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何のための嘘  作者: 大きい橋


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第四話 小さなほころび


英語の授業が終わったあとも、俺の胸の奥には小さな重さが残っていた。


たいしたことじゃない。

ただ課題をかばっただけ。


それだけのはずだった。


でも、ノートを閉じるとき、ふと気づいた。


俺の手は少しだけ汗ばんでいた。


「春人」


隣から声がした。


悠真だった。


「帰ろうぜ」


まるでさっきの出来事なんてなかったみたいに、いつもの調子で言う。


「……ああ」


俺はカバンを持ち上げた。


教室を出ると、廊下は部活に向かう生徒で混雑していた。

階段を降りながら、悠真はスマホをいじっている。


「今日さ」


悠真が言う。


「バイトの面接」


「昨日言ってたやつか」


「そう」


駅前のカフェ。


昨日、屋上で聞いた話だ。


「何時から?」


「五時」


「もうすぐじゃん」


「余裕」


悠真は笑う。


「俺、人当たりいいし」


その言葉に、俺は少しだけ苦笑した。


それは確かに本当だった。


悠真は、誰とでもすぐ仲良くなれる。

クラスでも人気があるし、先生とも普通に話せる。


だから面接もきっと問題ない。


昇降口で靴を履き替える。


外に出ると、空は少し曇っていた。


「じゃあ俺、駅行くわ」


悠真が言う。


「頑張れよ」


「受かるわ」


そう言って、軽く手を振る。


俺はいつもの帰り道を歩き出した。


背中で悠真の足音が遠ざかる。


少しだけ振り返ると、悠真はすでに駅の方向へ歩いていた。


その背中を見ながら、俺はふと思う。


悠真の言葉。


どこまでが本当なんだろう。


そんな考えが頭をよぎった。


でもすぐに打ち消す。


考えすぎだ。


ただのバイトの面接。


それだけのことだ。



---


次の日の朝。


教室に入ると、悠真はすでに席に座っていた。


机に肘をつきながら、スマホを見ている。


「おはよう」


俺が言うと、悠真は顔を上げた。


「おはよ」


「面接どうだった」


悠真は少しだけ笑った。


「受かった」


「早いな」


「その場で決まった」


「すごいじゃん」


「まあな」


悠真は肩をすくめた。


「俺、接客向いてるらしい」


俺も笑う。


「いつから?」


「来週」


「いいな」


バイトを始めるやつは、クラスでも増えてきていた。

高校二年にもなると、みんな少しずつ大人の生活に近づいていく。


「カフェって忙しそうだな」


「楽そうだった」


悠真はスマホをポケットにしまう。


「コーヒー作るだけだし」


「そんな簡単か?」


「簡単」


その時、後ろから声がした。


「悠真」


振り向くと、クラスメイトの大輝だった。


「昨日駅前いたよな」


悠真は一瞬だけ目を細めた。


「いた」


「俺もいたんだけどさ」


大輝は言う。


「お前ゲーセンにいたろ」


教室の空気が、ほんの少しだけ変わった気がした。


俺は悠真を見る。


悠真は、ほんの一瞬だけ黙った。


でもすぐに笑った。


「あー」


軽く頭をかく。


「面接のあと」


「そうなの?」


「時間余ったから」


大輝は少し考えるような顔をした。


「俺が見たの六時くらいだけど」


「そう」


悠真はすぐに答える。


「面接早く終わった」


「へえ」


大輝はそれ以上何も言わなかった。


「じゃあな」


そう言って自分の席へ戻る。


俺は悠真の方を見る。


悠真はもう、普通の顔をしていた。


「ゲーセン行ったのか」


俺が言うと、悠真はうなずく。


「ちょっと」


「面接のあと?」


「うん」


答えるのが、やけに早かった。


俺は「そっか」とだけ言った。


でもその時、胸の奥にまた小さな違和感が生まれていた。


ほんの小さなもの。


まだ確信なんてない。


ただの気のせいかもしれない。


でも。


もし。


もしも。


面接が嘘だったとしたら。


そんな考えが、一瞬だけ頭をよぎる。


俺はすぐにその考えを振り払った。


悠真は親友だ。


そんなはずない。


きっと、本当だ。


きっと。


そう思いながらも。


その日から少しずつ、俺の中で何かが変わり始めていた。


まだ形にはならない。


けれど確かに。


小さなほころびみたいなものが。


俺たちの関係のどこかに、でき始めていた。

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