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justice #3


「なあ、ハロー」


「ん? どしたの、グッバイ」


「例の噂――お前は、どう思う?」


「……え、なにその例の噂って」


「……相変わらずお前はいろいろと無知だな」


「グッバイには言われたくないですよーだ」


「なっ! 俺のどこが無知だ! 言ってみろっ!」


「あーはいはい分かったよう……冗談です冗談。んで?」


「……まったく、お前はすぐに軽口を叩くから面倒なんだ。今までどれだけの軽口を叩いてきたか覚えてるのか?」


「じゃあグッバイは今までに食べたパンの枚数を覚えてるわけ?」


「お前を殴りたくなった回数なら正確に覚えてるぞ」


「わぁすっごい聞きたくないわー」


「ちなみにパンの枚数より数倍多い」


「え、僕への憎しみって主食超えるの!? なにそれ怖い!」


「暇さえあれば神に願ってるぞ。『嗚呼、神よ。あの哀れな子羊をお喰いください』ってな」


「お救いだろ! 『す』が抜けてる『す』が! 神様にカニバらせるなよ!」


「だからといって俺がカニバるわけにも……」


「いやいいよカニバらなくて! まずそこから離れようよ!」


「最近はもっぱら、この祈祷の習慣を地下中に広めようと奮闘中だ」


「宗教上の理由で門外不出ー! ごめんせめて個人に留めてお願い!」


「毎朝唱えれば、それはそれは素敵な来世が」


「そして僕は地獄行きだろ! そもそもそんな効力ないから!」


「……神様の腹の中は地獄なのか?」


「だからカニバりから離れてよぉグッバァイ! ていうか君の方が軽口多すぎじゃないですかぁ!?」


「わかったわかった、冗談はこれくらいにしておこう……。さて、まあ噂というくらいだから、本当かどうかはもちろん定かじゃないんだが」


「うん」


「――<組織>から逃げ出した奴がいるそうだ。それも、幹部レベルの奴がな」


「えっ……ほんとに? なんで?」


「さあな、理由は分からん。情報はたしかなはずだが……。かの難攻不落の<組織>もさぞお困りだろうよ。こんなこと、今まで一度も無かったしな」


「あちゃー、そりゃすごいや……で。すごーく嫌な予感がするんだけど――グッバイはなにするつもり?」


「捕まえる」


「……はぁ。言うと思ったぁー。ばっかじゃないのグッバイ? アホなの? 死ぬの?」


「ふん、わかってないなハロー。そいつを人質にして交渉するんだよ」


「交渉? なにそれ」


「――<組織>の解体と引き換えに、なんて言ったらどうする?」


「……ばっかでー」


「笑うなよ、ハロー。さっさと行くぞ。夜が明けるまでには、尻尾を掴み取るぐらいの覚悟でな」


「迷子の探索ってところかい? はぁ……いいよ、気がすむまで付き合ってあげるさ。<爆弾魔>さん」


「誰が<爆弾魔>だっ!」


「えっ」






   ◇◇◇◇◇







「……助けていただいて、どうもありがとうございました」



 暗い小道にひっそりと隠れながら、僕のとなりで女の子はそういった。あいまいな返事をして、右手を軽く振ってみせる。……ていうか、どっちかといえば僕って嫌われる側じゃないの? まさか人を浮かせてお礼がもらえるなんて思いもしてなかった。閑話休題。

 さきほどの壁昇りが上手くいったおかげで、僕らは追ってくる人たちをかろうじて撒くことに成功した。ただ、またうろつきでもしてたらいつ見つかるか分かったもんじゃないし、さっきのちょっとした運動(……ちょっとした?)で僕の体力も女の子の気力もだいぶ沈んでいたので、身を潜めて様子をみることにした。できたら夜が明ける前にどこか遠くまで行っておきたいけど……それもなかなか、難しい。


