表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
何のための嘘  作者: 大きい橋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/12

第六話 信じたい


放課後の廊下は、部活に向かう生徒たちで混雑していた。

運動部の掛け声、階段を駆け下りる足音、友達同士の笑い声。色々な音が混ざり合って、学校は一日の終わりに向かって騒がしくなっていく。


俺は教室の窓際の席に座ったまま、ぼんやり外を見ていた。


校庭ではサッカー部が練習を始めている。

夕方の光が、芝生を少しだけ赤く染めていた。


「春人」


声がして振り向く。


悠真だった。


「帰らないのか」


「もうちょっとしたら」


「ふーん」


悠真は俺の机の横に立つ。


カバンを肩にかけ、いつもの軽い表情をしていた。


「俺、先帰るわ」


「バイトか」


「そう」


悠真は笑う。


「今日ちょっと忙しいらしい」


俺はうなずいた。


「頑張れよ」


「おう」


悠真は手を軽く挙げる。


「じゃあな」


「また明日」


教室のドアが閉まる。


悠真の足音が廊下の向こうへ消えていく。


俺はしばらくそのまま座っていた。


頭の中で、昨日のことを思い出していた。


屋上。


大輝の話。


ゲーセン。


バイト。


七時まで。


言葉が、頭の中でぐるぐる回る。


もし。


もし本当にバイトが嘘だったら。


でも。


そんなこと、あるだろうか。


悠真は、嘘をつく。


それは知っている。


でも。


それはいつも、小さな嘘だった。


テストの点数とか。


どうでもいい自慢とか。


そういうものばかりだった。


バイトなんて。


そんな大きな嘘をつく理由があるだろうか。


俺は頭を振る。


考えすぎだ。


きっと本当だ。


そう思おうとする。


でも、心のどこかが納得していない。


それが自分でもわかっていた。



---


家に帰る途中、俺は駅前を通った。


夕方の駅前は人が多い。

学校帰りの学生、仕事帰りの大人、買い物帰りの人たち。


その人混みの中を歩いていると、ふと視界の端に見覚えのある背中が映った。


俺は思わず足を止めた。


悠真だった。


駅前のゲームセンターの入り口。


そこに立っていた。


制服のまま。


中から聞こえてくる電子音。


ゲームの音楽。


笑い声。


悠真は自動ドアをくぐり、中へ入っていく。


俺は動けなかった。


頭の中が、少しだけ真っ白になる。


バイト。


今日もあるって言っていた。


忙しいって。


そう言っていた。


なのに。


悠真は今、ゲーセンに入っていった。


俺はしばらくその場に立っていた。


胸の奥で、何かがゆっくり沈んでいく感覚があった。


でも。


俺は結局、何もしなかった。


声をかけることも。


追いかけることも。


ただ、その場を通り過ぎた。


家に向かって歩きながら、考える。


もしかしたら。


まだバイトの時間じゃないのかもしれない。


少しだけ寄っただけかもしれない。


そう考えることもできる。


できるはずだった。


でも。


さっき見た光景は、頭から離れなかった。


悠真の背中。


ゲーセンの入り口。


何の迷いもなく中に入っていく姿。


その歩き方は。


バイトに向かう途中の人間には見えなかった。



---


次の日の朝。


教室に入ると、悠真はもう席に座っていた。


スマホを見ながら、何か笑っている。


「おはよう」


俺が言うと、悠真は顔を上げた。


「おはよ」


いつもの笑顔。


昨日と同じ。


何も変わっていない。


「昨日どうだった」


俺はなるべく普通の声で聞いた。


「忙しかった」


悠真は言う。


「人多くてさ」


俺はうなずく。


「大変そうだな」


「慣れれば楽」


悠真は笑う。


その顔を見ながら、俺は思った。


俺は今。


嘘を聞いているのかもしれない。


でも。


それでも。


心のどこかで思っていた。


違っていてほしい。


俺の見間違いであってほしい。


ただの勘違いであってほしい。


親友だから。


ずっと一緒にいたから。


だから。


まだ、信じたかった。


たとえ。


その言葉が嘘かもしれなくても。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