き合う。

「そっか、もう一人いるって言ってたもんね、<監視役>の人。それがまさかエイルだったなんて……いやぁ、全然気づかなかったよ! もしかして、こうなること狙ってたの?」

「かかかっ! べっつにぃ? いろいろ手間取ってたからよ、あいにくそんな暇はなかったぜぇ」

「へえ、そうなの? 怪しいなぁ……まあいいけど。まさか本当に来てくれるなんて思わなかった。君って案外優しいよね」

「たわ言はその辺にしとけよこのチキン野郎。喰うぞ」

「君に食べられるなら本望、かな?」

「くはっ! ひっひっひっ、やっぱりてめぇは何も変わってねぇなぁ! ――むしろ安心したぜ、ダーウィー」






 その場にいるほぼ全員が、完全にその二人に取り残されていた。

 訳がわからない。誰もがみな、そんな表情を浮かべている。

 ようやくそれに気が付いた<番犬>とダーウィーの二人は、お互いの顔を見合い、笑いあい……そして話し出した。






「それじゃあ、改めてみんなに自己紹介といこうか! いいね、<番犬>?」

「えー、なんでこんなザコどもに……アホかお前?」

「一応説明ぐらいしようよ。いいでしょ?」

「おう、そんならオールレディだ。じゃあまずはお前からな」

「うん。僕の名前はダーウィー。――三日ぐらい前まで、組織の幹部をやってた者です」

「俺の名はレイ。地上とこの世界との境目を守る、<番犬>だ。よろしく」





 ――あまりに突飛すぎる突然の会話に、付いていける者は一人としていない。

 当たり前だ。その二人は異常。

 本来なら、こんな場所にいるわけのない――雲の上の存在なのだ。





「まあ、そんなわけで……」

「一つよろしく頼むぜっつーことだ。けけっ、わかったか? このザコどもが」





 ――何が起こったのか、何が終わったのか。

 冷たい風は依然として流れ続け、人々の困惑をどこかへと連れ去っていく。

 この現実を「夢」だと、そう錯覚させるようにして。







 柱時計の針は、もうすぐで三十分を示すところだった。





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