 お日様が出てるときが、ここでは一番危ないんだよ。


 この世界には、恥も外聞もないから。


 真っ昼間から暴れたって、なんら問題はないんだよねぇ。






 女の子の名前は、エイルというらしい。このときになって初めて、僕はこの子の名前すら知らずに助けようとしてたんだ、ということをようやく思い出した。

「僕は、ダーウィー。……なんていうか、すっごくいまさらだけど。どうぞよろしくね」

 エイルの目の前に手を差し出すと、素直に握手をしてくれた。小さくて冷たい手が、どこか印象的だった。

「えーと、ちょっとだけ、聞きづらいんだけど。君はなんであそこにいたの?」

「…………」

 とりあえず場をつなげようと質問してみたんだけど、なんだか逆効果だったらしい。ただでさえ笑顔のかけらもなかったエイルの顔が、みるみるうちに暗くなっていく。やばい、早く持ちなおさないと。

「い、いや、答えたくないなら答えなくてもいいから、ねっ? ほんとにちょっと気になっただけっていうか、野次馬根性を無駄に発揮しちゃったっていうか……」

 ……ってなに言ってんの僕。持ち直すどころかさらに突き落としてる気がしてきた。

 僕がおどおどしていると、エイルはため息をついて、律儀に答えてくれた。

「逃げて、いたんです。あの人たちから」

「逃げる、って……なんで?」

「…………」

 質問を返すと、エイルはまた顔をうつむかせて黙ってしまった。……うーむ、どうしたらいいんだろ。

 そして沈黙。またもや、気まずい空気に。

 どうしよう、また何か言ってみるかな……いやでも、ついさっき失敗したばっかだし、ここはもうエイルから喋りだすのを待つしか……ああ、いやいや、そんなことしてる内にまた見つかっちゃったらどうすんのさ、僕!? もー頭悪いなぁ!

 軽く自己嫌悪に陥りながらも、なんとか場を立て直すために必死に対策を考える。

 ……答え、出ねぇー。



「……あの」

「へっ? あ、はいはい! どしたのっ!?」

「ちょっ、しっ! 大きな声出さないでくださいっ、見つかっちゃうじゃないですかっ!」

 小声で怒鳴られた。……仕方ないじゃん、いきなり話しかけられてびっくりしたんだから……。

「そ、それで? どうしたの?」

「一つだけ、言っておきたいことがあって」

「言っておきたいこと?」

 こくん、とエイルはうなずく。それから少し考えるような仕草をして、こう言った。

「その……私が追われている理由は、今すぐには、話せません。でももし、私の目的が達成できたら、その時にはちゃんと言います。これで、いいですか?」

 エイルは上目遣いで、僕の顔をうかがってくる。……ふむ、なるほど。

 たしかに、はっきりとした理由もなしに守ってくれなんていうのはおこがましいことだろうし、エイルもそのあたりを承知して頼んでいるのだろう。すごい礼儀正しいなぁ、この子。



 でもまぁ、あいにく僕には必要のない断り、といいますか。

 首突っ込んじゃったからには、最後までやり遂げないとね。

 ……と、亡くなった僕の父が言っておりました。ははぁ。こういうのを世襲と……言わないですかそうですか。


 それなら、教訓ってことで妥協しよう。



「いいよ。――その目的とやらが上手くいくまで、何も聞かないでおく」

「ありがとう、ございます……」

「ただしっ!」

「え?」

 僕の突然のさえぎりに(出来るだけ小声にした。伝わりづらいかもだけど)、エイルは大きい目を丸くして僕の顔を見つめた。うぅむ、改めて見るとなかなかかわいいな、この子。



 おかげでなんとか、踏ん切りつけられそう。




「――それまでは、何があっても絶対に僕に守られること。いいね?」




「……はぁ」

 広がっていたエイルの目が、徐々に細められていく。僕から目をそらすと、ものすごく小さな声でこう呟いた。




「……なんだ、ロリコンか」



 ちょっちょーい。






「あ、銃向けるのも禁止ね」

「えっ」

「え、嫌なの!? まじで!?」



 ……なんか、ものすごい爆弾を抱えてしまった。ぱんぱかぱーん。

 嬉しくないわ。



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