r-what #4
「Ready?」
「Yeah. Please call number」
「1-2-1」
「Really?」
「Oops,it's wrong. delete please」
「O.K. Please new one」
「1-3-2」
「Well...oh,nice number. Let's get it started!」
「Wait. We'll count 5」
「Sure」
「So--good luck,"Hallo the Ripper"」
「I hope your funky attack,"Goodbye the Breaker"」
「Hahaha,that's a joke!」
「hmm... Can I give you hurt?」
「...O.K,I'm sorry. Let's start--」
「--five--」
「--four--」
「--three--」
「--two--」
「--one--」
『 --Hallo and Goodbye, "Mr.unknown"-- 』
◇◇◇◇◇
ガラス窓に反射して映るクロマの顔は、正直言って結構怖かった。
凝視してる。斜め下に広がる街の隅々から隅々まで。たとえ蟻一匹でさえ、絶対に逃しはしない――そんな黒い思念が、クロマの鋭い目つきにはくっきりと表れている。
ついさっき、グッバイ君がわざと起こした爆音作戦(僕がかってに名前つけた)によって、街に残っていたたくさんの<庶民>たちが爆心地のあたりを囲うようにして集まっていた。クロマはその集まりには目もくれず、ただぎょろぎょろとその怨念強い目玉を動かして、刺客の<七賢者>の姿を懸命に探している。
……あー、暇だなー。
「貴様も探せっ!」
「あだっ!」なんか投げつけられた!
うーむ……しかし、探せと言われてもなぁ。
僕はクロマほど目がいいわけじゃないし、正直無駄足のような気がしてならない。唯一誇れることといえば気配をある程度察知できることぐらいのものだから、こんな高いビルの最上階なんかにいる限りそれを察知することはほぼ不可能だから、いくらその力を発揮したところでどうしようもないしなぁ……。
改めて、僕はクロマの方を見る。頭の上から足の先まで、焦げ茶色のローブに覆われたクロマは傍からみればただの変人だ。……うおいなんか睨まれた。事実なのに。
「貴様……私の姿がそんなに変か?」
「い、いえいえー……」
さっきまで酷使していた眉間のシワをより一層深くしたクロマは、優しい口調で僕に警告を投げかけた。……おーこわいこわい。僕は思わず目をそらしてしまう。
クロマはまた顔を元に戻し、<七賢者>の姿を探し始める。はやく見つかるといいけどなぁ……あ、僕も探せって言いたいのね。わかるよわかる。でも探さない。めんどいからにゃあ。
――はやく、終わってほしいな。こんな戦いも、こんな世界も。
独りぼそっと呟いて、僕は床に転がった砂利を遠慮なく蹴り飛ばしてみるのだった。
……って、ちょっとまって。
「――?」
……あ、れ? なんだ、これ?
「――――」
――気配、気配だ。何かが来てる。
僕らのところまで、すぐそこまで。
壁一枚。手が届くぐらい近くに、たしかに。
「――――」
どこだ? どこかにいる。
敵はどこかにいる。でもみつからない。
どこにもいない。いや、違う。いるんだ、でもみつからない。
「――――」
――見つけろ、見つけるんだ、ダーウィー!
クロマはまだ窓の外に目を向けている。どこだ?
敵はどこにいる?
近くだ。ものすごく近く。すぐにでも動かなければ、対処できない。
どっちだ、どっちだ――?
「――!」
光った。
壁の一部。崩れに崩れてぽっかりと開いた、ほんの少しの穴。
たしかに光った。でも、なにが?
あの中には、一体何がある?
「――クロマァッ!」
僕は駆けだした。
◇◇◇◇◇
「――うあっ――」
突然の出来事に、私は反射で声を出してしまった。
「な、なん、だ……?」
閉じてしまった目を開けると――目の前には、一面真っ白な、不可解な情景があらわれた。
――ここはどこだ?
体が軽い。着ているローブの重さは少しも感じなくなっている。
瞳や口に飛び込んでくる、霧雨のような何か。じんわりと、周りを包んでいるように見えた。
重力が消えているような奇妙な感覚が、私の全身を一気に襲う。
「ダ、ダーウィー……!」
まずい、これは敵の能力なのか……!?
