r-what #2
「<七賢者>というのは、言うなれば<組織>の中枢だ」
怪しげな雰囲気の建物の中、僕は赤く光る電球の光に見とれていた。
「一般的に、<組織>のトップといえば『シドー=ミラヴァルザ』の名が挙げられる。<楽園喰>という呼び名で地下では昔から有名な殺し屋だから、お前も知っているだろう? もちろんこの男が<組織>全体を取り仕切ってはいるが、実際に<組織>がああいった形で活動を続けていられるのは<七賢者>の存在が大きな原因だといえよう。<組織>を影から操る人形師、それが<七賢者>だ……って貴様、聞いてるのか?」
「えっ? あ、うん。聞いてた聞いてた。それでなんだっけ?」
「…………」
すっごい睨まれてる。ごめんなさい、五秒前の僕が謝罪します。
<正義>に所属している一人、<魂術士>クロネ=クロマの家の中はまるで研究所のような様相だった。どちらかといえば西洋風な感じで、木の茶色がそこら中にいやと言うほど散りばめられている。光の少ない電球のせいか、はたまたクロマの独特の雰囲気のせいか、部屋全体は妙に薄暗くて正直怖い。
今すぐにでも逃げたくなるような、そんな場所です。
以上、わたくし<蜃気楼>ことダーウィーがお送りしました。
「聞・い・て・る・の・か!?」
「うわぁごめんなさいっ!」
大声で叫ばないでっ! ただでさえ心臓弱いんだから!
「ったく、貴様本当に<組織>の幹部だったのかっ!? たしかに<七賢者>の存在はごく限られた人間しか知らないとはいえ……幹部ともあろう者が知らないなど愚の骨頂だっ! 下っ端から出直してこい!」
「えぇっ、そんなぁ! 違うよ、なんとなーく聞いてはいたよそういうの……えーと、七福神だっけ?」
「裂くぞ」
「ごめんなさいやめてください」僕はチーズじゃないです。
「まったく……。まあ、無理はないか……どうせ幹部会議なんかがあった時でも、<蜃気楼>らしく逃げ回ってたんじゃないのか? ん? 違うか?」
「うぐっ……!」
非常に悔しいことながら、現実はその通りだった。
もともと、僕が<組織>に入ったのは単なる偶然にすぎなかったから、僕自身あんまり<組織>には肩入れしてない……と言いますか。
ていうか単純にめんどいです。集団嫌い。
「まあいい。そもそも私が貴様を呼んだ理由は他にあるからな……これを見ろ」
そういってクロマが差し出してきたのは、小型の機械のようなものだった。
表面にいくつかのボタンがあり、表面はつやつやとしていい具合に光をはねかえしている。色は黒みのかかった青色といったところだろうか。個人的に好きな色合いだ。……あ、僕の好みはどうでもいいですね。
「これって……なに?」
「やはりこれも聞いていなかったか。まあ仕方ない、これは三人しか渡されていないからな」
指先で円盤のようにくるっと回しながら、クロマはそう続ける。
「これは連絡用の端末だ。定期的にこの端末に<番犬>からの連絡が入るようになっている。しばらくは、この端末を利用して少人数編成で活動する予定らしい」
「……? え、つまりどういうこと?」
「貴様は相変わらず飲み込みが悪いな……。つまり、これからしばらくは、私と貴様の二人で一緒に行動するということだ。わかったか?」
「わかったけど、すっごい嫌!」
「やっぱり裂いていいか」
「やめてください」見逃してください。
えー……なんでこんな作戦にしたんだよぅ、レイー。
◇◇◇◇◇
「……ぶぇっくしゅぁっ!」
「風邪ですか?」
「んや……なぁんか誰かに文句言われた気がしてよ……幻聴かな」
鼻をだらしなく垂らしながら服のポケットをまさぐるレイさんの姿は……なんというか、すごくもったいなかった。
あの広場で見たツナギ姿ほどではないものの、服装はほとんど黒一色に近い。私服というのにも正直程遠く、ポケットが大量についた作業服の上下セットを難なく着こなしている。要するに、似合ってはいるのだが――やはり、その乱暴な仕草の一つ一つがもったいない。
