justice #9
…………。
…………。
……ああ。
「新勢力……か」
僕はキーボードを打つ手を止めて、目の前のディスプレイを見るともなく見る。
新勢力。<番犬>はそう言っていた。
――この世界はゴミだ。だから俺らで粛清してやろうぜ。なぁ?
――偶然だろうがなんだろうが、せっかくこんだけ集まったんだ。
――こうでもしねぇと損だろ? けけけっ。
「……なにを、考えてる?」
<番犬>は一体、何をしようとしているんだ?
地下と地上をつなぐ門を守る、唯一無二の存在。
ときに<組織>を越える、そんな怖ろしい脅威。
その<番犬>が――この世界を、<組織>を滅ぼそうとしている。
<組織>が独裁するこの世界を、すべて壊そうとしているのだ。
「…………」
キーボードの上に手を置く。何も打たない。ただ置いておくだけだ。
あの公園で<番犬>が言った、最後の命令を頭の中でくりかえす。
――おいレコード。この情報、地下全部に流せ。お前ならそれぐらい出来んだろ?
――あぁ、全部だよ。<組織>だろうがチンピラだろうが誰でもいい。とにかく全員に、必ず流せ。いいな?
「なにを考えてる?」
<番犬>。お前は一体何を考えてる?
僕には考えもつかないようなことを、考えてるっていうのか?
だったら僕は――今はただ、お前の言うことに従うしかない。
「僕の力をなめるなよ……この程度の情報、一日もすれば常識にすりかわってるさ」
僕はゆっくりと、そして確実にキーボードを打ち始める。
部屋の中は、いつだって暗闇だ。
◇◇◇◇◇
「――嫌いじゃないな、俺は」
「はぁ? ちょっとぉグッバイ、正気?」
「ああ。もう吐き気も治った。健康体どころの騒ぎじゃないぞ」
「へぇ……じゃあ脳が危ないのか」
「殴るぞ」
「やめてー」
「ったく……ハロー、お前の軽口はたまに刺さるからやめろと言ってるだろう」
「いいじゃん別にー。勝手に飛び出しちゃうんだもん」
「口の中に油流し込んで針と糸で縫い合わせてやろうか」
「じゃあ僕はグッバイの両目を打って針と糸で縫うよ?」
「……やめるか」
「そだね……このままだと、二人とも耳を棒で突かれて鼓膜破られる可能性大だし」
「んで、ハロー。お前はどうするんだ?」
「どうするったって……どうしよう?」
「俺は<番犬>についていく。こんなチャンス滅多にないしな」
「んー、そういや結局、脱走者を捕まえるみたいな話はどうなったの?」
「あれはもう無理だろう。素性がわかってはいるが……あのダーウィーとかいう奴、ただものじゃない」
「えぇ? 僕には普通のお兄さんにしか見えなかったけど」
「……お前、奴のコードネーム知らないのか?」
「コードネーム? 何?」
「<蜃気楼>」
「へえ……そりゃまた、十四歳ごろの人がつけそうな名前だね」
「言っとくが冗談抜きだ。奴を捕まえるなんて不可能に等しい……それに、こっちにはすでに<番犬>がいるんだ。わざわざそんな面倒なことをしなくても、<組織>とは十分戦える」
「なぁんか、僕にはよくわかんないな……。利用されてる感じがしてさ。好きじゃないよ、こーゆーの」
「それならそれでいい。だが俺は行く」
「ふんっ、グッバイったら気取っちゃってるーう。――まあいいや。僕もやるよ、この世界への粛清? ってやつをさ」
「よし。それでこそ、運命共同体だな」
「恥ずかしいこと言っちゃってどうすんのっ! へへへっ」
「……おっと、腹が減ったな」
「僕の顔をお食べ」
「カニバリから離れろハロー」
「いてっ」
◇◇◇◇◇
悪くない提案だ。私は空に独り呟く。
この世界を――『零れ落ちた楽園』を、崩す。なんと素敵なことだろう?
<番犬>は嫌いだ。だが、この世界はもっと嫌いだ。
悪くない。ああ、実に。
脳裏に、悪魔の双子のことを思い浮かべる。
『『――おねーちゃん、みぃつけたっ』』
私は笑う。今ならまだ、笑える。
ついにこのときが来た。
粛清――<番犬>は、あの女はそう言っていた。世界を壊し、崩し、すべてを平等にするのだと。
正義をもって、悪を制すのだと。
ならば、これもまた粛清。
これもまた正義に、他ならない。
忌まわしき過去を八つ裂きにして、もう二度と戻らないように。
これは粛清だ。
「――待っていろ。ロット=セルヴ、ロット=ヘルズ」
今度こそ――すべてを無にかえしてみせる。
怠惰にとどまるのは――もう、終わりだ。
◇◇◇◇◇
エイルとダーウィーと<番犬>、レイ――。
彼ら三人があの公園での一件の後にどこへ行ったのかは、ここではさほど問題ではない。
彼らはみな思い思いの場所へ行き、思い思いの時間を過ごした。そう、たったそれだけだ。
そこで交わされた会話や約束は、ここではさほど問題ではない。
――たった一つのことを除いて、彼らが何をしていたのかを知る必要はどこにもない。
だからここではあえて――そのたった一つの情報を、傍観者に向けて公開することにする。
すべての始まりを――これから始まるであろう戦いの火蓋を切った、その出来事だけを。
「…………」
『――――』
「…………」
『――プツッ』
「…………」
『――もしもし』
「シドーか。俺だ」
『……レイか?』
「おう。もうそっちに情報いってんのか?」
『情報……<正義>の話か』
「そーそー。なんだよ、レコードの奴案外いい仕事してんじゃねぇか。見直したな。昔とは大違いだ、けけっ」
『それで? こんなわけのわからない新勢力とやらを作って、一体どうするつもりだ?』
「決まってんだろ? お前らをぶっ潰すのさ」
『……相変わらずだな、レイ』
「おうおう、俺はいつだって自然体だからなぁ。んで、これからどーすんだシドー?」
『さぁて……どうなるかな。決めるのは私ではない』
「――ははぁん。<七賢者>か。まぁだケツに敷かれてんのか? かかかっ、めでてぇこったな!」
『なんとでも言うがいい。君の軽口などもはや慣れている』
「けっ、つまんねー野郎だ。まぁ俺からはもう用はねーよ。なんか捨て台詞でもあるか? シドー」
『ああ……それなら一つだけ、良いか?』
「おう、言ってみろ」
『――私の愛する者よ。私はこの地で、君を殺す。それまでは、せいぜい死んでくれるなよ』
「ははっ、うっぜー」
◇◇◇◇◇
<正義>は動き出す。
戦いは、<憤怒>へと。→
どうもこんちは。作者の暇 隣人です。
これでようやく「justice」も終わり、次回からようやく新パートの「r-What」の方に入れそうです。
……いやこれ即興なんで、途中すっごい適当ですけどっ。
やはり長編を即興で書くのは非常に難しいです。いまさらながらお悔やみ。
まあそんなグダグダ小説ですが、もしここまでの展開を楽しんでいただけたのなら幸いです。
ここまではまだ序章に過ぎません。(何
さて、<組織>に立ち向かう新勢力である<正義>が結成され、ついにいろいろなものが動き出します。
<七賢者>とは一体なんなのか?
ダーウィーと<番犬>の関係は?
様々な謎を残し、そして拾いきれるか心配している暇ではありますが(爆)
気に入ってくださった方は、ぜひ最後までお付き合いくださいませ。
暇 隣人でした。
あ、来週ちょっと休みます……すみません←