はやく逃げなければ。でないとまずい。このままでは――
「――動かないで」
「――! き、貴様……?」
私を後ろから抱えるようにして、ダーウィーは真剣な面持ちのまま前へと――いや、下へと進んでいく。
滑らかに、白い空気が肌の上を通過していく。涼しさもなく、ぬるさもなく。
海のような空のような、何も見えない空間の中をダーウィーはただずっと進んでいく。
潜水するかのように、霧の深い深いところまで。
「どっ、どういうことだ、これは! 敵のしわざなのか!?」
興奮気味にそう聞くと、ダーウィーは冷静に「しっ」と私に沈黙を求めた。仕方なく口を閉じ、ダーウィーの言葉を待つ。
「……じっとしてて。すぐに終わるから」
――その返答で、これがダーウィーの能力だということを私はようやく理解した。後ろ髪にかかるダーウィーの体温が、妙に鮮明に感じられた。
「あんまり使いたくないんだけどね……これやった後は、喉がからからでどうしようもなくなるから。でも、贅沢も言ってられない。すぐに行かなきゃ、間に合わない」
「行くって……どこへだ?」
「決まってるだろ。ハロー君とグッバイ君のところさ」
そういって、ダーウィーはさらに自分の体を私ごと前へ倒し、より速く無重力の霧の中を急降下していく。
真っ白い霧の世界。そうか、これが――<蜃気楼>たる所以、か。
――あんまり使いたくないんだけどね……これやった後は、喉がからからでどうしようもなくなるから。
体の中の水分を出来るだけ大量に気化させ、凝縮し――空間に『霧の海』を作り上げ、流れを調節し、泳ぐ。
そしてなおかつ、外からはその光景を決して見ることはできない。なぜなら、
何億何兆もの水蒸気の鏡が、『霧の海』を渡るダーウィーのもとに届く光をすべて遮断しているからだ。
(……やはり、あなどれない)
じっと前を見据えるダーウィーの視線の先に、はたして何が映っているのか。
海の出口は、すぐそこまで迫っていた。
◇◇◇◇◇
「――グッバイ!」
『右斜め後方下! 銃だ、急げ!』
「おーけー……! それぇっ!」
『――よしっ、命中だっ! 次は右に一機、右前に二機! 右前左側が一番速い、優先だ! 上から弾が――あと五秒!』
「任せろっ! はっ……たぁっ!」
『――右前二機消滅!』
「何秒!?」
『二秒だ! ――よし、右一機消滅! いけっ!』
「――スロウッ!」
『……ハッハーァ! 空撃成功ッ、上出来だハロー! 爆弾解除、半径レベルC! 三、二、一、――』
「――うわっぷ! あー、あっぶなっ……! 次は!?」
『後方に反応あり! だがまだ遠いな……とりあえずゼロ地点に戻れ!』
「おーけい! 仰せのままにっ!」
『気を抜くなよ、ハロー! オンボロ機械ごときにやられやがったらぶっ殺す!』
「それはこっちの台詞だっ、ばーかっ! きゃははははははっ!」
『おい、来るぞっ――前方三機、銃だ!』
「暇だねこいつら――とっ、ほぁっ、たぁっ!」
『狙い完璧、焦点差なし――ビンゴォ! ゼロ地点付近、全機反応消滅!』
「いやっはぁっ!」
『――そのまま待機だ! 敵はすぐそこだぞ、油断するなよっ!』
「言われなくても、そのつもりだっつーのっ!」
◇◇◇◇◇
<七賢者>の一人、<憤怒>。
「うわさには聞いてたけど、だいたい情報通りの奴みたいだ。<憤怒>は機械を使って、ハローとグッバイに攻撃をしかけてる。自分自身は絶対に姿をださないつもりなんだろう。厄介だ……」
キーボードをせわしなく叩きながら、レコードさんは独りごとのようにそう言った。
――レコードさんの能力は、『情報を完全に把握すること』。
音や映像といった情報からあらゆるものを抜き出し、敵の居場所、特技、弱点などを事細かに暴いていく能力。
地道でありながら、しかし決して無計算ではない。執拗なまでに、貪欲な能力である。
さきほどからずっとレコードさんが書き続けているのは、電気信号――スピーカーから出る、音だ。
レコードさんの打ち込んだ音は、声となってグッバイ君の耳まで届けられる。どこに何があるのか、敵がどう攻めてきているのか――存在するすべての事実を打ち込み、音声化して、送る。
グッバイ君は状況を見ながらその情報を整理し、ハロー君に通信する。無駄のない必要な事実だけが組み合わされた二人の通信は、流れるように綺麗に私の鼓膜を揺さぶっていた。
――この二人の実力が、こんなにもすごいものだったなんて。
日ごろからどうなのかはわからないが、レコードさんの協力で少なくとも今まで以上にやれていることはおそらくたしかだろう。
「エイルちゃん、<七賢者>の音は聞こえたかい?」
二人の戦いがひと段落するのと同時に、レコードさんは突然話しかけてきた。
「いえ、まだ何も……ていうか、いつからちゃん付けになったんですか?」
「いやだって、あの名前で呼ばれるの嫌だって言ったからさ……」
ぶつぶつと嫌みのように呟くレコードさんを少々恨めしく思ったが、気にせず神経を集中させることにした。
――聞いたことのない音。聞こえないぐらいのわずかな音。
なんでもいい。たった一つでいいのだ。それですべてが分かる。
音は波紋を呼ぶ。水たまりに波紋ができたなら、そこには必ず誰かが、もしくは何かがいたに違いないのだ。
探すしかない。尻尾をつかむまで、休んでなんていられない。
「……レイ、さん……」
うわごとのように呟いたその言葉を、私は再び脳の中で反芻するのだった。




