追走の秋③(完)
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
浩一がずっと心に引っかかっていた2つのこと。
そのうちの1つは、敦っちゃんの通うキャンパスで密かに「さよなら」を告げたことで、完全にすっきりとはいかないものの、胸の中のモヤモヤは少しずつ晴れつつあった。
そして、もう1つの課題——それは「家庭の事情」だった。
「お母さんを助けてあげて」という叔母の言葉。
担任の沖田先生から託された1通の封筒と、「間接的に伝えたから空気を読め」という謎めいた助言。
そして、その手紙を読んだ母の深いため息。
自分が家族に負担をかけている現実は、痛いほど理解していた。毎月の小遣いは貰わず、夏休みの焼肉店でのバイト代からやりくりしていたが、それもそろそろ底をつきかけている。
冬休みもバイトをしなければ——。
浩一はさっそくアルバイト情報誌を買い求め、ページをめくった。高校生可の求人は数が少ないうえに競争率が高いため、早めに行動を起こす必要があった。
そんな中、目に留まったのが地元スーパーマーケットの募集だった。
時給も悪くなく、何より自宅から徒歩10分という好条件だ。すぐに電話をかけ、面接の約束を取り付けた。
◇
迎えた面接当日。
店の奥にある応接室へ通され、店長との一対一の面接が始まった。
「川野くんは高校1年生で、16歳になったばかりだね」
「はい。I高校に通っています。9月に16歳になりました」
「I高校といえば、野球が強い学校だよね」
「ご存知なんですか?」
「私も高校まで野球をやっていたからね。川野くんは野球をやっていたの?」
「少年野球と中学の野球部でやっていましたが……高校ではレベルの違いを感じて諦めました」
「そうだったのか。でも、野球で鍛えた体力と精神力は、いくつになっても君の財産になるよ」
「はい!」
「ところで川野くん、原付(原動機付自転車)の免許は持っているかな?」
「いいえ、持っていません」
「そうか……実はうちのスーパー、地元の飲食店への食材配達もやっているんだよ。だから配達のために原付免許が必須条件でね」
「あの……自転車ではダメでしょうか?」
「配達先が少し離れているからね……。残念だけど、今回は採用を見送らせてもらうよ」
「分かりました。……原付の免許を取った時には、またよろしくお願いします!」
「はは、川野くんは前向きで素晴らしいね。本当は君みたいな熱意のある人に来てほしいんだけどなぁ……」
「ありがとうございました!」
◇
不採用という現実の厳しさに直面した浩一だったが、そこで落ち込んでいる暇はなかった。
すぐに次の求人を探し、程なくして大手スーパーマーケットで12月25日から大晦日までの短期間アルバイトに滑り込みで採用が決まった。
これで当面の小遣いは確保できるし、妹たちにもちょっとしたお年玉を渡してあげられそうだ。
ほっと胸を撫でおろした浩一だったが、息をつく暇もなく、次なる試練——「期末テスト」の足音が刻一刻と迫っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
初恋に決着をつけた浩一が向き合うのは、家庭の事情と冬休みのバイト探しという「15歳の現実」。
面接で不採用になりながらも、「原付を取ったらお願いします!」と前を向く浩一のたくましさに、たくましく成長した姿を感じますね。
自分の小遣いだけでなく、「妹たちにお年玉をあげたい」という優しさに胸が熱くなります。
無事に冬の短期バイトも決まり、一安心……と思いきや、容赦なく迫り来る期末テスト!
浩一の高校生活はまだまだ大忙しのようです。