――もっと静かにしてたら、すごく綺麗な人なのになぁ。
<監視役>として接していた頃から感じていたけど、改めて見ているとそんな気持ちがさらに湧き上がってくる。
「ん? なんだよエイル。俺の顔になんかついてっか?」
「ええまあ……」鼻水とか。
「まじかよ……なあ、ちっとティッシュ貸してくんねーかな。探したけど全然なくてよ。あー、寒ぃ寒ぃ」
小型のバッグ(道で拾った)の中身を探ってティッシュを差し出すと、「おう」とお礼なのか何なのかわからないような声を上げて、私からティッシュを奪うように取ってからレイさんは鼻をかんだ。これもいつも通り。私たちの間では、ごく自然なやりとりに過ぎない。
私たちが歩いているのは、ちょっとしたスラム街のような場所だ。……まあ、言ってしまえば『零れ落ちた楽園』なんてスラム街の集まりにすぎないのだけど。先日の新勢力騒ぎのおかげか、今はあまり人気がない。
私とレイさんは、これからレコードさんの隠れ家へ行こうとしていた。<正義>の作戦にかかわる、とある理由で。
「ところで、レイさん」
「んあー?」
間延びした声で返事をするレイさんに、私は少し真剣な声色で問いかけてみた。
「今回の作戦――少人数編成にするっていうあれなんですけど」
「おう。なんだ、不満か?」
「いえ、不満というわけではないんですが……」
グループ分けが決められてから、正直疑問には思っていたこと。
「――どうして、私とレコードさんを組ませたんです?」
<監視役>の私と、<情報屋>のレコードさん。
両方とも、前線へ行くという点では、正直戦力が足りていないように感じるが……。
「はっは、心配すんな。俺の目的通りだ」
「目的通り、って……どういうことです?」
「そのまんまだよ。つまり――『役割分担』だ」
『役割分担』。その単語を聞いて、私はようやくこのグループわけについて納得した。
前線を担当するのは、<切裂魔>ハロー君と<爆弾魔>グッバイ君の二人。
中間――主に、前述した二人の戦いの援護に回る役目が、<蜃気楼>ダーウィーさんと<魂術士>クロネ=クロマさん。
そして、そんな戦闘担当の人たちを情報を使って護衛するのが、私と<情報屋>レコードさん、というわけだ。
……なるほど。レイさんらしい、上手くできたチームわけだと言える。
「ま、お前とレコードなら何とかやれんだろ……あいつは別にロリコンじゃねえから心配すんな?」
「……そんな心配はしてませんが」
まあたしかに、一種の恐怖心があるのは否定しない。
今までほとんど姿を現すことのなかったあの<情報屋>と一緒に組むなんて、何が起こるか知れたものではないからだ。……そういう点ではレイさんも似たようなものだったりするけど、まあそれとこれとは別ということで。
「ほら、ここだ」
レイさんの言葉に顔を上げると、目の前の壁にはエレベーターに似たようなものが奇妙な形で埋め込まれていた。
「なんていうか、あからさまですね……隠したりしないんですか?」
「わざわざ隠さなくても、こんな薄気味わりぃとこに進んで入るような命知らずはいねーだろ」
たしかにその通りだったので、妙に納得してしまった。木を隠すなら森の中というけれど、ある意味それに近いのかもしれない。この世界だからこそ、目立たなくなるという利点。隠れる側にとって、これほど楽なものもないだろう。
「ま、あとはお前次第だ……あいつは終始パソコンと向かいあってるような野郎だから無理して話しかけたりしなくてもいいぜ。返事ぐらいはすっから、場が持たないと思ったら質問しまくってやれ」
「はぁ……」それはむしろ迷惑な気が。
「じゃ、俺はもう行くぜ。がんばれよ」
「あ、はい。ありがとうございました」
颯爽とした動きでレイさんはその場を去っていく。……うん、後姿もすごくかっこいい。
「――さて、と」
ついに――作戦が始まろうとしてる、のかな。
これから起こることへの不安で、私の胸はいっぱいになっていた。




